勝って終わればOK

NPB歴代最多の407セーブをマークしている球史に残るクローザーだった岩瀬氏
8月4日の
西武戦(ZOZOマリン)で
ロッテ・
益田直也が史上5人目となる通算250セーブを達成した。長年にわたってチームの勝利を守り続けてきた守護神だけが到達できる大記録。その重みを誰よりも理解している一人が、NPB歴代最多407セーブを誇る
岩瀬仁紀氏だろう。
現役時代は1002試合に登板し、プロ野球史上最多となる407セーブをマーク。
中日黄金期の象徴として数え切れない勝利を締めくくってきた。そんな岩瀬氏は、2022年の週刊ベースボール「クローザー特集」で、そのポジションについて「勝敗が直結する特別な仕事」だと語っていた。
「勝っているゲームの最後を締める大事な役割。自分がチームの屋台骨を背負っているんだという気概を持って投げていました」
岩瀬氏がクローザーに転向したのはプロ6年目の2004年だった。それまで中継ぎとして腕を振ってきたが、
落合博満監督から守護神を任されたとき、「やってみたい気持ちはあった」と同時に、「少し怖さもあった」という。勝敗を決める最後のマウンドには、それまでとは比較にならない責任が伴う。「相当な覚悟を持ってやらないと務まらない」。その思いを胸に、新たな役割へ踏み出した。
中継ぎとの最大の違いは「後ろがいない」ことだという。中継ぎは途中で交代することもできるが、抑えには自分に代わる投手はいない。最後のアウトを取るまでマウンドを任されるからこそ、その一つを意識し過ぎてしまう難しさがある。
転機となったのは、結果を最優先に考えられるようになったことだった。もちろん無失点が理想だが、それだけを追い求めると投球は窮屈になる。点差があれば、1点を与えても勝てるケースはある。「勝って終わればOK」。そう割り切れるようになってから、精神的にも大きな余裕が生まれたという。
もっとも、この境地にたどり着くまでには時間が必要だった。抑えに転向したばかりのころは、まず無失点で抑え続けることが何よりも求められる。首脳陣やチームメートから「最後はお前しかいない」と絶対的な信頼を得て初めて、点差を踏まえた投球ができるようになる。「そういう考え方ができるようになったのは3年ほど経ってからでした」と振り返る。
守護神を支える信頼

ZOZOマリンで行われた8月4日の西武戦で通算250セーブに到達し、名球会入りを果たした益田
では、抑えに向いている投手とはどんなタイプなのか。岩瀬氏は、守護神に特別な資質が必要だとは考えていない。向いている、向いていないではなく、経験を積み重ねながら「抑えになっていく」ことが重要だという。
自らは抑えに向いていると思ったことは一度もないという。そんな岩瀬氏を支えたのは、周囲から寄せられる絶対的な信頼だった。2007年、中日が日本一へ王手をかけて迎えた日本シリーズ第5戦(ナゴヤドーム)。先発・
山井大介が8回まで完全試合を続ける中、9回のマウンドを託された。「自分でいいのか」という迷いはあったが、
井端弘和や
荒木雅博から「ここは岩瀬さんしかいない」と声を掛けられたことで腹をくくることができた。「あの言葉で『自分でいいんだな』と思えました」。その信頼こそが、長年守護神を務める支えだった。
クローザーは決して一人で戦うポジションではない。仲間から託された信頼を背負い、最後のマウンドへ向かう存在でもある。
250セーブを積み重ねた益田もまた、数え切れない重圧と向き合いながら勝利を守り続けてきた。その数字の重みは、407セーブという金字塔を築いた岩瀬氏だからこそ、誰よりも理解できるはずだ。守護神に必要なのは、単なる球威や技術だけではない。責任を受け止める覚悟、勝利だけを見据える冷静さ、そしてチームから「最後はお前に任せる」と託される揺るぎない信頼。それこそが、長くクローザーを務めるための礎なのである。
写真=BBM