朝3時まで猛勉強

法政二高のエース・松田は1失点完投勝利で4回戦進出を決めた[写真=BBM]
▽神奈川大会3回戦(7月14日)
法政二高6-1星槎国際湘南高
学生野球は学校教育の一環だ。高校生は学校生活が軸。法政二高は星槎国際湘南高との3回戦前日(7月13日)が、3年生期末試験の「追試」だった。1回戦(同8日、対森村学園高)が試験最終日と重なり「校欠」扱い。13日は「代替」として、英文法と数学を受けた。
エース右腕・松田早太(3年)は朝3時まで勉強して、テストに臨んだという。法政二高は法政大学の付属校であるが「エスカレーター」というわけにはいかない。一定の成績をクリアしなければ、大学からの推薦を受けることはできない、いくつものハードルがある。
コンディションの調整が難しい中ではあったが、松田は言い訳をしない。「お腹が痛くなってしまうんです」と夏本番でも自宅でエアコンは極力かけず、体調を整えてきた。先発した3回戦、9回169球を一人で投げ切り、1失点完投(6対1)。被安打3で毎回の15奪三振と圧倒した。指のかかりが良い。本人は「球速は分かりません」と苦笑いを浮かべるが、140キロ近いストレートはキレがある。縦変化するカーブとのコンビネーションも抜群だ。
「低めに伸びのあるボールというのを、春から夏にかけて意識してきました。春の県大会は高めに抜けたボールを打たれて終わってしまったので、そこを修正し、良い結果につながってくれているかなと思います」
森村学園高との1回戦では、7回参考ノーヒットノーラン(7対0)。鶴見高との2回戦は登板機会なく、中2日で3回戦を迎えた。勝ったとはいえ、課題を残した。4、5回は連続三振で二死を取ってから四死球を与え、5回の1失点は押し出し四球によるものだった。
「もう少し球数を抑えたり、無駄な四死球(5)も多かったので、そこは改善していかないといけない部分です」
昨秋の関東大会で得た教訓

法政二高のエース・松田は毎回の15奪三振、169球を投げ切った[写真=BBM]
松田は昨夏の神奈川大会から主戦で、11年ぶりの5回戦進出に貢献。秋は県大会準優勝で、33年ぶりの関東大会出場を遂げた。快進撃から一転、無念を味わう。花咲徳栄高(埼玉)との関東大会1回戦は5回を終え9対0とリードも、5回裏の攻撃中、松田は一塁走者で下半身を負傷するアクシデント。7回には打球が右足に当たったが、エースはマウンドを譲らない。だが、最後は力尽き、逆転負け(9対10)を喫した。172球で無念の敗戦投手である。黒星から得た教訓があった。松田は決して弱音を吐かない男。父・太郎さんが代弁する。
「絹田(史郎)監督から何度か体の状態を確認されても、本人は続投を志願したんですが、エースの責任感というものが裏目に出た。仲間を信じることができなかったわけです」
チームがあっての自分を、再確認したという。冬場は投手陣全体として、レベルアップを図ってきた。今春の県大会は慶應義塾高との3回戦で敗退。シード権を奪えず、もう一度、足元を見つめ直し、基礎基本から練習を積んできた。今夏の2回戦は控えの大塚智就(2年)が4回1失点、高橋一真(3年)が1回無失点と「エース温存」で勝ち上がったのはチーム力アップを証明するものだった。絹田監督は春以降の松田の成長を語る。
「ピンチになっても力で抑えにいかないというか、しっかり落ち着いて、時にはコントロール重視、時には自分の全力など、強弱ができるようになりました。緩急も含めて自分自身で考えて、あとは捕手の江澤(啓汰、3年)の成長も大きいと思います。江澤がしっかりと冷静に配球を組み立てつつ、うまく抑えられていると思います」
2026年夏の神奈川にはプロ注目の横浜高の154キロ右腕・
織田翔希(3年)、桐光学園高には151キロ右腕・
林晃成(3年)がいる。同じ右投手であり意識するのか聞けば、松田は「自分は全然、身長も高く(176cm)ないですし、スタイルも違う。そこはもう違うタイプのすごいピッチャーと思って見ています」と淡々と語る。大きく振りかぶるワインドアップでリズムをつくり、テンポ良く投げ込む。背番号「1」を着けるエースとしての覚悟、自らが生きる道を熟知している。
一つの「ヤマ場」を突破

法政二高は勝利の校歌を三塁側に陣取った応援席とともに、声高らかに歌った[写真=BBM]
絹田監督は3回戦を一つの「ヤマ場」と見ていた。毎年、好チームに仕上げ、百戦錬磨の名将・土屋恵三郎監督が指揮する星槎国際湘南高を警戒していた。4回戦進出を決めた絹田監督は、チーム状況を語った。
「秋も1試合1試合、力をつけたというか、チームが一丸となって『自分たちもやれるんだ』という気持ちになったと思うんです。春に負けて、もう1回、仕切り直しという点では、夏のスタートのところではちょっと疑心暗鬼的なところはあったんです。試験中というところで、体が動かなかった部分を差し引いても、大会の入りがあまりにも悪かった。自分たちは『この夏に勝ち切りたい』というテーマでやってきています。(勉強との)両立をしっかりするのがウチのルール。実践してくれた上で、今日の勝ちにつながっているんです。一戦一戦を勝ち上がるごとに、チームとしてまとまってきた手応えを感じています」
3回戦から中1日で、4回戦は関東学院高と対戦する。169球を投げ切った松田の疲労度を考えれば、次戦は無理をさせられないはず。絹田監督は「今日も大塚をいつでも行けるようにスタンバイさせていました。この暑さなので、いつ何が起こるかっていう点では準備をしてましたけど、今日は力のある星槎さんでしたので、(昨秋の)関東大会の大逆転も踏まえて、最後まで投げ切ってもらうというプランでした。次(4回戦)はまた、考えていきたいと思います」と明かした。松田は仲間を信じて、ベンチスタートが予想される。ルールとして球数制限(1週間で500球以内)もあるが、全国屈指の激戦区・神奈川を勝ち上がるには、複数投手の起用は絶対条件である。
法政二高は春2回、夏9回の甲子園出場で1960年夏、61年春に優勝を遂げた伝統校だ。甲子園は昭和ラストの88年夏を最後に遠ざかる。期末試験が終わり、野球に集中できる状況が整った。この日は試験の答案返却のため、一般生徒の観戦はできなかった。応援席では法政大学応援団のリーダー部3人、吹奏楽部15人が友情応援。試合後は場外で有馬勇翔団長(4年・東京成徳大高)が弟分に熱きエールを送った。後輩たちは、勇気をもらった。頂点まであと5勝。まだ先は長いが、目の前の一戦を制していく以外に、甲子園への道はない。法政二高は最高のボルテージで4回戦へと向かう。
取材・文=岡本朋祐