屈辱を味わったハワイ大戦

早大の主将・香西は3年間、汗を流した安部球場で撮影した。左の胸像は初代監督・飛田穂洲氏、右の胸像は初代部長・安部磯雄氏。歴史と伝統を背負って戦う[写真=BBM]
早稲田大学野球部の第116代主将・香西一希(新4年・九州国際大付高)は1月5日、2026年の練習始動日にスローガンを明かした。
「どん底からの天皇杯奪還」
昨年11月8日、26年の新幹部が発表された段階では「天皇杯奪還」だった。ところが、同日、ハワイ大との特別試合で0対8と大敗。先発・香西は試合が作れず、打線はノーヒットノーランと不名誉な黒星を喫した。試合後に「どん底からの」の文言が加わった。
就任8年目の早大・
小宮山悟監督は言う。
「これ以上ない屈辱。そこからのスタートなので……。昨春までの3連覇に関わった選手(旧3年生以下)はいますが、彼らの力ではない。ノーヒットノーラン食らったチームがどん底から建て直して、天皇杯を奪還できるだけのチームにならないといけない。我々は3連覇を達成して、(昨秋には)4連覇を逃して、明治を相手に何とか追いつけ追い越せ、で戦おうと。(昨秋優勝した)10戦全勝の明治に、正面からぶつかって何とか勝ちたい。チャレンジャー精神ということで、守りに入ることなく、ガンガン攻めたいと思います」
主将・香西には指揮官の思いは十分、届いている。投手で主将を担うのは、20年の
早川隆久(
楽天)以来。小宮山監督も1989年、第79代主将を務めており、負担が大きいのを承知の上で大役を任せたのは、信頼の表れだ。香西は言う。
「責任がある立場で、緊張感もすごくあるんですけど、皆が新チームから頑張ってくれています。経験値の少ないメンバーなんですが、一方で伸びシロがある選手がそろっていると思っているので、頼もしく見ています。昨年も、声出しをすごく大事にしていたんですけど、今年も活気のある練習をしていこうと、声出しで引っ張ってくれるメンバーがいたり、自分もしっかり声を出してやっていこうと。未知数な部分も多いんですが、具体的な目標を立てて今、頑張ることができています」
海外遠征の意義
正月は箱根駅伝、ラグビーをテレビ観戦した。
「同じエンジのユニフォームを着て活躍している姿を見て、元気をもらいました。それと同時に、自分たちも負けないように、部活の人にも元気を届けられるように頑張っていきたいなという思いで見ていました。(ラグビーの)フルバックの矢崎君(矢崎由高、日本代表)は授業が一緒で会話をしたりします。(11日の)決勝もチームで見に行けるようで、相手が明治ということで、自分たちが昨秋負けた相手なのでしっかり応援して、いい流れをまずラグビー部に作ってもらえたらうれしいと思います」
2月23日からは、アメリカ遠征が控える。昨年10月10日から12月8日の約2カ月間のクラウドファンディング『早稲田大学野球部世界へ! アメリカ名門大学と究める文武両道への挑戦』で約1700万円の寄付が集まった。
「すごく多額のご支援をいただいて、その感謝の気持ちを忘れずに、現地では強豪大学と試合ができるので、いろいろ勉強したいです。本場・アメリカのベースボールの文化などを学び、人としても成長したいと思っています」
小宮山監督は海外遠征の意義を語る。
「基本的には学生同士がいろいろな話をする上で5年後、10年後また出会うことがあれば、これ以上のことはない。個人的には学生時代に代表で選ばれてアメリカに行った時、アメリカチームに、後にメッツでチームメイトになった選手とかもいましたからね。そういうのを考えると、大変、意義深い日本代表遠征でした。それを単独チームで行えるということも喜びといいますか、学生がどう受け止めるか。 事前にそれなりのレクチャーはしますけど、置かれた立場を理解して行動しなさいということは伝えようとは思っています。クラウドファンディングでご支援いただいた皆様方にきちんと良い報告ができるようにしたいと思っています」
大学卒業後はプロ志望
アメリカ遠征後は沖縄・浦添キャンプに入り、春のリーグ戦開幕へ向けての調整も本格化させる。香西は大学3年間をこう振り返る。
「1年秋から2年春までは良いスタートを切れたと思っているんですけど、2年秋から3年にかけてすごく不甲斐ないシーズンが続いてしまっています。『香西が投げるなら、安心して見ていられる』と監督、選手の皆にも思ってもらえるようなピッチャーになりたいです」
3年秋までにリーグ戦26試合に登板(3勝1敗、防御率1.78)しているが、すべてリリーフ。毎試合、ブルペン待機してきたが、最終学年は主戦として、先発を希望している。
「投げる試合は、すべて勝つ。昨秋までのエース・
伊藤樹さん(楽天ドラフト2位)はシーズン6勝を2回しましたが、その数字を超えられるように。1回戦を取ることはもちろん、(1勝1敗の)3回戦になった場合は、そこでも勝てるピッチングをしたいと思います」
香西と言えば、高校時代から緩急自在のスタイルが持ち味で、勝負どころでのストレートにもキレがある。学生ラストイヤーはレベルアップのため、2つの球種を磨いている。
「1学年上の田和廉さん(
巨人ドラフト2位)からはスライダー、小宮山監督と伊藤樹さんからはシュート系を教わりました。これまではチェンジアップ、カーブと緩い変化が主体だったのですが、真っすぐに近い球速で変化させることを意識したいと思っています。六大学には明治の榊原(榊原七斗、新4年・報徳学園高)、法政の井上(井上和輝、新2年・駿台甲府高)をはじめ左の好打者が多いので、インコースを投げ込める球を春までに習得したいです」
チームリーダーとして「どん底からの天皇杯奪還」を果たした上で「プロに行きたい」と、卒業後の進路志望を明かした。東京六大学のキャプテンナンバーである背番号10を着けた香西が、学生ラストイヤーでの躍動を固く誓う。
取材・文=岡本朋祐