週刊ベースボールONLINE

HOT TOPIC

「無駄な時間にはなっていない」2000安打達成も…長い二軍生活で楽天・浅村栄斗が取り戻した荒々しさ

 

勢いのあるフルスイング


今季は苦しい時期もあったが、今後の野球人生においてそれも必要だったはずだ


 主砲の打撃が戻ってきた、と感じさせる一発だった。9月12日のロッテ戦(楽天モバイル)の初回。1点を先制し、なおも二死一、二塁のチャンスで六番・浅村栄斗が打席に立った。カウント2-2から相手先発のオースティン・ボスの暴投でランナーは二、三塁に進みチャンスが拡大。そしてフルカウントとしてから2球粘った8球目、147キロ直球を捉えた。打った瞬間それと確信するレフトへの3ラン。一軍昇格直後の一発にチームは勢いづき試合にも勝利すると、お立ち台で安堵の表情を見せた。

「久しぶりに皆さんの前に帰ってこられて、ヒーローインタビューに立たせてもらってうれしく思います」

 大歓声と大きな拍手が球場を包んだ。

「今年はなかなかうまくいかないんですけど、なんとか最後までしがみついて必死にやろうかなと思っています」

 その2日後、14日の同戦でも4回にソロ本塁打。打席に立ったときの怖さ、勝負強さ、フルスイングの勢いが戻ってきた。

2カ月間の苦しい日々


 プロ17年目。5月24日に通算2000安打を達成するなど輝かしい実績を持つ浅村にとって、7月からの2カ月間がいかに苦しい日々だったかは想像に難しくない。打てない悔しさと二軍降格。第一線で走り続けてきた男は、その時間をどのように過ごしてきたのだろうか。

 今季の浅村は強すぎる光と影を行き来していた。2000安打達成の直前、5月20日に10年かけて継続してきた連続試合出場が1346で途切れた。それでも気持ちを立て直し、ついに迎えた2000本目。史上56人目の快挙に球場が沸き、浅村にもようやく笑顔が戻った。だが、その後も状態は上がってこない。すると7月7日、一軍登録を抹消された。8月5日に昇格したものの、14日に再び二軍落ち。苦しみの中から抜け出せずにいた。

 浅村は当時を振り返る。

「一軍で出続けるということは結果を出さないといけない。結果にとらわれ過ぎていた部分もここ2年くらいはありましたし、打席の中で脆くならないようにというか、(結果という意味で)大ケガしないように、丁寧に打席を終えていた部分はかなりあったのかなと。もっと荒々しくやっていいんじゃないかと考えるようになりました」

 年齢や経験を重ね、スキルも考え方も立場も、若手時代とは違う。それでも試合に出始めたころに持っていた荒々しさを、もう一度呼び覚ますことが必要なのではないか――。

「野性的な部分というのが自分の中ではすごく大事なことだったんじゃないかなと。どの球種が来るからどうしようではなく、どの球種でも自分の持ち味でもある“しっかり振る”ことを今は大事にしています」

一軍で見失っていたもの


力強いスイングを取り戻した浅村。これを来季以降につなげていく


 二軍にいる間、バットを振り込みながらさまざまなことを考えていた。その中でふと思ったことがある。

「一軍で結果が残せず二軍に落ちた選手の多くは、二軍では打つんですよ。それってなんでかなって」

 自身に置き換えてもそうだ。1度目の抹消後は二軍で2本塁打、打率.444をマークするも昇格後は4試合に出場し14打数1安打。再び登録を抹消されていた。

「一軍のエース級と比べたらまた変わってきますが、そうでなければピッチャーに大きな差があるわけではないと思うんですよ。だからスキルではなくメンタルなのかなって。一軍に比べると結果にとらわれずにできる部分が多少はあるので、そこが大きいのではないか。不安な心というものを減らさないと、いい結果にはならないのかなと思ったんですよね」

 一軍で求められるのは結果。加えて実績のある浅村には期待と重圧、責任ものしかかる。「期待に応えたい」「打ちたい」その気持ちが強く出てくることで見失っていたこともあった。

「(結果は)なるようにしかならないので。自分ができること、ピッチャーにしっかり合わせてシンプルな考えで打席に立つ大切さをあらためて感じましたね。もちろん『打ってほしい』と思われている場面では自然と力が入るのですが、打ちたい欲だけにとらわれずにまずはピッチャーと対峙する、自分のタイミングでしっかり振るということを第一に考えたいなと思いました」

 9月10日、約1カ月ぶりの一軍昇格。その日の試合では第1打席で左前へヒットを打った。直後に雨天ノーゲームとなり記録は残らなかったが、この一打を見た後藤武敏コーチは「いい方向に打てていたよね。いいときの浅村が戻ってきた感じ。自信をもって打席に立てているんじゃないかな」と笑顔で振り返った。現在二軍で指導をしている後藤コーチは苦しむ浅村の姿を身近で見ていた一人だ。

「二軍に来た直後は少しハートブレイクな部分もあったようだけど、一言も文句を言わずに毎日バットを振り込んでいましたよ。その姿を見ているから二軍にいるみんなが彼の活躍を喜んでいるし、ほっとしている。少し人見知りな部分もあるけどいいやつだからね」

「一歩下がって、また登っていけるように」


 浅村にあこがれを持つ若手は多い。主砲の二軍での日々は、普段なかなか話す機会がない彼らにとっても大きな刺激となったはずだ。浅村もまた、その時間を自身のキャリアに刻んでいる。

「無駄な時間にはなっていないので。二軍だからどう一軍だからどうとか、そういうのは関係なく、しっかりいい時間にできたかなとは思います」

 浅村の表情が柔らかい。いつもと変わらぬ口調でゆっくりと、だがしっかり前を見据えて言葉を紡いだ。

「今まで10年以上一軍でやってきたのでいろいろ思うことはありましたけど、ずっと前進できるわけじゃないので。一歩下がって、また登っていけるように」

 この時間が、これからの野球人生にどんな形で光をもたらすのだろうか。そして一人のプロ野球選手として、チームのベテラン選手として、背番号3の生き様は後輩たちの指針になっていくはずだ。“ここで終わるわけにはいかない”。真っ黒に日焼けしたその横顔は静かに闘志を燃やし続ける。

文=阿部ちはる 写真=BBM
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング