CS、日本シリーズで貴重な一発

日本シリーズ第5戦の8回、石井から起死回生の同点2ランを放った
柳田悠岐はやっぱりすごい――。クライマックスシリーズ(CS)、日本シリーズと短期決戦での大活躍を見て、存在感の大きさを再確認した野球ファンは多かったのではないか。
日本シリーズで全5試合に一番打者でスタメン出場し、打率.455をマーク。
ソフトバンクが5年ぶりの日本一を決めた第5戦で放った起死回生の同点2ランは、強烈なインパクトを残した。1点差を追いかける8回一死一塁で、
石井大智が投げた初球の外角低め150キロ直球を振り抜くと、打球は左翼スタンドに吸い込まれた。石井はレギュラーシーズンでNPB最長の50試合連続無失点記録を樹立。ポストシーズンでも14試合連続無失点中と難攻不落のリリーバーだ。あの難しい球を甲子園の逆方向にアーチを描ける打者はセ・リーグにいないだろう。柳田に同点2ランを被弾すると、ショックのあまり両膝に手を突いた姿が印象的だった。
柳田は
日本ハムと対戦したCSファイナルステージ第2戦でも、0対0の8回一死一、二塁で左腕・
上原健太が初球に投じた150キロ直球を左翼席へ叩き込んでいる。この一打が決勝の3ランとなり、試合後は「初めまして、柳田です!」と久々のお立ち台でスタンドをわかせ、「もうチャンスやったんで、もう打つしかないと。ここで打ったらお立ち台で皆さんに『初めまして』とあいさつできると思って、必死こいて打ちました」と声を弾ませていた。
近年は相次ぐ故障
打撃技術、パワーが球界屈指の強打者であることは間違いない。だが、近年は相次ぐ故障で稼働できなかった。昨年は5月末に右太腿裏を負傷し、52試合出場にとどまった。今年は4月中旬に自打球を当て、「右脛骨の骨挫傷」で長期離脱。最初は歩くことさえままならず、長いリハビリ生活になった。一軍復帰は5カ月後の9月下旬。柳田だけでなく主力野手の故障が相次いだ中で
柳町達、
野村勇、
川瀬晃などが台頭し、実績のある選手たちは絶対的レギュラーという立場ではなくなっていた。だが、試合に出場できるコンディションが整えば、役者が違うことを今回の短期決戦であらためて証明した。
「全然打ててない感覚」
首位打者、最多安打を2度、最高出塁率を4度獲得し、ゴールデン・グラブ賞を6度受賞。2015、20年とMVPに輝いている。15年は打率.363、34本塁打、32盗塁でトリプルスリーを達成。コンスタントに高水準の成績を残している要因は、飽くなき向上心だろう。23年は9年ぶりの全143試合出場を果たし、打率.299、22本塁打、85打点で2度目の最多安打(163本)を獲得したが、週刊ベースボールのインタビューで意外な心境を明かしている。
「やっぱり若いころに比べたら……全然打ててないという感覚なので。年齢のせいなのか、それは分からないですけど、いい成績を残したときもあるので、それが基準になっていると思うんですよ。僕もそうだし、球団の方も、ファンの方も、もちろんそうだと思います」
「より良いパフォーマンスを出せるように、準備はしているつもりなんですけどね。それでも、こんなもんで終わってしまう。また自分を見直して、やっていきます。年齢を理由に自らのノルマを下げることはない。もっといい数字を残したいですね。それでダメだったら試合にも出られないと思いますし、クビになる世界なので。もちろん、それに打ち勝てるように準備したいなと思います」
来年に7年契約の最終年を迎える。19年オフに大型契約を結んだ際、「(契約満了で)フィニッシュ(引退)。そこまで決まっています」と来年限りでの現役引退を示唆していた。だが、唯一無二の才能が見られなくなることは、想像できない。今年までの成績は通算打率.312で1616安打を積み上げた。2000安打達成まで残り384本。27年以降も現役生活を継続しなければ、大記録達成は厳しい。37歳を迎えたが、大きな衰えは見られない。試合に出続ければ打撃タイトルを獲得できる可能性が十分にある。「1年でも長く現役生活を続けてほしい」。ソフトバンクファンだけでなく、野球ファンの願いだ。
写真=BBM