忘れられないあの笑顔

巨人・長野は現役引退会見でプロ野球生活の16年を振り返った[写真=井田新輔]
巨人・
長野久義が10月14日、現役引退会見を東京都内のホテルで開いた。巨人、
広島を通じて16年のプロ生活にピリオドを打った。
「ジャイアンツ愛」を貫いた。
2006年、日大4年時は
日本ハムから大学・社会人ドラフト4巡目指名を受けたが、これを拒否して、社会人・Hondaへ進んだ。2年後の08年には
ロッテが2位指名。またも夢破れ、Hondaに残留した。入社3年目の09年には都市対抗優勝に貢献し、10月29日のドラフトでは巨人から単独1位指名受けた。
ドラフト当日、
原辰徳監督がHondaの野球部合宿所に指名あいさつへ訪れた。「3度目の正直」。巨人のユニフォームに初めて袖を通したあの笑顔は、忘れられない。
1年目に新人王、2年目に首位打者、3年目には最多安打でリーグ優勝と日本一に貢献した。巨人の中心選手として活躍し、19年から4年間、広島でプレーした(巨人にFA移籍した
丸佳浩の人的補償)。22年オフ、無償トレードで巨人復帰。当時、広島・鈴木清明球団本部長は「彼は2度もドラフトで入団を拒否して、巨人に入りたくて、巨人への思いを貫いた選手。いつかユニフォームを脱ぐことがあるとすれば、やっぱり巨人で脱ぐべきではないかと思っていた」と語っている。広島から巨人へ打診。仮に巨人が受け入れなければ、次年度も契約する方向性だったという。そこまで球団が動いたのも、長野の人柄に尽きる。
大爆笑に包まれた長野節
23年から再び、愛着あるジャイアンツのユニフォームを着て、ついに、この日を迎えた。
「ドラフトのことはいろいろ言えないこともあるんですけど、すごく、今考えると、大変だったなと思います。ドラフトのことで、ファイターズとロッテのスカウトの皆さんに、『指名して良かった』と思ってもらえるように、とにかく必死に成績を残すことだけを考えてやってきた野球人生でした。周りの人たちに恵まれて、すごく最高の野球人生でした」
引退会見で一つ、聞きたいことがあった。こだわり続けてきた巨人。40歳、巨人・長野としてユニフォームを脱ぐ最高の花道である。読売ジャイアンツを一言で表現するならば?
壇上の長野は、固まってしまった。
「え〜難しいですね……。難しい質問。ちょっと、待ってください」
そこから37秒、考えた挙句、こう答えた。
「プロ野球のチームです」
場内は大爆笑に包まれた。これも、長野節。核心を突く質問を、かわすのを得意にしている。それは日大、Honda時代から変わらない。この日は「好きな言葉」を問われると、16年間、サポートしてくれたスポーツメーカーへの感謝を込めて「ミズノです」と、ここも仰天の返しを見せた。若手選手へのメッセージも「とにかく楽しく野球をやってほしいですし、インターネットでいろいろ文句を言われる時代なので、そこは気にせずやってもらいたい」と激励。頭の回転が早いのである。
究極の照れ屋だが実直な男
この日、涙は一切なし。昨今の引退会見と言えば、チームメートが駆け付ける動きが定着している。長野は「巨人の仲間」について聞かれると、こうもリアクションしている。
「今、たぶん、サプライズ(ゲスト)の準備をしてくれていると思うんですけど(苦笑)、最高の仲間たちが何人来てくれるのか、すごく楽しみにしています」
司会者が「それでは最後の質問でしょうか?」と言えば「(会見場裏の控室が)ざわついているので、早く出したほうが良いですよ」とリクエスト。ここで質疑応答は終わったかと思ったが、最後に自らこう切り出している。
「本当にプロ野球は、審判員の方がいないとできないスポーツだと思うので、とにかく若い選手にも審判員の方をリスペクトしてプレーしてほしいと思います」

メジャー移籍がウワサされる岡本に、自ら用意した花束を渡し「行ってらっしゃい!!」と。長野節がさく裂した[写真=井田新輔]
スペシャルゲストは一軍メンバーを中心に、コーチも含めて総勢約50人。盟友の
坂本勇人のほか、選手会長の
大城卓三、
岡本和真、そして、今季加入した
田中将大の姿も見られた。長野は一人ひとりと「ありがとう!」と握手や抱擁。「チョーさん」と親しまれ、引退会見で過去最多? とも言えるチームメートが労いの拍手で送り出した。自ら「爆笑会見」と振り返った約40分。ラストはメジャー移籍がウワサされる岡本に「行ってらっしゃい!!」と、自らが用意した花束を渡すイジリで、長野劇場は幕を閉じた。周囲を和ませる長野も実は「人見知り」と明かすように、究極の照れ屋。だが、会見最後のコメントにもあったように実直な男である。ただ、ここで褒めれば、かわされるのは、想定内ではあるが……。

一軍メンバーを中心に、コーチ陣を含め約50人が長野を送り出した[写真=井田新輔]
12月には、大学院入試を控えている。どの学校を受験するかは「お答えできません(苦笑)」。また、球団からもポストの打診があるとみられる。「理論的に話ができるように」と、コーチ、スポーツのマネジメントを学びたいという。「まずはいろいろと勉強して、今後の野球人生、若い選手たちのお手伝いができれば」。さまざまな立場で球界に尽力する長野の第二の野球人生に、心からエールを送りたい。
文=岡本朋祐