もどかしい学生ラストシーズン

右手の人差し指の第1関節骨折により、2カードを離脱。法大との最終カード[3回戦]では、試合前のウオーミングアップからムードを上げていた[写真=矢野寿明]
【10月28日】東京六大学リーグ戦第7週
法大10-1東大(法大2勝1敗)
2017年秋以来の勝ち点をかけた法大3回戦を前に主将・杉浦海大(捕手4年・湘南高)は、一塁ベンチ前で最終戦への思いを語った。
「思い出、努力。勝てなければ、意味がない」
背番号10はもどかしい学生ラストシーズンを過ごした。早大との開幕カード。三番・捕手で先発した杉浦は1回戦の1回表一死一塁、早大のエース・
伊藤樹(4年・仙台育英高)から先制2ランを放った。これ以上ないスタートを切ったが、第3打席で右手に死球を受ける。この試合は無理を押して最後まで出続けたが、翌日の早大2回戦はベンチスタート。
同2回戦、明大1、2回戦まで3試合、代打出場したが、その後も痛みが引くことはなかった。病院で検査を受けると、右手の人差し指第1関節骨折の診断が出た。痛みとは異なる、個人的には別の感情があった。
「ホームランがあったからこそ、厳しい攻めになる。逆にようやく、真剣勝負してくれたのかな、と思いました」
杉浦は慶大、立大との2カードを欠場。チームは慶大1回戦で先勝した(2、3回戦で連敗)。キャプテンの下にはたくさんの祝福LINEが届いた。チームの勝利は素直にうれしいが、やはり、貢献できていないことが悔しかった。法大との最終カードの2日前に固定ギプスが取れた。本来は打撃再開まで全治2カ月だったが、それではリーグ戦が終わってしまう。術後、約1カ月ながらも、医師から特別の出場許可を得たという。まだ、指も曲がらないが、そこは不屈の精神力である。
「この1年では、足りなかった」

法大3回戦、リーグ戦最後の打席は代打で左飛。主将・杉浦は持ち味であるフルスイングを見せた[写真=矢野寿明]
一振りにかけ、法大1回戦から3回戦まで3度の代打も、結果を残すことはできなかった。結局、この秋、安打は開幕戦での本塁打のみに終わった。法大3回戦で東大は1対10で敗戦し、勝ち点を挙げることはできなかった。すでに4カードを終えた時点で最下位は決まっており、1998年春から続くリーグワーストの連続最下位は56季に伸びている。
「この1年では、足りなかったです」
昨年11月の主将就任以降、杉浦は勝利へのこだわりを訴え続けてきた。
「チームが強くなることを、一人で考えてきました。本気で、勝利にこだわる。ただ、今の水準からするとまだ、スタートラインにすら立てていない。勝負に徹する姿勢、マインドを残していかないといけない。全員が同じ方向、思いを共有できて5年後、初めてAクラス、さらにはリーグ優勝狙うと口にできる」
杉浦は大学卒業後、弁護士を目指すための準備に入る選択肢もあったが、社会人企業チームで野球を続ける決断をした。春先から社会人の練習に参加すると、何度もカルチャーショックを受けたという。プレーの一つひとつの精度が高く「自分たちは野球を知らないんだと感じた」。学びを得る機会になった。
3学年上の偉大な先輩捕手

東大の副将・酒井は主将・杉浦の1年間の貢献度を明かした。自身は大学で野球を一区切りにする[写真=矢野寿明]
副将・
酒井捷(4年・仙台二高)は杉浦のリーダーシップについてこう明かす。自身はプロ志望届を提出するも、ドラフト指名漏れにより「現役引退」を決めた。大学にもう1年残り、来年は就職活動を展開していくという。
「杉浦こそ、野球をやっている(時間が)のがもったいないぐらいなんですよ(苦笑)。ものすごく学業成績が優秀ですので……。本当に勉強も、すごいんです。人並外れた向上心でこの1年、東大野球部をけん引してくれた。私自身も刺激になりました。後輩たちに『文化を残す』を意味でも、目標を設定して、それまでにクリアするための具体的な指示を与え、システマティックに物事を進めていました。皆、ノートを取り、杉浦のイズムをいかにアップデートさせるかが必要です」
杉浦は社会人野球で、一つの夢がある。
「都市対抗決勝でマスクをかぶりたいです。今年の夏も東京ドームで観戦したんですが、黒獅子旗をかけた頂上決戦の雰囲気は準決勝までとまるで違う。大応援団が陣取るスタンドのリアクションにも、特別感がありました。都市対抗はまた、神宮とは別の意味で重圧がかかるかと思いますが、一握りの選手にしかできない貴重な経験です。そこも楽しんでいけたらな、と思います」
東大で3学年上には、偉大な先輩捕手がいた。現在は明治安田でプレーする
松岡泰希だ。
「私は松岡さんが4年生のときの1年生に当たりますが、いつも面倒を見てもらっていました。主将としてチームを強くしたいという思い。伝え方を勉強させていただきました。今、こうして自分も社会人野球で続ける立場になり、松岡さんからは『東大野球部に還元していこうぜ!!』と言われています。強化にはまず、ノウハウを構築することが必要で、松岡さんからは『将来、東大で一緒に監督とコーチでやろう』と言われています。まずは、目の前ことに集中していきたいと思います」
東大での4年間のプレーを終え、杉浦は感謝を口にした。
「登録メンバーに復帰して、代打出場した法大1回戦。自分の名前がアナウンスされると、応援席からは、大きな拍手をいただきました。神宮でのあの応援は忘れません。ものすごい力になりました。これほど幸せな瞬間もない」
来年1月には社会人チームの練習に合流。その段階では、ボールが投げられるという復帰プランを描く。「早く練習がしたい。今日の結果を受けて、明日から練習します! 社会人野球でこの悔しさをぶつけ、埋めていきたい」。
試合後は法大と東大によるエール交換を見届け、東大の応援歌「ただ一つ」に聞き入った。新たなステージへ進み、いずれは母校に恩返しする。杉浦の野球人生は、これからも続く。
取材・文=岡本朋祐