衰えない一軍の快進撃

高卒ルーキーながらファームで好結果を残す横田
一軍の好調が、ファームの育成にも好影響をもたらしている。
交流戦を史上最高勝率の.824で制した
西武は、リーグ戦再開後の
オリックス戦(京セラ)でも好調を維持。敵地で2勝1敗と勝ち越し、貯金を今季最多の19まで伸ばした。これで5月以降は14カード連続で負け越しなし。うち13カードで勝ち越しを決め、この間、40試合で30勝9敗1分け(勝率.769)と快進撃は一向に衰えない。
球団ワーストのシーズン91敗を喫した2年前を思えば、この短期間での変貌ぶりは際立つ。2024年は交流戦前までに借金15を抱え、
松井稼頭央監督が休養。
渡辺久信GMが監督代行として立て直しを図ったが流れは変わらず、交流戦でさらに借金を10増やした。最終的には借金42を抱え、球団史に残る歴史的低迷シーズンとなった。
昨季までの西武は慢性的な得点力不足に苦しみ、野手の入れ替えも頻繁だった。しかし今季は様相が異なる。故障や出番のない控え野手の入れ替えこそあるものの、打線はチーム打率.249(リーグ2位)、255得点(同3位)と好調を維持。チーム内競争は維持しながらスタメンの固定化が進み、控え選手の役割も明確になっている。
その結果、二軍で打率.281、6本塁打、21打点の
村田怜音、打率.303、3本塁打、20打点の
蛭間拓哉といった好成績を残す選手でさえ、一軍昇格の機会をなかなか得られない状況が発生している。
中村剛也、
炭谷銀仁朗といった実績十分のベテラン勢も、開幕から2カ月半以上が経過した6月下旬になっても一軍登録はない。貯金19を積み上げ、パ・リーグ首位を走る現在の一軍は、ベテランや二軍で結果を残す若手、中堅選手にとって極めて高い壁となっている。
育成のサイクルが機能
しかし、その一方でライオンズの未来を担う若手や育成対象の選手たちにとっては、腰を据えて成長が見込める環境が生まれている。
二軍関係者は語る。
「3年後、5年後の未来を見た場合、高卒の野手についてはじっくり時間をかけて育てられる。上に空きがない今の状況はある意味で理想的かもしれない」
一軍のチーム状況に左右されることなく、ファームで課題克服と実戦経験を積ませることができる。近年の西武では珍しい育成サイクルが機能し始めている。それを象徴する存在が、今年ドラフト5位で入団してきた高卒ルーキーの
横田蒼和だ。
6月14日のファーム中地区・
中日戦(カーミニーク)では、二軍調整中だったWBC日本代表右腕・
高橋宏斗の153キロ直球を捉え、プロ初本塁打を右翼へ運んだ。高卒1年目とは思えないスイングスピードと対応力で、周囲に強烈なインパクトを残した。規定打席には到達していないものの、ここまで47試合で打率.302、1本塁打、23打点をマーク。首脳陣の評価も高い。
小関竜也ファーム監督は「打撃はいいですよ。どんな投手に対してもしっかりとバットを振れる。もちろん(高卒1年目なので)課題はありますけど、(三塁、遊撃の)守備のほうもスローイングはすごくいいですから。本当に楽しみな選手」と期待を寄せる。
また、
赤田将吾二軍野手コーチも「バットコントロールは天才的なものがあります。2ストライクに追い込まれてもなかなか三振をしない。高卒の野手としてはかなりのレベルにある」と、その打撃センスを高く評価している。
高卒野手がチームの中心を担う伝統
昨年までの西武であれば、こうした有望株がいれば早い段階で一軍に抜てきするケースも少なくなかった。しかし、2019年以来7年ぶりのリーグ優勝を狙う今季は、各ポジションに確立された戦力が並び、経験を積ませるためだけの昇格枠は存在しない。
だが、それは決してマイナスではない。能力の高い若手に一軍のレベルを経験させることも重要な育成過程だが、かつての
中島裕之(その後、宏之)がそうだったように、「二軍のレギュラー」として数年間鍛え上げる育成法もある。コーチが付きっきりで課題をつぶしながら成長を促し、当時の正遊撃手だった松井のメジャー移籍というタイミングで、その穴を埋める存在へと成長した。
ライオンズの歴史を振り返っても、黄金期には
秋山幸二、
伊東勤、
清原和博が、その後も松井、中島、
栗山巧、中村剛、炭谷、
浅村栄斗、
森友哉と常に高卒の野手が長くチームの中心的役割を担ってきた。
一軍の快進撃が続くほど、ファームは腰を据えた育成に専念できる。西武の再建は単なる首位快走では終わらない。横田や2024年のドラフトで1位指名された
齋藤大翔ら若き才能が着実に力を蓄えていることこそ、ライオンズ再建の確かな証しと言えるのではないだろうか。
文=伊藤順一 写真=BBM