チームの現在地を象徴するプレー

交流戦で初優勝を飾った西口監督率いる西武
3年連続Bクラスからの再建を目指す西武は交流戦を14勝3敗1分け(勝率.824)の史上最高勝率で球団史上初優勝を果たした。交流戦で積み上げた貯金は11。シーズン通算でも18まで増やし、リーグ首位で6月19日のリーグ戦再開(
オリックス戦・京セラドーム)を迎える。
交流戦6カードすべてに勝ち越したチームの現在地を象徴するプレーが、6月7日の
中日戦(バンテ
リン)にあった。
1対1の同点で迎えた延長11回裏。西武は二死満塁というサヨナラ負けの大ピンチを迎えていた。六番手・
上田大河は四番・
細川成也をストレートの四球で歩かせると、続く
板山祐太郎への初球・フォークも外れて5球連続ボール。敵地のドラゴンズファンがサヨナラ勝ちをした初戦の再現を期待し、球場のボルテージは最高潮に達していた。まさに絶体絶命の場面だった。
しかし、この場面で上田はセットポジションから鋭く体を反転させ、一塁へ素早いけん制球を送った。アンツーカーを越える大きなリードを取っていた細川の死角から一塁手・
ネビンが絶妙なタイミングでベースへ入り、そのままタッチアウト。サヨナラムードに包まれていたバンテリンドームが一瞬で静まり返った。これで流れは完全に西武へ傾く。直後の12回表に
長谷川信哉の決勝ソロ本塁打、
古賀悠斗の2点適時打で3点を奪い、4対1で勝利した。
上田は「あれは柘植さんからサインが出たので。タイミング的にはギリギリでしたね」と振り返る。ネビンがベースへ入るタイミング、上田の送球、すべてがかみ合わなければ即サヨナラ負けにつながりかねない紙一重のプレーだった。
いい守備からつくる攻撃のリズム

6月7日の中日戦、サヨナラ負けのピンチを切り抜けたピックオフプレー
このピックオフプレーは昨年6月12日の
阪神戦(ベルーナ)でも
山田陽翔、古賀、ネビンが成功させている。通常は春季キャンプや球宴期間中の全体練習で確認する年に一度あるかないかのサインプレーだ。キャンプを二軍B班(高知・春野)で過ごした上田は一軍A班(宮崎・南郷)の投内連係には参加していなかったが、「高知でも投手同士でやっていました」と話す。チーム全体に浸透している共通メニューだからこそ、とっさの場面でも迷いなく実行できた。
サインを出した捕手・
柘植世那は「1球目を投げて(細川の)リードがデカいなと思った。ベンチを見たらコーチから『いいよ』という感じでサインが出た。あとは練習どおりにやるだけなので、アウトにすることしか考えていなかった」と明かす。サヨナラ負けのリスクを恐れるのではなく、相手の隙を見逃さない。その姿勢が勝負を分けた。
黒田哲史内野守備・走塁コーチも「あそこは勝負に行った。練習はたくさんしてきたので、失敗することは考えなかった」と言い切る。さらに「ネビンは守備がうまいので助かります。打撃ももちろんですが、守備も安心して見ていられるし、任せられる」と信頼を寄せた。
そしてチームの現在地をこう表現する。
「ベンチも含めてね。野球ってそういうものじゃないですか。相手の隙を突くじゃないですけど。けん制だけじゃなくて、常に相手の隙をうかがう。そこにどれだけつけ込めるか。ウチはできるだけ隙を見せないように。それはキャンプから口酸っぱく言ってきたことですから」
交流戦で球団史上初の優勝を成し遂げた西武。その強さの根底には、底上げした攻撃力や12球団屈指の投手力だけではない、相手の隙を見逃さず、自らは隙を作らない。そんなソツのない伝統の「ライオンズ野球」の徹底がある。
いい守備から攻撃のリズムをつくるために。ベンチを含めた全選手、首脳陣が目の前の1試合、1球、ワンプレーに集中できていることこそが今年のライオンズの強さを際立たせている。
文=伊藤順一 写真=榎本郁也