地元・旭川でのキャンプが転機

慶大は「薩摩おいどんリーグ」に出場している。主将・今津は試合会場である平和リース球場前でポーを取った[写真=BBM]
慶大の2026年の主将・今津慶介(4年・旭川東高)に「将来の夢」を聞いた。
「内閣総理大臣になりたいです。国を良くする方向へと導ける指導者になりたいです」
今津の父・寛介さんは旭川市長、祖父・寛さんは元衆議院議員、伯父・寛史さんは北海道議会議員という政治家一家に育った。人のために、汗を流す。祖父のように、国政で活躍したい思いが芽生えたのも自然の流れだった。
ただ、あくまでも「先の話」である。
「その場、その場の選択肢として、自分のやりたいことをやっていけば、最終的には、大きな夢にたどり着ける。途中経過、ステップアップの場を大事にしたいと思っています」
挑戦の野球人生を歩んできた。北海道教育大付属旭川小では旭稜野球少年団でプレーし、主将・遊撃手としてファイターズカップを制した(全道優勝)。北海道教育大付属旭川中では旭川北稜シニアで主将・二塁手として全道大会優勝で、全国選抜大会に出場した。高校は道内屈指の進学校・旭川東高に進んだ。「甲子園に1度も出ていない(今津が入学時、前身の旭川中時代を含めて10回、夏の道大会で決勝進出も敗退)。地域の有力選手が集まる情報を聞いていたので、結果的に『皆で頑張ろう』という流れになったんです」。主将で迎えた3年夏は北北海道大会決勝で旭川大高に敗退。11度目の挑戦も、甲子園にはあと一歩、届かなかった。
東京六大学でプレーしたい思いを描いていた。当初は立大、明大、法大の一般入試の受験を見据えていたが、22年夏に転機が訪れる。旭川市内でキャンプを張っていた慶大の練習に参加。「ここでプレーしたい」。猛勉強の末にAO入試で総合政策学部に入学した。
「ご縁に恵まれたと思っています」
毎日の練習で新たな発見
2年春に神宮デビュー。立大2回戦のリーグ戦初打席(代打)で初安打を放った。同秋は出場がなかったが、一冬を越して3年春に右翼のレギュラーをつかんだ。打率.358、3本塁打、9打点と慶大打線をけん引。秋は徹底マークに苦しみ、先発を外れることもあった。忘れられないゲームがある。1勝1敗で勝ち点をかけた立大3回戦。2点を追う7回表に、試合を決める代打逆転3ランを放った。
「2回戦も6回裏一死二、三塁と同じ場面で起用されたんですが、一ゴロでした。3回戦で同じシーンになり『あるかな』と……。堀井(哲也)監督に起用していただき、選ばれたら打てる気がするんです。神宮初安打も代打でしたので……。堀井監督は代打的中率が高く、選手を見極める目に長けているんです。小、中、高と指導者に恵まれてきましたが、堀井監督はバイタリティーがあるんです。これだけ毎日、グラウンドで顔を合わせていますが、日々、新たな発見があるんです。野球の奥深さ、そして、怖さを学んでいます」
限られたチャンスを生かし、一振りで試合を決めた。この秋は打率.188と低調も、2本塁打8打点と、ここ一番の勝負強さを見せた。
新チームでは部員間(新4年生)の投票で、主将に就任した。学生たちの声を受けて、堀井監督は了承した。
「学年で決めたキャプテン。選手からの信頼を厚く、求心力もある。十分、その資質はある。勝負への執念。しつこく、泥臭い選手。慶應のチームカラーを象徴としている」
言語化できる発信力

先発出場したゲームから退いた後も、一塁ベンチ中央で声を張り上げる主将・今津[中央]。正真正銘のチームリーダーである[写真=BBM]
慶大は活動拠点である下田グラウンド(日吉)の工事の関係で2月3日から愛媛・松山、大分・中津、鹿児島、関西、東海と3月18日まで長期遠征に出ている。松山は慶大ではかつてない全部員(約160人)が参加し、寝食をともにして、結束力を高めた。中津では慶應義塾の創設者・福澤諭吉のルーツを訪ねた。
「これまでも書物、資料等では勉強してきたつもりですが、見聞だけでは分からない部分もある。実際に福澤先生の幼少期を学ぶことで、慶應義塾の理念を知ることができました」
松山、中津から移動した鹿児島ではメンバーをA、Bチームの54人に絞り込み、関西遠征では30人と、さらにチーム内競争は激化していく。現在は薩摩おいどんリーグに出場している。2月26日には立命大と対戦。今津は八番・二塁で先発出場し3打数2安打とチームの勝利(8対6)に貢献した。試合途中で下がった後はボールパーソンを率先し、ベンチ中央でも声を張り上げ、1球1球に的確な指示をしていた。「発信、アクションを起こすタイプです」。言語化できるのも、政治家の血筋と言える。
「技術向上だけでなく、それ以外の部分も詰めている。リーグ戦で勝つためのプレーをしているのか。私生活にはスキはないのか。本当の意味でのチーム力を高め、負けないチームをつくっていきたい」
チーム初の4冠(春、秋のリーグ戦、全日本大学選手権、明治神宮大会優勝)を達成した上で、卒業後の進路志望はプロである。3年秋のシーズン後に決めた。「プロに進んだ投手との対戦、野手の動きを目の前で見た中で、自分自身がMAXの努力と実績を積み上げていけば届く世界だと感じました。ガムシャラだけではなく、正しい努力をしていきたい」。今春の目標は三冠王。打率4割、5本塁打、20打点を照準としている。ポジションは昨秋まで外野手登録だったが「選択肢、汎用性も広がる」と、二塁手で勝負していく。
「六大学は毎試合、スカウトの方が神宮で視察される注目度の高いリーグです。大舞台で結果を残せば、自分の価値を高めることができる。尊敬するのは慶應で3学年上の先輩・
廣瀬隆太さん(
ソフトバンク)です。主将・廣瀬さんの本塁打はいつも、人を魅了していました。ホームランには、試合を決める力がある。自分も、そこにこだわっていきたいと思います」
主将・今津は「将来の夢」をつかむ過程で、まずは、野球選手として一流の道を極める。
取材・文=岡本朋祐