週刊ベースボールONLINE

社会人野球リポート

【第97回都市対抗野球大会】東海理化硬式野球部が新たに発信する「Design Baseball」とは何か

 

3つの強みを再確認


東海理化の主将・武藤は愛工大名電高、中部学院大を経て入社して7年目。主将就任3年目でリーダーシップに長けている[写真提供=東海理化硬式野球部]


 東海理化は全国屈指の激戦区である都市対抗東海地区二次予選を第3代表で突破、2年ぶり8回目の本大会出場を決めた。12年ぶりの出場だった23年には1970年の初陣から53年越しで悲願の大会初勝利。2回戦も突破して、初の8強進出と躍進を遂げた。24年は2年連続出場も1回戦敗退を喫し、昨年は二次予選敗退の屈辱を味わった。まさに天国と地獄。24年から主将を務める入社7年目の武藤健司(中部学院大)は1年前をこう回顧する。

「つらいというか、喪失感じゃないですけど、目標のない中で練習をするのが一番きついというか……。そういう現実は、酷でしたね……。ベスト8のときは、勢いそのままみたいな感じで……。今思えば、東海理化はベスト8で負けるチームでした。勢いだけでは3つ以上は勝てないというのは、すごく後になってから感じた部分です。今のほうが日本一に向けてどう刻んで、どう取り組んでいこうと明確なビジョンがある。だからこそ、チームとしての共通言語じゃないですけど、熱量は全然、違うと思います」

 東京ドーム切符を決めたのは6月12日。組み合わせ抽選会は7月23日に予定され、本戦は8月26日に開幕する。相当、待たされる上、間延びしないのか……心配無用だった。

「時間が空くので結構、自分たち振り返りの時間として長く使えるので、現状の把握とこれからどうしていこうというアプローチの仕方については、選手とスタッフ含めて密にコミュニケーション取れました。そこは、ありがたい期間かなというのはあります。ウチの強みは何かというのをもう1回、みんなで再確認しようというのを、重きに置いてきました。その強みを選手とスタッフ全員が共有した中で、東京ドームでどのようにして日本一を取るか、というミーティングを重ねています。東海理化イコール、チーム力と言っても過言ではないです。そのチーム力の中に、3つのウチの強みが入っているんです」

 まずは、シートノックである。

「試合が始まる前のシートノックの段階でもう、相手を圧倒するというか……。試合が始まるまでに、場内をウチの雰囲気にし、空気感を支配した中でプレーボールするんです。シートノックは前々から力を入れていこうとやっていたんですけど、人間というのはどうしてもマンネリ、慣れとかがあって、徹底できていない部分が結構あったんです。松本さん(隆宏、チーム強化推進アドバイザー)が加入してから『本当の強みは何か』と言われたんです。松本さんはスタンドから見ていて、シートノックというのは、ただの準備ではない、という話になり、より意識を高めるようにしたんです。準備の気持ちでやっていると、試合の一発目は緊張したりすると思うんですけど、シートノックを120パーセントで行くことで、プレーボールの段階では試合中盤ぐらいのテンションで入れるわけです。相手も圧倒できるし、自分たちとしても、気持ち的に楽に入れる効果があります」

 夏の甲子園では、試合前のシートノックをキャンセルし、体力を温存できる時代である。ゲーム前からスタミナを消耗しないのか。武藤主将は笑顔で、チーム指針を熱く語った。

「エネルギーは使いますけど、皆、それをやれば、勝てると分かっている。私たちが目指しているのは、そのシートノックから見に来てもらえるような野球チームにしたいねと、皆で話しているんです。普通ならば、お客さんは試合開始に合わせて球場入りしますが、東海理化だったらシートノックから見たいね、と。社会人野球には、あまりないスタイルだと思うんですけど、そこは東海理化としてこだわっているところです」

 次なる強みは「凡事徹底」である。

「社会人野球選手ですけど、一人の会社員として応援されるチーム、会社生活も含めて細部に宿るじゃないですけど、本当に隙のないチームが、結果を残すんです。東京ドームに行くと1点差とか接戦、劣勢のゲーム展開となった際、詰めの甘いチームが負けている傾向が強いと感じています。他のチームよりも、当たり前のレベルを上げるじゃないですけど、誰でもできることをしっかり全力でやるというのは、ものすごく意識している部分です」

 3つめはゲームにおいて「仕掛け続ける」というスタンスである。

「ウチの過去のデータを収集した際、終盤に点が入る展開が多いんです。後半勝負と言えば、聞こえが良いですが、一方でなぜ、序盤から畳み掛けられないんだという課題がありました。チャレンジ精神じゃないですけど、仕掛け続ける、攻め続ける。すべてにおいて先手で行くみたいな感じです。どれだけミスをしても、皆でカバーする。シートノックにも通ずる話なんですが、そこから仕掛け続けて、1試合攻め続けるというのをウチの強みとしています」

「M'sノート」の効果


チームでは主将で四番・一塁。打線の中心としてけん引する[写真提供=東海理化硬式野球部]


 この1年でチームは変貌した。なぜ、ここまでポジティブに語れるのか。昨年8月末。新たなチームスタッフとして松本隆宏チーム強化推進アドバイザーが就任したことが大きい。

「僕は松本さんと出会って、ものすごく変わった選手の一人だと思います」

 同社野球部に示したのは「Design Baseball」だ。「設計して勝つ」ことをテーマにしている。自分の強みと課題を向き合い、チームとしての目標を共有しながら、実践と反省を反復していく。その過程を繰り返す上で、日課となっているのは部員個々が記入する「M'sノート」。使命・ビジョン(Mission)、心の在り方(Mind)、セルフマネジメント・時間管理(Management)を土台に、成長と進化を続け、結果を求めるために欠かせない手帳である。

 ノートは序章から始まり、14項目にわたる約2センチの分厚さである。今年3月に配布され、武藤主将は「このノートはものすごく大切というか、宝物になっています」と明かす。

「『感謝日記』を書くページがあり『毎日、ありがとう』みたいなことを書くんですが、この一冊で心の充実度が増します。試合の振り返りも記入でき、項目ごとにさまざまな問いがあって、自分自身と振り返る時間になる。人に感謝を伝えるとか、1日を『ありがとう』で終えると、翌日も良い1日が始められるんです。一般的には、本当にうれしいことだけが『ありがとう』になるんですけど、些細なことの『ありがとう』に気づけるようになったり、今までありがとうと感じてなかったことを、逆に感じられたり。会社で仕事をしていく上で、自分一人では何もできない。地域、会社、社員、家族含めて周りに支えられており、感謝を伝える。大切なワードとして『謙虚』も入ってくるんですけど『ありがとう』を伝えると、研究的にも良い方向に進む、と。チームスポーツだからこそ、皆のモチベーションも含めて大事な部分です。松本さんからはすごく学ばせてもらっています」

 独自の取り組みはまだある。

「3人1組、4人1組ぐらいで9班に分かれる『メンタリング制度』を月1、2回実施しています。1グループで長男、次男、三男みたいに、本当の家族、兄弟みたいな感じで話し合いの場が設定されます。自分の現状や、テーマを決めた中でディスカッションするんですが、若手だけだと、あまりうまく回らないんですけど、若手、中堅、ベテランと年齢層で分けて対話を重ねることで、『学び合い、支え合い、ともに成長する』力が醸成される。結果、チーム全体が強化されるんです。実践している社会人野球チームはほぼないと思います」

 都市対抗二次予選では「メンタリング制度」の成果が出た。第1代表決定トーナメント2回戦でトヨタ自動車に敗退。東海理化は第3代表決定トーナメント(敗者復活戦)に回った。東海地区は第6代表までがあるとはいえ、もう負けられない展開へと追い込まれた。

「トヨタ自動車に負けた後、メンタリング制度のグループリーダー(長男)だけでミーティングをしたんです。一区切りつけてから、チームとしても1回、再スタートで挑もう、と。仕掛け続けられていなかったとか『強豪・トヨタ』という名前があったから、受け身だったんじゃないのかなど、反省点をすべて洗い出したんです。グループリーダーで集まった後、選手全体の緊急ミーティングを開いて、チームとしての徹底事項を再度、明確にしました。9人のベテランであるグループリーダーが率先して動き意思統一し、下の世代に落とし込むことで、本当の意味での勢いと一体感が増していった感じはありました」

 第3代表決定トーナメント準決勝では昨年11月の社会人日本選手権の優勝チームであるヤマハを0対2の劣勢から7対3で下し、ジェイプロジェクトとの第3代表決定戦では3対4の9回裏に2点を奪ってサヨナラ勝ち。チーム力の差が出る「接戦」を制したのだ。予選突破、本戦出場が目的ではない。目標である「日本一」への挑戦権を手にしたに過ぎない。

自ら設計する新たな野球を発信


チームでは今年3月から「M'sノート」を活用。大きな力となっている [写真提供=東海理化硬式野球部]


「Design Baseball」において、東海理化は26年の都市対抗優勝、27年の社会人日本選手権優勝、28年の二大大会制覇(都市対抗優勝、社会人日本選手権優勝)を掲げている。決して夢物語ではない。確固たる裏付けがあってのビジョンである。

「先に自分たちから設計する、新たな野球です。未来から描いて、その場面が来たら、僕たちの野球が始まる。他チームに比べて、準備力の差はものすごくあると思います。自主練をするよりも、コミュニケーションを取るグループワーク、もしくは選手、スタッフを合わせた全員のワークとか、そちらのほうが大事じゃないっていうのを今年になって理解するようになりました。土壇場ではチーム力が大事になると言ったとき、そういう信頼関係というのは、練習だけではなくて、コミュニケーションの場で築かれると思います。ある投手が打たれても、打って返そうとか、投手と野手が、持ちつ持たれつみたいな強固な絆がいまのチームにはあると思います」

 社会人野球は紙一重。微差が大差となるのは、やはり、気持ちの部分なのである。

「東京ドームに行けば、皆、上手い選手がいる中で『じゃあ、どうやって勝つの?』と言ったら、最近もよく話をするんですけど、自分たちがコントロールできることに集中するしかないんです。自分たちができることだけに100パーセント重きを置いて、それで負けたら仕方ないぐらいの感じのスタンスでいます。なおさら、シンプルに『仕掛け続ける』ことができていると思います。先を描くことで、そこにしか執着がないというか……。今年であれば、9月6日に都市対抗で東海理化が優勝しているんです。(取材日から)9月6日まであと66日。毎日、日付を皆で変えたりしているんですけど、全員が同じ目標に向かって、1日ずつ刻んでいく。本当に先に描くことで、皆がそちらに引き寄せられるし、先に大事な予定を入れるとか、大事な目標を立てるとか、そういうのはやっぱり大事だなというのが再認識できました」

社会人野球が存在する意義


 この1年で、大きな進歩である。

「松本さんが東海理化に最初に来て、チームの印象を語る機会があったんですけど、第三者目線から見て、東海理化はあまり自信を持てていないというか、自分たちがドームで勝てるというマインドがないと感じたそうです。3年前にはベスト8にまで行った力があるのに、自らその可能性を閉ざしているような感覚に見受けられたそうなんです。『ベスト8からどうやって日本一を取るかを考えていけばいいんじゃないですか』みたいなことを言われたときに、皆、そこまでの考えには及んでいなくて……。いま、考えれば、あのベスト8もノリと勢いだったのかなというのは、めちゃくちゃ思いますね」

 社会人野球が存在する意義。都市対抗野球。東海理化は豊川市代表として出場する。

「会社も含めて、スポーツの力がその人を動かすじゃないですけど、やっぱり僕たちのプレーとか、必死な姿を見て、いろいろな非日常的な、そういうハラハラドキドキとか、そのワクワクとかがやっぱり届けられるのが、僕らの魅力の一つでもあると思うんです。足を運んでいただき、自分たちが勝つことで地域貢献にもなります。少年野球教室で教えた子どもたちが応援に来て、また野球やりたいなと思ってもらえるほど、僕たちからすればこれ以上、うれしいことはありません。企業価値としては高いんじゃないかなというのは感じます」

「知力」「心力」が備わっている理由


 今年3月、チームとして全日本野球協会・山中正竹会長の講演を聞く機会に恵まれた。山中会長は住友金属の左腕投手で活躍し、選手、指導者として都市対抗優勝を経験している。

「山中さんは『凡事徹底』を強調され、当たり前のことを当たり前にやるレベルをどんどん上げていくチームが勝つチームということを言われていました。優勝経験があるからこそ話されていたのが、どれだけスター軍団が集まっても優勝できる保証はない、と。人として、チームとして、結束力があるチームが最終的に勝つ、と。その言葉を聞いて、東海理化にも合致すると思ったんです。ウチもそんなスーパースターがいるかと言われたら、そんなチームではありません。強豪チームと、他の部分で、どこで差をつけるかと言えば、細かい部分にまで気を配る徹底力であると、山中さんの講演で再認識しました。山中さんの一言目は『野球から学び、野球を学ぶ』。もう、パワーワードの連続でした……」

 メンタルが充実した東海理化、新たな風を吹かせそうな予感がする。

「都市対抗出場が決まり、本戦が近づくにつれて、緊張、不安とかがあると思うんですけど、ウチのチームはワクワクが勝っているんです。早く試合がしたい、と。皆で先を描いているからこそ、すごく前向きに、大会本番までの日付が少なくなっていることさえも楽しめるようなチームになってきているので、あとは東京ドームでケガなく全員で臨むだけかなというのは感じています」

 1回戦から頂点まで5連勝が必要である。設計通りであれば「9.6」の決勝を見据えているはずだが、あくまでも取り組みの過程である。目の前の戦いに全神経を研ぎ澄ませる。武藤主将は言う。

「ちょっと矛盾するところがあるんですけど、チームとしては一戦必勝を掲げています。ただ、M'sノートには日本一を達成するという明確な目標があるので、オープン戦では5連勝を意識してきました。5つ勝つために、オープン戦から勝ち癖じゃないですけど、誰が出ても、どんな球場でやっても、どこが相手でも勝つチームは、東京ドームでも勝てるんじゃないかなというのを皆で話しています。負ければ終わりの一発勝負のトーナメントですから、まずは一つずつ、一戦一戦やっていこうというゲームプランになると思います」

 東海理化はスポーツ界における斬新なメソッドで「知力」と「心力」が備わっている。「戦う集団」は白球を通じて、社会人野球から新たな思考力を発信していく。

取材・文=岡本朋祐
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング