「私はほとんど何もしてない」

就任1年目でチームを優勝に導いた藤川監督
阪神が9月7日の
広島戦(甲子園)で2対0と完封勝利を飾り、2リーグ制以降で史上最速の優勝を飾った。試合後の優勝監督インタビューで、
藤川球児監督はこう語った。
「何が強かったかっていうことが皆様にまだ分からない、その辺りが本当の強さだと思いますから、地味に見えるゲーム、1対0のようなゲームをしっかり選手たちがコーチたちと連携を組んで、1つのアウトを取るために本当に見えないところでいろんなことをやってくれました。本当に周りの皆さんのおかげで今ここに立てていますから、私はほとんど何もしてないですね」
私はほとんど何もしてない――この言葉を鵜呑みにするファンはいないだろう。圧倒的な強さで首位を独走した戦いぶりには理由がある。特筆されるのは、藤川監督のマネジメント能力だ。主力のコンディションに気を配り、時には登録抹消することも。今年は主力選手の離脱がほとんど出なかったが、故障のリスクが高い状況を未然に防いだともいえる。日本記録の48試合連続無失点を更新する
石井大智が交流戦中に打球が頭部に当たるアクシデントで戦列を離れた時は、万全の状態に戻るまで復帰に慎重を期した。
大胆な用兵術も光った。定位置が固定できなかった遊撃、左翼で
高寺望夢、
中川勇斗、
熊谷敬宥、
豊田寛を抜擢。高寺、中川は
岡田彰布監督政権のときに一軍出場がなく、熊谷は代走、守備固めでの起用が
メインだったが、フラットな視点でチャンスを与えた。
「凡事徹底」を打ち出して
打ち出したテーマの一つが「凡事徹底」だった。起こりえる事態を想定して準備を尽くし、当り前のことを徹底的に遂行する。この哲学から逸脱したプレーには、厳しい姿勢を示した。印象的だったのが、8月30日の
巨人戦(甲子園)だった。1点リードの6回無死一塁。代打で登場した高寺は犠打を試みたが投飛に。指揮官が問題視したのは、打球を見て一塁に全力で走らなかった姿勢だった。一死で終わったが、相手の打球処理で併殺になってもおかしくなかった。この試合で勝利し、優勝マジックを9としたが、試合後のインタビューで、「修羅場をくぐり抜けている選手はそれが当たり前なんですけど、何回も言いますけど、それ以前のお子ちゃまレベルの選手も多いですから」と珍しく苦言を呈した。
藤川監督は選手との距離感が絶妙だ。厳しい姿勢を前面に出して選手に向き合うタイプではなく、選手に寄り添う「兄貴分」のスタイルでもない。一定の距離を置きながら、全方位に目配せしてコミュニケーションを取る。「まだ5年前で現役も共にプレーした選手がいるので、ときに選手のような気持ちに戻りそうになるんですけど、それをぐっとこらえてこの仕事を務めていたので、本当にタイガース選手たちに助けられました」と振り返っている。
理想の監督像は『マネジャー』
今年のシーズン前に週刊ベースボールのインタビューで、理想の監督について聞かれると以下のように語っていた。
「私が考える、理想の監督とは『マネジャー』という意味合いが強いでしょうか。メジャーを経験したことで、アメリカの監督の影響をかなり受けている部分がありますので、その良いところを取り入れていけたらとは思っています。私がメジャーでケガをしたときに、監督や周りが、すごくケアをしてくれました。そういう経験が、現在の私の中での監督の理想像ですし、そうなりたいな、という思いがあります。つまり、メジャーの監督の良い部分と日本の監督の良い部分を取り入れた、ハイブリッドな『マネジャー』としてやっていきたいです」
「もちろん、プロとして仕事をしていく上で、選手たちが何をしなければいけないか、選手たちに何をしてほしいのか、を伝達するのも監督の役目です。その考えを球団内でも情報共有することで、選手たちを支えてくれる人たちもケアしやすくなる。つまり、裏方さんも含めて、サポート体制がしっかりできる形をつくりたいですね。それがチームづくりかなと思います。つまり、監督には組織に対してのコントロール力が必要だと思っています」
常勝軍団の構築に向け、挑戦は続く。
写真=BBM