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【大学野球】慶應義塾体育会野球部がコーチ2人の就任でムードが大きく変わった理由

 

就任要請の経緯


かつて慶應義塾高を率いた上田誠コーチ[左]は5年ぶりの復帰、上田和明コーチ[右]は大学卒業以来、41年ぶりに母校へ戻ってきた[写真=BBM]


 2023年秋以来の天皇杯奪還を目指す慶大。昨秋まで3季連続5位からの浮上を期す26年、卒業生2人が指導スタッフに加わった。投手を担当する上田誠コーチ(慶應義塾高前監督、四国IL/香川球団代表、ヘッドコーチ、球団社長)と、主に守備を担当する上田和明コーチ(元巨人)である。

 上田誠コーチは湘南高出身。大学在学中に指導者を志し、慶應義塾高では伝統校復活のけん引役となり春3回、夏1回の甲子園へと導いた。現在、同校を指揮する森林貴彦監督は教え子であり、自身の監督退任までコーチを担った門下生。慶應義塾高は23年夏に107年ぶり2度目の全国制覇を遂げたが、その礎を築いたのが上田誠氏だ。同校監督退任後は慶大でコーチを5年務め、23年11月から四国IL/香川に在籍。慶大に5年ぶりの復帰となったが、今回は役割が異なる。前回はBチーム以下、新人チーム(1、2年生)を指導する立場で、今回は主力のAチームの投手コーチ。重責はより大きくなっている。

 19年12月から母校を指揮する堀井哲也監督は、就任要請の経緯を語る。

「昨年まで独立リーグで投手を中心に指導し、かつて率いた慶應義塾高を『強豪』に育て上げた手腕を、コーチの立場から、チームづくりに落とし込んでほしいと思っています。上田さんとは、三菱自動車岡崎とJR東日本の監督時代から交流があり野球観、投手を見る目が素晴らしい。独特な投手トレーニングのノウハウを持っており、ケガ防止、体づくりを含めての指導に期待しています」

基礎基本の反復


薩摩おいどんリーグでは試合中、ベンチの端で上田誠コーチ[右]と上田和明コーチ[左]はコミュニケーションを重ねる[写真=BBM]


 上田和明コーチは愛媛・八幡浜高出身。慶大では強打&堅守の遊撃手として活躍し、84年のロサンゼルス五輪では金メダルを獲得した。85年ドラフト1位で巨人に入団。93年に引退後は現場のコーチのほか、用具係、スカウト、査定、編成、ジャイアンツアカデミー副校長と長年、フロント部門で球団に尽力してきた。堀井監督は慶大で1学年後輩の上田和明コーチに対し「3年前からオファーを出していた」と明かし、さまざまな事情がクリアされ今回、慶大コーチ就任への運びとなった。

「この2年、苦しんでいるところで、チームの立て直しを図る上で、内野守備コーチの打診をしたんです。正式には3年前からのオファーですが、実は監督就任時からお願いをしてきたんです。我々の近くの世代では図抜けていた存在。プロで培った野球観を、選手たちに植え付けてほしいと思っています」

 とにかく明るい。上田誠コーチは「和明と2人で、オヤジギャグの応酬ですよ」と苦笑いを浮かべながらも、温厚な人柄で学生との距離を縮めている。同じ上田姓であり、学生からは上田誠コーチは「マック」、上田和明コーチは「ダッチ」と呼ばれている。「ある日のグループLINEを見たら、そうなっていたんです(苦笑)」(上田誠コーチ)。決して、仲良し集団ではない。そこに、甘えは一切なく、激しいチーム内競争が繰り広げられている。厳しい取り組みの末に、大きな成果を得る「エンジョイ・ベースボール」を指導に落とし込む。

「独立リーグを辞めて、もう二度と野球に関わることないだろうと思っていたんです。こうして声をかけていただき、僕は高校野球ばかりやってきた人間なんで、プロ出身の方とか、小林(宏)ヘッドコーチが社会人出身で、堀井監督は説明するまでもなく名将で、そういうところに僕が入っていいのかなと思いました。皆さん、温かく見守ってくださるので、毎日が楽しいです。勉強になることがたくさんあり、特に上田コーチはこれだけ基本をやるんだ、と。プロでもここまで徹底するんだな、と。選手もびっくりしているんじゃないですかね。上田コーチは常に学生目線。本当に頭が下がります」(上田誠コーチ)

「プロでも何十回、極端な話、何十万回やっている。そこに比べたら、まだ、学生たちはそこまでやってない。それくらいやって、やっと一人前だよということを言い続けています」(上田和明コーチ)

令和版の「エンジョイ・ベースボール」


慶大は「薩摩おいどんリーグ」で大学、社会人チームと実戦を重ねている。右から堀井監督、小林ヘッドコーチ、上田誠コーチ、上田和明コーチ[写真=BBM]


 投手力と守りの強化。堀井監督のリクエストに応えようと、両コーチは朝から夕方までグラウンドに立ち続ける。2月上旬から松山、中津、そして、現在は鹿児島とキャンプが続いており、今後は関西、東海遠征を経て帰京。日焼けした顔が、充実感を漂わせる。遊撃手のレギュラー候補・林純司(3年・報徳学園高)はチームの変化を感じ取っている。

「徹底して基本的なことを言われ続けており、体に染みついてきている。基礎基本の反復。チームとしての成長も実感できています。グラブの芯、ポケットで捕球すると良い音がする。クセをつけていけば、実戦につながる。チームとしては送球ミスをなくすことをテーマに掲げています。捕球してから、しっかりステップしてスローイングする。個人的にはこの春はノーエラーでいきたいと思います」

 上田誠コーチと上田和明コーチには共通の思いがある。まずは上田誠コーチが言う。

「(慶應義塾高で)甲子園に出させてもらったのは、堀井さんのおかげだと思っているんです。年がら年中、選手をJR東日本に連れて行って見てもらい、試合前も相手校の攻略法を聞き、夜に2時間も3時間も付き合ってくれたわけです。私の野球の師匠。だから恩返ししたいなと思ってやっています」

 上田和明コーチも堀井監督へのリスペクトを語る。

「1学年先輩である堀井さんが大学卒業後、三菱自動車川崎に就職されて現役でプレーし、引退後はマネジャーを務め、その後、三菱自動車岡崎では監督として都市対抗準優勝、JR東日本では都市対抗優勝へと導き、慶應でもリーグ優勝、全日本大学選手権、明治神宮大会優勝と、それぞれのポジションで実績を残している。どういう指導をしているのかすごく気になっていましたし、今でも僕は勉強だと思っているんです。堀井さんに誘ってもらい、母校でやるという、これ以上ない喜びじゃないですか。60も過ぎたので、ここでやりたい。ここで、優勝したい。私は慶應で優勝経験がないので、コーチ就任の初日に、学生たちの前で『とにかく優勝したいんだ』と言いましたし『優勝させてくれ』とも。とにかく、目標を達成するために、私たちが一生懸命やる。その感覚で、慶應に来ました」

 鹿児島キャンプ。慶大は朝一のウォーミングアップから全開モードだ。上田和明コーチが自ら率先して、チームを盛り上げている。63歳の指導者が陣頭指揮を取り、学生たちのボルテージも最高潮に。相手チームを圧倒する目的で始めたが、すっかりそのムードが浸透。上田誠コーチが言う「昭和の猛練習」を苦しむのではなく、皆で笑顔で、力を合わせてメニューを消化する。令和版の「エンジョイ・ベースボール」を体現していく。

取材・文=岡本朋祐
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