昨年に見えていた覚醒の兆候

6月2日の中日戦では9回1安打の完封勝利を挙げた大津
得意の交流戦で9勝2敗と大きく勝ち越し、上昇気流に乗る
ソフトバンク。先発陣をけん引している頼もしい右腕が、プロ4年目の
大津亮介だ。
エースの
リバン・モイネロに一軍登板がなく、
上沢直之も右肘のコンディション不良で5月中旬に登録抹消。
大関友久も8試合登板で2勝4敗、防御率5.55と痛打を浴びる登板が目立つ中、大津は9試合登板で6勝1敗、防御率1.14と安定感が際立っている。6月2日の中日戦(バンテ
リン)では、わずか1安打に抑えてプロ初完投初完封勝利をマーク。7回一死まで完全投球で、11奪三振と完ぺきな投球だった。
覚醒の兆候は昨年に見えていた。5月中旬から2カ月以上のファーム調整と苦しんだが、一軍に復帰登板した7月21日の
西武戦(ベルーナ)で6回1失点の粘投で今季初勝利。「一番は悔しい気持ちが勝っていた。でも、自分の足りない部分を再確認できたと捉える良い期間にもなった。自分のやりたい、覚えたいことを全部やれた。だから今があるのかなと思う」と振り返っている。後半戦は先発ローテーションに定着し、12試合登板で6勝2敗、防御率1.92。
阪神と対戦した日本シリーズでは第4戦の先発を託され、5回無失点。相手左腕・
高橋遥人との投げ合いを制し、
小久保裕紀監督は「夏場以降はローテの一角として自信をつけ、日本シリーズまでやってきた。今、持っている力を全てだそうというのが伝わってきた」と称えていた。
狙い球を絞らせない投球
野球評論家の
伊原春樹氏は、大津の能力を以前から高く評価していた。2024年5月に週刊ベースボールのコラムで以下のように語っている。
「私は茨城トヨペット野球部でアドバイザーを務めているが、日本製鉄鹿島時代の大津と対戦したことがある。身長175cm体重64kgと細身だが、キレのいいボールを投げ込んでいた。当時から何よりも目を引いたのはコントロール。ストレート、変化球を低めに集め、四球から崩れる心配がない投手だった。プロでもそのスタイルは変わらない。(24年は)ここまで20イニングに投げ、与四球はわずか2個。与四球率は0.90で、投手の制球力を示す指標であるK/BBは8.50と球界トップレベルの数値をたたき出している」
「変化球も多彩だ。スライダー、カットボール、カーブ、ワンシーム、チェンジアップ、フォークを操る。ストレートの投球割合は約29%と低く、6種類の変化球をバランス良く投げ分けている。ほとんどの球種が勝負球としても有効で、特にチェンジアップは奪空振り率が32.9%に達するなど抜群のキレ味を誇っている。さまざまな変化球を使って、打者に狙い球を絞らせないピッチング。ストレート主体、変化球主体など、いろいろな投球パターンで対することができるから打者は裏をかかれることが多く、かなり厄介だろう」
社会人野球で味わった試練
多彩な変化球を高い精度で操る投球スタイルの原点は、社会人野球で味わった試練だった。
「社会人1年目の都市対抗予選で、大事な試合で先発をしたんです。当時は真っすぐが良かったので、オ
ラオラで投げていた。今じゃ考えられないくらい、声を出して投げていました(笑)。球自体は高めに強いボールがいっていたんですけど、それをはじき返された。がむしゃらに投げて、負けて終わったんです。そのオフに、この1年でプロに行きたかったら、自分の投球を見直す必要があると。ほぼ真っすぐとスライダーだけで勝負をしていたんですが、もっと楽に打ち取れる方法があるなと思ったんです。それから小さい変化を、自分の中で勉強しました。遊び感覚から始めて、すぐにいろいろ投げてみましたね」
今年は直球の球威、キレが増したことで変化球がさらに効果的になっている。今季登板した9試合すべての登板でクオリティスタート(先発投手が6イニング以上投げて自責点3以内)を記録。打たせて取るタイプの投手だが、63回1/3を投げて58三振と奪三振能力が上がっていることが、27歳右腕の進化を象徴している。
自身初の規定投球回数到達&2ケタ勝利は通過点に過ぎない。投手タイトルを総ナメにする活躍で、リーグ3連覇を目指す。
写真=BBM