村田監督は選手に感謝

横浜高の主将・小野は県大会の優勝旗を携え、横浜スタジアムを場内一周した[写真=福地和男]
5月3日(決勝)
横浜高8-3横浜創学館高
4月2日。春の県大会開幕2日前に行われた組み合わせ抽選会。センバツに出場した横浜高・村田浩明監督が出場82校のチーム代表者2人(野球部員)が出席した講話の中で、チーム状況を赤裸々に披露した。前年優勝校で史上4校目の連覇を狙ったセンバツだったが、神村学園高(鹿児島)との1回戦で敗退。周囲の期待に応えられなかった。大阪から戻った後、どん底の雰囲気にあったという。
「全然、選手がまとまりません。崩壊までいかないかもしれないですけども、大変な状況になっています。でも実は、その時間が大事なんですよね。そこから、逃げない。そこの時間をしっかり使う。それがまとまったらたぶん、また違った力を出すんじゃないかな、と。横浜高校は、この春の県大会で出直していきたいと思っています」
あれからちょうど1カ月、チームを立て直してきた。5月3日。横浜創学館高との決勝は、初回に3失点のビハインドから逆転勝利。2024年秋からの5連覇で県内の公式戦32連勝と王者の貫録を見せつけた。
「新しい根っこを生やすのは、すごく難しい作業なんですが、何とかできて、厳しい展開でも逆転したりとか、負けていても、なんとかつないだりとか、そして新しい新戦力も使えたので、そういった意味ではすごく底上げになったかなと。本当に選手たちに感謝しています」(村田監督)
愛情が人を動かす

横浜高・村田監督は四六時中、選手のために頭をフル回転させている[写真=福地和男]
チームの「根っこ」には、何があったのか。遊撃手兼投手の副将・
池田聖摩(3年)は明かす。
「監督さんからのミーティングでの『気愛』という言葉があったんです。単なる『気合』ではなくて、愛情を持って自分たちに指導してくれますし、優しいだけではなく、本当に厳しい面もあるんですけど、そこが、自分たちへの愛情だと思って受け止めています。私生活、学校生活は野球につながっているんですけど、そこを本当に、高山大輝部長のほか、指導者が愛情を持って接してくださるんです」
「気愛」とは、指導者からのメッセージだけではない。部員一人ひとりが、チーム愛を持って動く。全員が「全国制覇」という同じベクトルに向かって切磋琢磨する。「バラバラ」だったチームは「結束力」の大切さを再確認したのだった。
村田監督は横浜高での3年間、渡辺元智元監督の下で育った。春3度、夏2度の優勝へ導き、甲子園通算51勝の名将だが、実績だけではなく、多くの人を残してきた名指導者だ。村田監督にとって人生の「師」。かつて、渡辺氏は自らの指導論について、こう語ったことがある。
「人が人を動かす。愛情がないと人は動かない。言葉の野球を教えないといけない」と、コミュニケーションを重視。試合中の円陣では、立って指示を出すことはせず「視線が同じになる」と、ベンチ前に全員、腰を下ろさせて話をした。「アイコンタクト。視線を逸らしたな、とか、選手の目を見れば分かる」。この洞察力が選手起用にも生かされた。若かったころはゲキを飛ばすだけだったそうだが、その後は勉強を重ね「言葉の備えがあった」と、選手の性格に合わせた的確なアドバイスにより、選手との絆を深めたのである。
村田監督も選手を第一に考えているからこそ、厳しい言葉が出る。愛情の裏返しだ。教育現場は、生ものである。すべてが順風満帆ではない。一つひとつの山を越えて、結束していく。鎌倉学園高との4回戦は接戦を制した。1対2とビハインドの9回表に3点を挙げて逆転。その裏の攻撃を1失点にしのいで、何とか1点差で逃げ切った。公式戦は高校生を成長させる場。池田は言う。
「鎌倉学園戦は、本当に危ない試合だったんですけど、ああいう勝ち方ができて、監督さんも段階を踏んで『気愛』を入れていたので、この決勝での逆転勝ちにもつながっているのかなと思います」
主将・小野舜友(3年)は閉会式後、表情を崩すことはなかった。
「チームとしてやらなきゃいけないっていうのは全員、思っていることだったので、その一心で、この約1カ月間は踏ん張ってやってきました。昨秋の関東大会は2回戦で負けたので、なんとかチーム全体として、優勝できるように頑張りたいと思います」
横浜高は神奈川1位校として、5月16日に開幕する関東大会(千葉県開催)に出場する。「気愛」を合言葉として、さらにチーム力を上げ、夏への布石としていく。
取材・文=岡本朋祐