レジェンド始球式への感謝

昨年、東京六大学野球連盟結成100周年記念のレジェンド始球式を行った法大OB5人に記念品が贈呈された。左から小早川氏、江本氏、田淵氏、山本氏、山中氏[写真=BBM]
法友野球倶楽部(法政大学野球部OBOG会)は1月10日、東京都内で法政大学野球部創部110周年記念式典を開催した。
東京六大学野球連盟は昨年、結成100周年を迎えた。同連盟の記念行事として春、秋のリーグ戦でレジェンド始球式が行われた(各校5人)。法大の卒業生代表として登板したOB5人にこの日、記念品が贈呈された。
まずは、始球式当日の感想をあらためてこう述べている。
「このとき、ケガをしていましてね。このフォームでは、ボールが本塁まで届くわけがない(苦笑)。だけど、こうして記念になる始球式をやらせていただいて、心から感謝をしています。いただいた写真は壁に飾っておきます」(
田淵幸一氏)
「この歳だからうまくいくわけがないんですよ(苦笑)。本塁まで届かないし……。でも、このHOSEIのユニフォームを着ること自体がうれしかったです。楽しくやらせていただきました」(
山本浩二氏)
「私はやるほどの者じゃなかったんですけど、案の定ボールが届かなかったです(苦笑)。良い記念になりました」(
江本孟紀氏)
「10年後に東京六大学110周年記念があると思いますが、その時にこういう始球式の場があれば、あと10キロぐらい球速を上げる努力をしてまいりたいと思います」(山中正竹氏)
「控室で始球式に臨む前に、先輩から田淵さん、山本さん、江本さんと本塁まで届いてないので『お前、分かっているだろうな』と、ちょっとプレッシャーをかけられまして……(苦笑)。これは絶対にキャッチャーまで届かさなければいけないなと思って頑張った始球式でございました」(
小早川毅彦氏)
心が良いし、優しいし、闘志もある
野球殿堂入りしている田淵氏と山本氏は、あらためて大学時代の思い出を語った。
「私は今年で80歳になります。人生いろいろなことがありましたけど、私は法政大学に入って本当に良かったと思いました。こういう会を催してもらった時に『ああ、俺は法政で良かったな』と。法政のメンバーはやっぱり心が良いし、優しいし、闘志もある。現役学生もそろそろ優勝して、我々がやったような時代をぜひ作っていただきたいというのは本心でございます。ぜひ皆さん、法政大学野球部を応援しましょう」(田淵幸一氏)
「プロで18年、いまだにプロ野球でお世話になっているんですが、原点は法政大学でした。私は
広島の廿日市高校という全くの無名校から入りまして。最初は声出し役、そして、投手で入りましたので、毎日バッティングピッチャーをやっていました。松永怜一監督から打撃投手後に『打ってみろ』と言われて。それから訳も分からないうちに、明日から野手をやるからと。それから毎日ノックの嵐でございました。あの時の苦しさは、プロに入り後と比べても、当時がナンバーワン。4年間、松永さんに鍛えられました。やらされました。その時によきライバルがいたから頑張れたんじゃないかと。亡くなった富田(
富田勝)と同じように毎日、鍛えられました。そして、田淵。同学年に負けたくない気持ち、身近に良きライバルがいたからここまで来られた。私にとって法政大学は大事な、野球を通じて第一歩を学んだ4年間でございました」(山本浩二氏)
世界を動かす力、社会を動かす力
この日の記念品贈呈の前に、法友野球倶楽部・山中顧問(世界野球ソフトボール連盟アジア大陸代表副会長、全日本野球協会会長、アジア野球連盟副会長が「法政大学野球部110年の教え〜野球が育む人間力〜」と題した記念講話を行った。
「私たちは法政大学野球部の礎を築いた藤田(信男)先生から指導を受けてまいりました。その先生の教えの中には、野球の前に『スポーツを語れ』ということをおっしゃっていたんだなということをいま、感じています。単に勝つことだけが目標ということではなく、そこに人としての成長であったりとか、リスペクトであったりとか、苦しい時に乗り越えていく術であったり、あるいは順調な時にどういうようなプロセスで進んでいけばいいのか。歴史と世界という基軸から、これからのビジョンを構築していくことが大事かと思います。スポーツの力というのは非常に大きいですし、中でも野球の力というのは本当に大きい。2023年のWBCで優勝した際に国民は熱狂したと思いますが、スポーツ、野球は世界を動かす力、社会を動かす力があるということを皆さんも感じられたと思います。その中で法政大学野球部はどういう存在であるのか。法政大学で学んだ学生たちが社会に出て、活躍できるような土壌をしっかりと、4年間の間に築き上げていく。それに指導者の人たちもそうですし、OBの人たち、校友会の方々、地域の人たちと一緒になって、法政大学、野球部を盛り上げていくという、これからもそういう組織であってほしいと思っています」
育てる力、育てる野球、育てる大学
創部順で慶大は「エンジョイ・ベースボール」、早大は「一球入魂」、明大は「人間力野球」が脈々と受け継がれている。1915年の創部から110年で築いた法政の「理念」とは何なのか。
「法政大学野球部は早慶、明治の後に加盟した、いわゆる六大学の中では後発チームです。早慶から野球を学んだ時期があって、そして早慶を試合の中で倒していくんだという思いが法政の野球の中で非常に強く、我々の先人の人たちの強い思いがあり、法政野球を築き上げていった。法政の野球というのは育てる力、育てる野球、育てる大学として歩んできました。ここにいらっしゃる田淵さんや山本さんも、必ずしも高校時代にトッププレーヤーといいますか、話題の選手ではなかったはずなんです。慶應、早稲田、明治らのライバル校を上回るために大変な努力をし、育っていき、プロ野球のドラフトで指名されるような、そういう選手になっていった。その4年間の努力、これはまさに、法政大学野球部が学ぶべきところだと思います」
さらに、言葉は熱が帯びる。
「育てる学校でなければいけない。高校時代に素晴らしい選手で、皆に注目をされながら入学したけれども、その後どうしたのかな、と。そこにひょっとしたら何か慢心があったりとか、あるいは育成方法の間違いがあったりとかがあったのかも分からない。私は今、生きている人の中で、六大学の試合は一番見ている人間だと自負しております。それぞれの学校の監督さんであったり、部長さんであったり、先輩理事であったり、そういう人たちといろんな話をさせてもらいます。その中から学ぶことっていうのは本当に多々ある。それぞれの学校と、その指導者の人たちは素晴らしい考え方を持って、深い情熱を持って野球、学生を指導したり、野球部を大学の中でどう存在感を高めていくのかというご努力をなさっているということを痛切に感じます。今日は皆さん方に、皆で一緒に『もう1回、法政の輝きを取り戻そうよ』ということを強くお願いをしたいと思っておりました。現場の人に任せるだけではなく、現場の人たちを支援しながら、理解しながら、そして学生たちも、応援をしながら、皆で強い法政、強さだけではなく、輝きのある法政、『法政ルネサンス』というものを皆で求めて、力合わせてやっていきたいなと思っております」
「組織は人なり」「人は誠なり」
山中顧問はこの日に行われた法友野球倶楽部の全国総会で、技術支援委員会の委員長就任が発表された。山中氏が学生に求めるのは技術を高める前に、学生としてあるべき姿だ。
「組織というものは進化しなければいけない。停滞してはダメだし、もちろん後退もダメです。やっぱり進化していかなくてはならない。進化というのは、やっぱり人です。『組織は人なり』という言葉がありますが、一人ひとりがその強い思いを持ってなければ進化はできない。『人は誠なり』と私は思っています。誠実の中に、信頼というのは生まれるはずです。そして、誠は何なのかというと、誠は学だということを私は言っております。学び続けることだと思っています。野球に対して正面からぶつかっていくと、学ぶことというのは際限なくある。それは間違いなく、社会人としても、あるいは組織人としても間違いなく通用する、役に立つことを、野球が教えてくれる。野球は学びの宝庫だと思っております」
かつて、こう言ったことがある。
「スポーツマンシップの本質は、勝つことだけを目的にするのではなく『スポーツの意義』を学びましょうということです。それが何かと言えば、品性、知性、技術。現場を経験した元指導者として、我々は伝えていかないといけない」
勝利を求めるために、日々、目標に向かって努力する。技術を高めるだけでは物足りない。「良いチームとは素晴らしいスポーツマン、素晴らしい野球人の集まり。良いチームにするには、良い選手にならないといけない。良い選手になるためには、考えないといけない。それが、勝つことへの近道です」。人としての基礎となる品性、知性が伴ってこそ、技術を得られるというわけだ。
法大は2020年春を最後にリーグ優勝から遠ざかっている。卒業生が一致団結して現役学生をサポート。この日、結束をあらためて確認した。
取材・文=岡本朋祐