社会人では野手スタート

今季は開幕から順調に勝ち星を積み重ねている加藤
日本ハムは7月3日の
楽天戦(楽天モバイル)で0対8と大敗を喫して連勝が5で止まったが、尾を引かない負け方なので気持ちを切り替えられるだろう。首位・
ソフトバンクを3ゲーム差で追いかける中、先発陣を支える大黒柱の一人が技巧派左腕の
加藤貴之だ。
球が速くなくても、抜群の制球力があればプロの世界で勝てることを体現している。7月1日の
オリックス戦(エスコンF)で9回を3安打と抑え込み、2年ぶりの完封勝利。この日の直球は最速140キロと決して速くなかったが、カットボール、
シュート、スライダーと精度の高い変化球とのコンビネーションで凡打の山を築く。108球を投げて四死球はゼロ。短い投球間隔からからテンポよく投げ込み、2時間20分で試合を終わらせた。チームメートの
伊藤大海、
北山亘基らと並ぶリーグトップタイの8勝目をマークした。
投手としての原点は、社会人野球・新日鐵住金かずさマジックだ。高校を卒業したばかりで体の成長が止まっていないため、投手に戻る前提で野手としてスタート。社会人野球の環境に慣れながらフィジカルの基礎を作ったが、「野手は大変でした。守るのが一番大変でしたね。打球も速かったし、怖かった」と振り返る。
責任感の強い性格は当時から変わらない。投手に復帰して4年目の夏にドラフトの上位候補に挙がったが、かずさマジックへの残留を決断。「プロに行きたい気持ちもあったんですけど、会社に何も貢献していない。肘も痛めて3カ月くらいボールを投げていなかったですし。もう1年、自分を磨いて、来年こそはプロに行くぞって。それだけですね」と明かしている。
投球スタイルのターニングポイント
社会人野球で5年間鍛え上げられ、日本ハムにドラフト2位で入団。2022年に2年連続規定投球回をクリアして11四球と、シーズン最少与四球のプロ野球記録を72年ぶりに更新した。「精密機械」と称される投球スタイルのターニングポイントになる試合があった。6月7日の
DeNA戦(札幌ドーム)。0対0の5回に無死一塁で
宮崎敏郎に、内角へ糸を引くような140キロのストレートが決まった。ブルペンで投げるときのように力が抜けた感覚でリリースするが、ボールが走る。続く
ネフタリ・ソト(現
ロッテ)にも力感なく内角に139キロの直球を投じると、ソトのバットが空を切った。
「最後の真っすぐは、コースだけしっかり投げようと思ったボールが、何か力が抜けて、ミットに収まった。空振り三振したことはたまたまだと思うんですけど、その1球で『力が抜けても、力を入れたときと変わらないような真っすぐが行くんだ』と思って。そこから力を入れることは捨てて、ボール球の率が低くなり、ストライクゾーンに(さらに)行きやすくなった」
楽しいことをイメージしながら
24年まで4年連続規定投球回に到達していたが、昨年は悔しい思いをした。チーム事情で登板間隔が空いたことも影響したのか、安定感に欠けて早いイニングで降板するマウンドが目立った。投球回数は119回にとどまり、166回2/3を投げた前年と同じ15被弾。CSでは先発機会がなかった。20試合登板で9勝6敗、防御率3.40は決して悪い数字ではなかったが、満足できるシーズンではなかった。
プロ11年目を迎えた34歳はベテランと呼ばれる立ち位置にいる。もっと評価されていい投手に思えるが、謙虚な振る舞いで自身が目立つことを好まない。チームは
新庄剛志監督の下で再建の時期を経て、24年から2年連続2位。普段はクールな左腕が10年ぶりのV奪回に向け、週刊ベースボールの取材で思いを語っている。
「今季は1年間まず先発ローテーションを守って、チームの戦力としてもう1回認めてもらえるように頑張りたいと思っています。去年は自分自身、本当に悔しい思いもしました。大海(伊藤大海)とか有原(
有原航平)もいますけども、自分も規定投球回に乗って負けずに食らいついていけるように頑張りたいです。やっぱり、もう1回みんなでビールかけをしたいです。(前回優勝の2016年は)1年目だったので、あんまりはっちゃけることもできなかったんで(笑)。今回はいろんな衣装とかを着て、みんなでワイワイやりたい……まあ、僕はやらないですけど(笑)。とにかく楽しいことをイメージしながら、しっかりとシーズンを戦っていきたいと思います」
暑い夏場も、精密機械に乱れはない。白星を積み重ねて頂点を目指す。
写真=BBM