野球もできる人間

佐々木はスタンフォード大の施設内でオンライン取材に応じた。各メディアの一つひとつの質問に真摯に答え、充実の大学生活であることを感じさせた[写真=BBM]
アメリカの大学生として生きていく上でのスタンスは、一貫している。
「野球だけできる人間を目指しているのではなく、野球もできる人間になりたい」
スタンフォード大・
佐々木麟太郎(20歳)が1月28日、各社合同のオンライン取材に応じた。昨年10月23日のNPBドラフトで
ソフトバンクから1位指名を受けて以降、初の取材対応だった。大学2年生。誠実な人柄がにじみ出ていた。ホークスの交渉権獲得について「光栄なことで、うれしい気持ちです」と感謝の言葉を並べながらも、まずは現地時間2月13日に開幕するACCリーグ戦だけを見ている(閉幕は5月16日)。スタンフォード大はACCリーグ戦を勝ち進めば、ACCトーナメント(5月19〜24日)、NCAAリージョナル(6月5〜8日)、NCAAカレッジワールドシリーズ(6月12〜22日)とシーズンが続いていく。
「今はスタンフォードのユニフォームを着ている以上、監督、コーチの思いに応えないといけない。役割、責任を果たすことに集中したい。進路を決断するときに考えていかないといけない」
7月には指名対象となるMLBドラフトを控えているが、あくまでも待つ身。佐々木にはさまざまな選択肢があり、今後どうなるかは、誰にも分からない。今、できること。学業と競技の両立を追求し、スタンフォード大を卒業する。展開次第では、アメリカでは一般的な制度として定着している「休学」も視野に入れている。
「どういうプロセスになるか分からないが、最終的な野球人生のゴールとしてメジャーの舞台でプレーすることが目標です。2人はずっとあこがれの存在で、その思いはアメリカに来ても変わりません。同じ舞台でプレーできるような選手、人間を目指して日々やっているつもりです」
2人とは、メジャー・リーグで活躍している花巻東高の先輩・
菊池雄星と
大谷翔平だ。
唯一無二の存在
なぜ、佐々木麟太郎は「評価」されるのか。取り組みの素晴らしさと、人間性の高さ。20歳とは思えない、唯一無二の存在である。
まずは、異国の地で生活している環境面に順応している点にある。
ACCリーグ戦は西海岸から東海岸への長距離移動が隔週ある。民間機で時差3時間、片道約5000キロを、深夜早朝発着も日常茶飯事だ。スタンフォード大は説明するまでもなく、アメリカの超名門大学である。世界屈指のトップ大学で、最新版の「THE世界大学ランキング2026」で5位タイにランクインしている。先述の長距離移動中も課題をこなし、難関の授業も当然、英語で受けている。勉強しながらプレーを続けるのが大前提だ。あくまでもアマチュア選手であり、通訳は存在しない。すべて、自らの判断で行動している。
こうした厳しい環境下でも、佐々木は「結果」を残した。昨年「ACC All-Academic」を受賞したのは称賛に値する。対象は学業成績優秀者と中心選手が選出されるという狭き門。ハイレベルな文武両道を実践し、評価されたのだ。競技者としても、最前線を走り続けた。新入生ながら指導陣、選手からの信頼を受け、全52試合に先発出場した。言葉の壁が存在する中で、適応期間なしでの1年生レギュラー奪取は超異例である。
そもそも、日本の高校から直接、NCAA DI (ディビジョン1)に進学するのは稀であるという。一般的には日本の高校から短大に進学し、学業成績と競技実績が認められた上で、4年制に編入するのが通常の流れ。佐々木が進学した「Division I」は、全米大学体育協会(NCAA)の最高レベルに位置する大学スポーツのカテゴリーの一つ。全米各地から優秀な選手たちが集まる中で、佐々木も肩を並べて競技と向き合っている。
14企業と契約したサポート体制
人の「評価」「価値」とは、正直である。アメリカには「NIL」というプログラムがある。名前、イメージ、肖像の商業利用を認め、NCAAが採択したポリシーである。佐々木は
シューズ、航空、時計、金属加工、スポーツアパレル、バット、防具、英会話、リカバリーウェア、ベッドマットレス、カー用品、トレーニング機材、留学サポート、人材と14企業と契約し、サポートを受けている。日本の学生野球ではまず、考えられない待遇だ。それだけ世の中が、佐々木麟太郎に魅力を感じ、チャレンジを後押ししているのである。
佐々木の取材を担当するマネジメント会社はこう、見解を示した。
「彼の成功が、未来の日本人の可能性と選択肢を拡げてくれると信じるところです」
約44分のオンライン取材を終えると、佐々木は退出する前に、自らこう切り出した。
「十分な時間を取れず、すべての質問にお答えできなかったことを申し訳なく思っています。とにかく今は自分自身のこれからに集中していきたい。その中で、皆さんのサポートやご支援をいただけたらうれしいです。本日はありがとうございました」
この日の取材は現地時間、1月27日の21時(日本時間28日、14時)からスタート。なぜ、夜間帯に設定されたのかと言えば、早朝から夜まで分刻みのスケジュールをこなしているからだ。この日は朝8時に活動開始。9時からウエート・トレーニングを行い、その後は2つの授業を受講した。15時から18時過ぎまではチーム全体練習に参加。20時過ぎまで個人練習に励んだ後、パソコンの前に座ったという。
最後のコメントにもあったように、どれほど忙しくても、周囲への気遣いを忘れない。謙虚で実直な人間性。これこそが、佐々木麟太郎が追い求めている「野球もできる人間」の真骨頂なのだ。
取材・文=岡本朋祐