ブルペン陣を引っ張る存在

5月19日現在、チームトップの登板数を誇る加治屋
長いプロ野球の歴史の中で、
楽天は若いチームだ。2005年からプロ野球に参入し今年で22年目。13年に球団初のリーグ優勝、日本一を成し遂げたが、チームにいるベテラン選手の多くは移籍組で、現在一軍でレギュラーを張る選手たちに当時の経験者はいない。チームの土台が完成しきったとは言えない中、特別な思いを持って今シーズンを迎えたのが
加治屋蓮だ。
「則本さん(
則本昂大、
巨人)が抜けてブルペン最年長になって、求められているものも意気に感じながらというか。ブルペン陣を引っ張っていく存在でなければ一番上に立つ資格もないと思いますから、そういう責任感は強く持って臨んでいます」
則本の移籍が決まった際には「次は僕が頑張ります」と言葉を交わし、託されたバ
トンを強く握る。
「単年で強いチームではなく、ここから長く強くあり続けるために、その土台を作っていかなくてはいけないんじゃないかなと思っています」
強いチームの伝統を作る、そのきっかけに――。
そう思うようになったのは、
阪神時代に見たブルペンの在り方と頼もしい同期たちの存在があったから。23年に前年3位から優勝、日本一を成し遂げ、強くなっていく過程をブルペンで体感したことは大きな財産だ。
「阪神では4年間で上位争いをできるチームになった。その“なった”というところに本当の強さというか伝統として受け継ぐべきものがあると思っています。藤川(
藤川球児)さんが引退されて、ブルペンに残したものを岩崎(
岩崎優)、岩貞(
岩貞祐太)が受け継ぎ、後輩たちに伝えていった。年上の選手が後輩たちを引っ張っていきながら、いい形で下につながれていく。強いチームはそういう伝統、しっかりしたものが受け継がれているのだと感じています」
岩崎と岩貞は同期だが、学ぶことのほうが多かったと語る。そして彼らに出会えたからこそ、楽天で自身がやるべきことが明確になってきた。
「僕の思いや経験を藤平(
藤平尚真)や西垣(
西垣雅矢)に話すことも多いです。彼らが先頭に立って受け継いでくれれば、それがブルペンにもチームにもいい形でずっと回っていくと思うので」
できる限りゲームから離れないことを意識
グラウンドでは積極的に野球の話をする。「プライベートの話をしてはいけないということではないんです。ただ、打者の話をして、配球の話をして、あらゆることに興味を持つことが大事なのかなと。野球って本当に深いので」。30歳になる年に阪神に移籍したが、「野球ってこんなに面白いんだ」とさらに感じることができたという。追求してもし尽くしたと思えることはない。「普段の生活でも野球が頭の中から離れることはない」と、常にアンテナを張る。
「すべて(の情報)を取り入れるということではないですが、新たな情報を得ることによって今日と明日では変わると思うし、今と1分後、2分後は違う考え方ができていると思いますから」
ブルペンでも戦況を見つめながら作戦面などの話をするようにしている。
「リリーフ投手は(離れた場所にある)ブルペンからポンっとグラウンドに出されるんです。だからこそ、できる限りそのゲームから離れないことを意識して、(ブルペンの)テレビを見ながら試合に入り込む空気感を作るようにしています」
そうするに至ったのは昨季の悔しさがあるから。
「シーズン終盤のAクラス争いをする中、大事なところで勝ちを拾えなかった。ですが終盤だけやろうと思ってもできないんです。今日の1試合に懸けれないやつが143試合目に懸けることはできない。だから大事な時に勝ち切れない。準備力や懸ける思い、緊張感は1試合目から143試合目まで同じでなければいけないんです」
投手が自分の役目を終えてベンチにいる時の表情にも気を配る。
「ホッとする気持ちは分かりますが、まだ試合は終わっていない。次に出てくるリリーフ仲間、最後まで戦っている野手がいますから、違うことを考えていたり、気が抜けた表情をしていてはダメ。自分のことだけではなくチームのことを考える、一言でいえば気遣いですよね。それが大事なんじゃないかなと」
さまざまな状況でフル回転

自らの経験をチームに還元することを肝に銘じている
中継ぎ投手は143試合に帯同している。だからこそ「チームのために何ができるかを考えて行動することが大切になる」と加治屋は語る。ブルペンの団結力が浸透していくことで、チーム力はさらに上がっていく。その空気感を作っていきたいのだと。
「個人的な目標は特に設定していないです。そこに対する思いよりも、チームにどれだけ貢献できるかのほうが強いですね」
自身が所属した
ソフトバンク、阪神では優勝を経験してきた。見てきた景色と経験値はチーム屈指。だからこそ、楽天のブルペン陣に何が必要なのか、そして自分にできることは何かを考え続けている。
加治屋は今季、登場曲を変えた。理由を問えば「気分です」と笑ったが、強い自覚を胸に抱き、これまでとは違うシーズンにするという覚悟の表れでもある。
「こういう思いで臨むのは初めてのシーズン。だからこそ、このチームで優勝したい」
今季も点差や状況を問わずマウンドに上がり、フル回転の働きを見せている背番号41。勝っている状況だけではなくイニング途中や火消しなど苦しい場面、厳しい展開のときにもその名が
コールされる。そこで流れを渡さない投球、劣勢でも諦めない姿勢、チームを鼓舞する気迫を示すことができれば、勝負をひっくり返すことだってできる。一つひとつアウトを積み重ね、仲間につなぐ。そうして手にする勝利は「面白い」と語った。
長いシーズンをリリーフ陣なくして戦い抜くことなどできない。打たれれば戦犯。そんな重責を担い、若きブルペン陣と加治屋は今日も勝利を紡いでいく。伝統の1ページ目を刻みながら。
文=阿部ちはる 写真=BBM