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「第32回シグマイン全国少年少女野球教室」で石毛宏典氏が「声を出すこと」の大切さを訴えた理由

 

この日のために、万全の準備


石毛氏は閉会式であいさつした[写真=高野徹]


 日本プロ野球OBクラブは4月12日の京都、大阪を皮切りに全国47都道府県で「第32回シグマイン全国少年少女野球教室」を開催している。1995年から歴史を積み重ね、昨年からは株式会社シグマインが特別協賛スポンサーとなった。合言葉は「100万人とキャッチボールを!」。野球界の底辺拡大、野球を通じたスポーツの普及・振興、青少年の健全育成を目的としており、5月10日には中学生を対象とした東京会場がスリーボンドスタジアム八王子で行われた。

 講師陣はかつてNPBで活躍した元プロ14人という豪華布陣。約3時間、この会場内で一際、大きな声で指示を出していたのが、1980、90年代の西武黄金時代を支えてきた石毛宏典氏だった。現役時代から変わらないリーダーシップ旺盛、明るいキャラクターで、参加した子どもたちの「やる気モード」を全開にしていた。

 講師の動きに目を凝らしていたのは株式会社シグマイン・村尾忠孝代表取締役会長(公益社団法人全国野球振興会常務理事)である。「熱血指導の中でも工夫、研究を重ねている。かける言葉も選んでおり、子どもたちは励まされる。石毛さんは実際に体を動かし、見本を示している。廣岡達朗さんの影響が大きいと聞きましたが、体型も現役時代と変わらない。この日のために、万全の準備をされてきたのだと思います」。正真正銘のプロ魂に、感銘を受けていた。

 石毛氏は西武時代の恩師である、廣岡氏とのエピソードを明かした。

「廣岡師匠に言われたことは、まず指導者たるもの、やっぱりみんなの前でプレーして見せなきゃダメだと。幸いにして私は太りにくい体質なんですが、まずは『デブにはなるな』と(苦笑)。理論武装も必要ですけど、体を使って表現するとこうなりますという、ちゃんと耳で聞かせて、目で見させて、それでやらせてあげて、ダメだったら手足を触ってあげる。私は廣岡さんから指導を受けたことで、長く野球ができました。それはなぜかと言えば、大きな故障をしなかったからです。今日の野球教室でも、ケガを防止するためのバランスの良い動作を指導しましたが、私にはその基礎があったから9月で70歳になりますがボールは投げられるし、捕球できるし、打てば打てるだろうし、模範演技かどうかは分からいですが一応、そういう実践ができるという準備の大切さが、師匠からの教訓なわけです」

野球が教えてくれること


実際に体を動かして指導。9月で70歳とは思えない身のこなしだった[写真=高野徹]


 プロ野球OBクラブの野球教室の強みとは何か。9月で70歳になる石毛氏は言った。

「我々の欠点は年を取って、ジジイになっていくという話ですよ(苦笑)。今はプロ野球もやるし、社会人野球もあるし、独立リーグもあるし、大学野球も野球教室をしているわけです。ここに挙げた方は皆若くて、ピチピチしているんですよね。我々はジジイばかりなんで、体はなかなか動かない。だけど、理屈は持っているんです。言葉を持っているんですよ。そういう言葉を子どもたちに伝えることが大切かと思っています」

 この日、子どもたちに強調したのは「声を出すこと」だった。閉会式のあいさつで言った。

「内野手を担当したんですが『声を出せ!』と。ただ、いろいろなタイプがいる。普段は物静か、言葉は少なく、あるいは元気な人もいる。俺の性格は大人しいから、無口だから、野球の練習でも声を出さなくてもいいってことはない。グラウンドでユニフォームを着て練習する以上、仲間がおり、指示が必要なわけだ。そのためには声は大事なんだな。今日は、大きく出せていたと思う。その良い習慣はずっと続けてほしいと思っています。よく言われるのは、苦しい時ほど声を出せ、と。苦しい時にこそ声を出すことが、自分自身を奮い立たせてくれるんです。仲間に元気を与えて、勇気を与えてくれる。例えば、チームメートに元気のない選手がいれば、その何気ない声がけが友達を救うんだな。声というものは、大きな武器になる。自分自身の自己アピール、自己主張にもなる。それを、野球が教えてくれる」

 さらに、熱い言葉が続く。

「俺たちが講師として来ると『皆、甲子園目指して頑張りましょう』『プロを目指して頑張りましょう』と言う人がたくさんいる。それも、大事なこと。だけど、俺たちが長いこと野球やってきて、何が大きな財産かと言えばチームメート、仲間、対戦した相手、これが全部友達になる。社会に出ると、人脈に変わっていく。その仲間が社会に出て、助けてくれるんだな。でも、簡単に仲間はつくれない。自分をごまかして適当にやっていたら友達なんかつくれない。君たちが仲間を見るように、友達も君たちを評価している。生涯の友、仲間をつくっていくのであるならば、真面目に接しよう。そういったことも、野球は教えてくれる」

 野球は奥深い。

「なぜ、アイツは四番なの? なぜ、俺は補欠なの? 相手を見る。観察する。自分と比べる。なぜならば、世の中は人間だらけなんだから。その人間を観察する。なぜ? どうして? 考えること、いろいろやってみること。これを、試行錯誤と言います。社会に出ていくと、自分で考えて営業へ行ったり、工夫することにつながっていく。長く野球をやってきて分かることは、人間として生きる上での大切なことを教えてくれるわけです」

昭和を戦い抜いてきた免疫力


 いつも接している指導者についても言及した。

「先生方を考えてみてほしいと思います。自分の親じゃないけど、先生という立場で、赤の他人の君たちの面倒を見てくれるわけです。節目では先生方に『ありがとうございます』と一言二言、感謝の弁があってもいいと思います。教え子が先生に、仲間が仲間にそういった感謝をするという、なんとなく口にはしますけど、本当に心を込めた感謝ではないような気がするんです。もう一度、足元を見つめ直す。できれば、甲子園を目指してほしいし、プロ野球入ってほしいけど、皆には立派な大人になってほしいと思っています」

 野球教室後、取材に応じた石毛氏は言った。

「私の学生時代は、理不尽なことが少なからずありました。それを決して肯定するつもりはありませんが、そこで鍛えられた免疫力を持っているんです。野球教室では、ふだん、先生方が言わないようなやや厳しい言葉を使って、一般の社会でも戦っていける免疫をつくってあげたいなと思っているんですよ。高校、大学を卒業後、野球を職業にできるのは一握り。はるかに、一般社会に出てくる人の方が多いわけです。今まで『体育会系の学生はいいよね』と言われてきたんです。なぜならば、返事ができる、あいさつができる。協調性がある。不平不満を言わずに、泣き言も言わずに仕事をやってくれるという精神力があったから、そういう人材が必要とされてきました。それが今までスポーツ界、野球界、体育会系の評価であるならば、それは我々が伝え残していかなきゃいけないのかなと思っています」

 昭和を戦い抜いてきた石毛氏。令和を生きる子どもたちに、時代とともに忘れかけてきた古き良き「魂」を、今後も全力で注入していくつもりである。

取材・文=岡本朋祐
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