本気モードのスイッチ

鹿児島キャンプで充実の日々を過ごしている[写真=BBM]
慶大の151キロ左腕・
渡辺和大(4年・高松商高)には、ライバルがいる。
「立命館大学の
有馬伽久(4年・愛工大名電高)です。2年冬、3年冬の松山合宿(侍ジャパン大学代表強化合宿)では、2年連続で同部屋だったんです。何もかも勝っていかないと、上のレベルでの勝負はできないです」
151キロ左腕・有馬は昨年11月の明治神宮大会で準優勝の原動力となり、ドラフト1位候補に挙がる。渡辺も大学卒業後の進路を「プロ志望」に定めており、勝負の学生ラストイヤーが始まろうとしている。現在は鹿児島キャンプで実戦を重ねながら、4月の春のリーグ戦開幕に照準を合わせた調整を進めている。薩摩おいどんリーグでもNPBスカウトが視察する姿が見られた。
小学1年時、円座サンダースで野球を始めて以来、投手一筋。もともと左利き。食べるのは左だが、書くのは右である。左という特性から、投手を任された。
「将来のことも考えて」と、香川大学付属坂出中に進学した。優秀な受験生が集まり、合格率4倍の難関を突破した。「中学時代の実績は何もありません」。部活よりも、勉強に力を入れる環境だった。高校進学に際しては、県内屈指の進学校・高松高、丸亀高を見据えていたが「親から勧められまして……」と、高松商高に進学した。
「ついて行くのは、無理だと思っていました」。成績優秀の渡辺は野球部員の多くが在籍する商業科ではなく、英語実務科に属した。
浅野翔吾(
巨人)と同級生。2年夏の甲子園に出場し、3年夏は52年ぶりの甲子園8強へ進出した。
勉学も怠らなかった。「テスト前は頑張っていました。勉強の仕方は分かっていたので、中学時代の貯金だけでこなしていただけです(苦笑)」と、謙そんしながらも、慶大の指定校推薦枠を手にし、商学部に入学した。
「出られないだろう、と。無理だと思いました」。一貫として、控えめな性格である。「最悪のことを考えてからスタートする」。安全策を選ぶほうだったが、慶大でキャラ変。2年秋に最優秀防御率のタイトルを獲得すると、ついに、本気モードのスイッチが入った。
スライダーに絶対の自信

スライダーの握りを公開。最も自信のある変化球である[写真=BBM]
進路を「プロ」に定めた。最終学年の覚悟を示した。
「このチームで最も経験している者として、プロ野球でプレーする意識を持たないと、慶應も勝つことはできない。チームのためにも、上のレベルを目指すことにしました」
気になる存在が2人いる。3年夏の甲子園3回戦で投げ勝った九州国際大付高の左腕・香西一希は、2026年の早大の主将を務めている。2人目は明大の左腕・大室亮満(3年)。昨秋、最優秀防御率を受賞した、高松商高の1学年後輩だ。
「刺激になっています。負けたくないです」
慶大は昨秋まで3季連続5位。今春の巻き返しを誓う中で、渡辺は「口にしたほうがいいです。目標は日本一。僕が投げた試合はすべて勝つ」と、かつての控えめな発言とは無縁だ。
3つのテーマがある。肘を抜くクセをなくす。リリースの位置を頭の前ではなく、後ろに固めるというものである。2つ目は簡単にストライクが取れる変化球を習得する。「得意としているスライダーのほかに、カーブを確立させたい」。3つ目は「ストレートのラインを間違えない」。左腕の生命線である対右打者のクロスファイヤ、対左打者の外角への制球力を高める。「そこに投げ切れれば、相手打者はそのコースを前提にして、ボールを待つ。投手としては、優位に立てる状況になるわけです」。
スライダーには、絶対の自信がある。鋭く変化するウイニングショットを、初見でとらえるのは難しい。研究を重ねても、なかなか狙って打てる変化球ではない。握りを見せてもらうと驚いた。「実は真っすぐと同じ握りなんです。手首を微調整して投げています。縫い目の位置を変えたり、強弱をつけている」。ストレートと同じ軌道から手元で変化するから、打者にとっては難しいボールになるのだ。
好きなプロ野球選手を聞くと「浅野です」と、高松商高の同級生の名前を挙げた。
「あまりプロ野球も見ないので……。身近で知っている選手と言えば、浅野になります。自分が大学野球で苦労している中で、もう一つ、二つ上のレベルで頑張っている。影響を受けています。自分もプロ入りして活躍する。そのチームを代表する投手になりたいです」
まずは、慶大を2023年秋以来のV奪還へと導くことが、最大のターゲットである。
背番号18。責任と自覚がみなぎっている。
取材・文=岡本朋祐