青学大と最終週の直接対決へ

今春、リーグ記録のチーム18本塁打を放った11選手。前列左から大谷、平井、石野蓮、金子、緒方、花田。後列左から石井、坂根、田井、佐藤、赤堀[写真=矢野寿明]
今思えば「予言者」のようであった。万全の準備をしてきたからこその発言だったのだ。
東都大学春季リーグ戦の開幕4日前の4月3日、報道各社を招いてのレセプションが開催された。
国学院大・鳥山泰孝監督は2026年のチームの特長をこう語っていた。
「キャプテンの赤堀(
赤堀颯、4年・聖光学院)に象徴されるように、魂の野球というかですね、国学院らしく粘り強く精神を集結させた戦いになるかなと思いますし、そういう準備は整っているかなと思っています。仕上がりとしては、それなりには仕上がっていると思いますけれども、リーグ戦始まると、オープン戦の仕上がりが、まったく別物になってよく出る場合もあるし、まったく逆のケースもあるし、本番は本番の流れがありますので、流れに逆らわず、その流れを感じ取りながらまず、第1カードを戦いたいと思います」
東都大学リーグは昨秋まで青学大が6連覇。史上初の7連覇を遂げるのか、それとも5校が阻止するのか。興味はその1点に絞られていた。鳥山監督は落ち着いた口調で言った。
「まずは当然、打倒・青学ですけれども、最終カード5カード目が青学戦になります。その前に強豪との4チームがありますので、とにかく1カード、1カードをしっかり積み重ねながら、最後の5カード目の青学戦で、挑戦権が得られるような星勘定で迎えられるように頑張っていきたいと思います」
4カードすべて2勝1敗

国学院大の2年生・花田が亜大3回戦で満塁弾。これがリーグ記録を更新するシーズン18本目のチーム本塁打となった[写真=矢野寿明]
中大との開幕戦は4対10と黒星スタート。しかし、慌てることはなかった。2、3回戦と連勝して勝ち点1を挙げた。立正大、東洋大とのカードでは1回戦で先勝し、2回戦でタイとされながら、3回戦を制して勝ち点を3に伸ばした。迎えた第4週。国学院大が亜大から勝ち点を挙げ、青学大が東洋大に勝ち点を落とせば、2022年秋以来のリーグ優勝が決まる星勘定だった。
Vへの重圧なのか、国学院大は亜大1回戦を落とした。青学大は先勝。2回戦で青学大が落とし、国学院大は雪辱して1勝1敗に。5月7日の3回戦で優勝の可能性が浮上した。粘る青学大は第2試合の東洋大3回戦で大勝し、7勝3敗、勝ち点3。第3試合に控えていた、国学院大のこの日の優勝はなくなった。国学院大は亜大3回戦を制して、8勝4敗、勝ち点4。最終週、青学大との直接対決で「勝ち点を取ったほうが優勝」という状況となった。仮に負けていれば、亜大に優勝の可能性が残り、国学院大は自力優勝が消滅する危機であった。開幕から4カードすべて3回戦での勝ち点奪取。「粘り」の真骨頂を発揮しているのである。
亜大3回戦。1点を追う3回、同点に追いつくと、なおも二死満塁から花田悠月(2年・智弁和歌山)が勝ち越しの左越え満塁本塁打を放った。これでチーム18本目。1997年春に青学大が記録したシーズン最多17本塁打のリーグ記録を更新した。6対3で勝利し、勝ち点奪取に花を添えた。
【国学院大 2026春の本塁打内訳】
石野蓮授(3年・報徳学園) 3本塁打
平井悠馬(4年・国学院栃木)2本塁打
金子晄也(3年・昌平) 2本塁打
緒方漣(3年・横浜) 2本塁打
大谷汰一(2年・天理) 2本塁打
花田悠月(2年・智弁和歌山)2本塁打
石井嘉朗(4年・桐光学園) 1本塁打
坂根葉矢斗(3年・履正社) 1本塁打
佐藤大空(4年・修徳) 1本塁打
赤堀颯(4年・聖光学院) 1本塁打
田井志門(4年・大阪桐蔭) 1本塁打
マレーシアで得た学び
母校を指揮する鳥山監督は今春、取り組んできた成果を、神宮で証明しなければならない理由があった。国学院大は1月30日から2月3日まで、初のマレーシア遠征を行った。鳥山監督は「野球は二の次」と、学生たちは野球教室、現地大学生との交流、工場見学など、異文化を学び、海外で見聞を広めることに時間を割いた。
「彼らはコツコツと一つのことに没頭し、野球に対する『深さ』を潜在的に持っている。今回の企画の狙いは『幅』を広げることが目的にありました。野球以外のことにも興味を持つことに価値観がある、と。これからの時代に対応していける人材を育成していくために、われわれ指導者が教育の環境、シチュエーションをつくることが必要と考えました」
国学院大は2012年秋以降、東都一部の座を守り続けている。鳥山監督は就任1季目の10年秋に悲願の初優勝を遂げた。ところが、11年春に一部最下位で、入れ替え戦も敗退して二部降格。2シーズン二部リーグで戦い、同秋に一部に復帰した。21年には春秋連覇を遂げ、22年秋には4度目の優勝。同年11月の明治神宮大会では過去最高成績の準優勝に輝いた。国学院大には竹田利秋前監督が築き上げた「人を育てる」という教育方針が根底にある。教え子である鳥山監督は就任以来、1年1年、脈々とこの「文化」を根づかせてきた。
帰国後、鳥山監督は決意を新たにしていた。
「就任当初から今回のような取り組みを考えてはいましたが、『勝たないといけない……』ということが先行し、そこに目を向けるだけの余裕がありませんでした。国際交流が、勝つことにはつながらないかもしれないですけど、機会を持つことは、学生野球の基本理念として大切。勝つことよりも大事なことを追い求めており今回、実行に移せて良かったと思います。変えてはいけない伝統はありますが、変えていくべきものもある。もちろん、大事なのは春のリーグ戦。絶対、負けられない戦いに向けて、これから準備していきます」
鳥山監督はマレーシアでの経験を「勝つことと、それとこれ(海外遠征)とは別です」と繰り返していたが、そうではないと思っていた。人としての成長が、結果的に個々の技術向上、そして、チーム力アップに直結する。赤堀主将も「果たして、野球のプレーに生きるのか……」と本音を明かしていたが「一人ひとりが自立するには必要なこと。チーム力、まとまり。今回の遠征を通じて学ぶことができたキーワードになります」と収穫を語っていた。
結果を追い求める「過程」の充実こそが、教育の一環である学生野球の醍醐味だ。青学大との大一番は5月19日から予定されている。今季のスローガンは「新・国学院」。アップデートさせた国学院大は春の集大成、準備してきたすべてを出し切るのみ。鳥山監督は決して「予言者」ではなく、確固たる基盤づくりを実行してきたのである。