アメリカは休学制度が定着

帰国直後の疲れも見せず、凛々しい表情で受け答えした[写真=菅原淳]
誠実な人柄がにじみ出ていた。スタン
フォード大・
佐々木麟太郎(21歳)が6月29日に帰国し、羽田空港でメディアの取材に応じた。38媒体68人が詰めかけ、注目度の高さをあらためて示した。昨年10月23日のドラフト会議で
ソフトバンクから1位指名。7月1日から2日間、福岡を訪れ、各種施設の見学、球団関係者とも面談し、育成方針も聞くという。
佐々木はスタンフォード大での2年目のシーズンを終えた。昨年は52試合出場、打率.269、7本塁打、41打点に対して、今年は54試合出場、打率.262、16本塁打、47打点と成長の跡を残した。今年からMLBドラフトの対象選手であり、現地時間6月23日からはアリゾナ州で行われた「ドラフト・コンバイン」に参加。ドラフト候補約300人による公開テストの場だった。佐々木はMLB関係者の前で、持ち味の長打力を披露した。
MLBドラフトは現地時間の7月11、12日に控える。佐々木には3つの選択肢がある。
【1】ソフトバンクに入団。NPBで実績を残した上でMLB入りを目指す。「休学制度」を利用して、現役引退後に復学
【2】MLBドラフト指名を受け「休学制度」を利用してMLB入り。現役引退後に復学
【3】今年はNPB、MLB入りせず、在学して3年目シーズンに備える
アメリカでは一つの教育文化として「休学制度」が定着している。まずは競技を優先し、オフシーズンや引退後に学位を取得することが一般的に行われている。スタンフォード大はアスリート支援に寛容であり、期間を設けず、履修することができるという。過去にも同大学出身のMLB、NFL、NBAのスター選手が「挑戦→復学→卒業」という道を歩んできた。佐々木の場合、MLBに限らず、NPBに進んだ場合でも適用され、人生の選択の幅が広がる。トップアスリートとして活躍する時間には期限があるが「学問はいつでもできる」という考え。佐々木はかねてから留学の大前提として「意志として、卒業したい。揺るぎないものがある」と語ったことがある。「野球だけできる人間を目指しているのではなく、野球もできる人間になりたい」。その根底が揺らぐことはない。
垣間見えてきた「プロ意識」

38媒体68人の報道陣が詰めかけた[写真=菅原淳]
まずは、ソフトバンクとの面談が控える。佐々木のコメントを聞く限り、好印象を抱いているのは間違いない。昨年のドラフト後、
城島健司CBOが指名挨拶に現地へ出向いている。
「率直に自分自身が求められているという感覚をすごく感じました。うれしかったですし、メジャーも経験されている素晴らしい選手であり、今は球団を率いている方。本当に素晴らしい人であり、素晴らしい野球選手というイメージが、第一印象でした。自分自身、子どものころからプロ野球選手に憧れていましたので、単純に城島さんとお会いできたというのは心からうれしかったです」
あらためて球団の印象を語っている。
「間違いなく、球界を代表する強いチームというイメージを持っていますし、打撃のほうに特化しているようなチームというイメージもある。入ってみないと分からないですけど、そこに関しては、自分のプレースタイルにマッチしてくるところもあるんじゃないかなと思うので、とにかく素晴らしいチームというのが第一印象です」
福岡の地に降り立つのは、初めてである。「プロ意識」が垣間見えてきた。
「野球以外も含めて、地域に触れられる部分で、すごく楽しみにしています。球団に属するということは、地元のファンの皆さん、地元の土地柄にも触れることになります。それはどこの球団、どこの国でも、あることかなと思います。球団さん、福岡を知るという意味では、すごく素晴らしい経験になる。それが、いい感じにつながるんじゃないかなと思います」
MLBドラフトを待った上での決断になる。当日の動きは未定だという。
「自分自身の代理人含めて、どうするかはこれから決めることになります。まだ不透明なところが多いですし、初めてのケースなので、予測ができないところが正直なところです。楽しみではあると思っているんですけど、もちろん不安かと言われたら、あります。プレッシャーもありますが、そこに関しての宿命、責任を感じています。まだどこが自分の中で1番のオプションというのはない。3つの選択肢があることに感謝しながら決めていきたい」
王会長からのラブコール

ソフトバンクとの面談を終えた後は地元・岩手に戻り、イベントに参加。花巻では家族との時間も過ごす予定だという[写真=菅原淳]
現在の自身の立場について、こう言及した。
「自分自身、この道を選んで、そこは、向き合わなきゃいけない時間です。まずここまで自分自身が歩めてきたのも、いろいろな人たちのサポートが間違いなくありますし、今置かれている自分自身の境遇というのは、人よりも責任であったり、覚悟が必要になってくるんですけども、それ以上にやはり、自分の中では感謝の気持ちが強いです。この1カ月、おそらく自分の中でも人生の中で、一番ストレスになることが多いと思うんですけど、それをしっかり向き合って決めることが、自分の野球選手として、人間としての生き方であって、宿命なのかなというふうに思っています。この1カ月以内には、次の道が見えてくると思うので、そこに関してはプレッシャーもあるんですけど、それ以上に、楽しみがあります」
ソフトバンク・
王貞治球団会長は29日午前、東京都内で行われた「第32回世界少年野球大会 成田大会」の記者発表会後に取材に応じ、佐々木について語り、改めてラブ
コールを送った。
「我々としては、ドラフト1位指名したということで意思表示はしているわけですので、ウチを選んでくれればいいなとは思っています。どうしてもメジャーに対する魅力というのは、あの大谷君の活躍を見たら、そういうふうに考えるだろうけど、我々としては日本でまず、弾みをつけてからアメリカへ行ってほしいなと、そう思いますね。やっぱり長打力というのは、後に身につけられるものではない。それを最初から持っているということは、魅力ですよね。最近、プロ野球を見ていても、ホームランで一発逆転という試合が多いじゃないですか。ホームランでないと、なかなか点が入らない試合もある。ファンの人が一番望んでいるのは、ホームラン。そういうファンの人の思い、期待に応えられる持ち味を持っている選手というのが、やっぱり求められるでしょうね」
佐々木の耳にも、世界のホームラン王のメッセージは届いたはず。球界の超レジェンドからの最高評価に感謝しつつも、自らの意志を持って行動してきたポリシーは不変だ。この日の取材対応の冒頭あいさつでは、周囲への心配りがあった。毎度のことだが、驚かされる。
「わざわざこんな私の、私事ですけども、お越しいただいて、お集まりいただいて、本当に大変心から感謝を申し上げます。今日現在で答えられること、自分の心境を、いま分かる現状にはなってくるんですけど、誠心誠意、いま自分が答えられることは、お答えさせていただきたいなと思っています」
つまり、純粋に夢を追う若者を、応援したくなる。21歳がどんな決断をしようとも、そのチャレンジは「正解」なのである。