ついに見せた本来の姿

7月23日現在、リーグ1位の11勝を挙げている高橋
誰もが認める才能を持ちながら、
阪神・
高橋遥人のキャリアはケガとの闘いだった。2018年の入団以来、左肩、左肘、左手首と度重なる故障に苦しみ、思うようにマウンドへ上がれない日々が続いた。「1年間ローテーションを守れたら」。周囲がそう期待を寄せる一方で、その願いは何度も先送りとなってきた。
そしてプロ9年目。ついに本来の姿を見せている。
今季は初めて開幕から先発ローテーション入り。3月28日の
巨人戦(東京ドーム)では1638日ぶりの完封勝利を飾り、開幕5試合で4完封という圧巻のスタートを切った。7月7日の巨人戦(東京ドーム)で今季初黒星を喫するまで開幕10連勝。1947年の
御園生崇男以来、球団79年ぶりの快挙を達成し、セ・リーグを代表する左腕へと飛躍した。
それでも本人は周囲の評価とは対照的に、冷静だった。
「10勝という実感はないです。開幕してからあっという間に90イニングを超えたな、という感覚しかないですし、10勝は皆さんのおかげです」
意識しているのは勝利数ではない。積み重ねてきたイニングだ。
「入団後の最多が2019年の109.2イニングでした。そこからどんどん少なくなって、どうなるんだろうと思っていたら5年目は投げることもできなかった。周りの先発投手がイニング数を意識している姿を見てきたので、自分も1イニングでも積み重ねたいと思っています」
故障によって投げられなかった時間が長かったからこそ、一つひとつのアウト、一つひとつのイニングが何よりも大切だった。
開幕前も具体的な目標は設定しなかった。
「何イニング投げるというより、自分のためにやっていることが結果的にチームのためになると思っています。だから長いイニングを投げたいという気持ちだけです」
その思いはシンプルだが、決して簡単ではない。
左手首の状態次第
昨季の復帰後は試合中盤になると球威が落ちる感覚があった。だからこそ今季も「期待より不安のほうが大きかった」と振り返る。
「今年も途中で真っすぐの質が落ちたらどう修正しようかと考えていました。でも実際は最後まで球の質が落ちない。初回の状態のまま投げられている感じです」
好調を支えている最大の要因は、左手首だった。
「僕の中では長いイニングを投げられるかどうかは、左手首の状態次第だと思っています」
昨年から手術した前腕のリハビリを継続。病院にも何度も足を運び、地道なケアを続けてきた。前腕は手術後、修復される過程で筋肉が硬くなっていく。
「その筋肉が硬くならないようにずっとリハビリしています」
リハビリを怠れば、再び投げられなくなる。
「分かりやすく言えば、誰かに手首をギュッと握られている感じです。そうなると投げられません」
だから体力づくりや球速アップよりも、まずは左手首を正常な状態に保つことが最優先になる。
「そこがボールの質にも体力にも直結します。同時にウエート・トレーニングも以前より多くやるようになりました」
派手なトレーニングではない。誰にも見えないリハビリを積み重ねてきた結果が、今季の快投につながっている。
プロ野球選手にとって「投げられること」は当たり前ではない。高橋はそのことを誰よりも知っている。だから勝ち星よりもイニングを重ねることに価値を見いだす。一つひとつのアウトを積み重ね、その先にチームの勝利がある。
不屈の左腕は、ようやくスタートラインに立った。シーズンはまだ続く。積み重ねてきたイニングは、さらに大きな数字となり、チームを頂点へ導いていく。
写真=BBM