しんどい経験を強みに

早大の1年生・阿部は南魚沼キャンプで真摯に野球と向き合っている[写真=矢野寿明]
南魚沼でもがいている。そのすべてが、肥やしになる。早大・
阿部葉太(1年・横浜高)は、野球漬けの日々を過ごしている。8月7日から21日まで、ベーマガスタジアム(新潟県南魚沼市)で行われている夏季キャンプに参加。その意図を語る。
「新潟も気温が高いので、この暑さに慣れて、体力をしっかりつけていきたいです」
今春のリーグ戦では、開幕カードとなった東大1回戦で「一番・中堅」で神宮デビュー。その後も先発に名を連ねたものの、打率.186、2打点と厳しい現実と向き合うことになった。2月の練習合流直後、下半身のコンディション不良により長期離脱した。開幕に合わせたものの、ブランクを埋めるのは難しかった。「ピッチャーレベルも上がりますし、自分のレベルをもっと上げていかないといけないというのを実感しました」(阿部)。
小宮山悟監督は明かす。
「満足に練習をしてないのに、いきなりぶっつけ本番。オープン戦2試合を経て、開幕を迎えたわけですが、さすがに厳しかったです。『こんなはずじゃない』と本人は思っているだろうと思います。高い授業料を払いましたが、それを生かすも殺すも本人次第。3、4年、特に最上級生になったときに、阿部はおそらくキャプテンをして、チームをまとめていく立場になると思うんですが、この春に味わったしんどい経験というのは強みになる。1年春にそういう経験ができたのは、残り7シーズンの大学生活を見据えれば、大きかったのではないかと思います」
小宮山監督のコメントに隠されたヒント

早大・小宮山監督は阿部の打席を見守る[写真=矢野寿明]
横浜高では異例の2年生の5月から主将を務め、抜群のリーダーシップを発揮。3年春のセンバツで優勝を遂げ、夏の甲子園は8強進出。高校日本代表でも主将を務め、昨年の3年生世代のけん引役だった。NPBスカウトからも左の強打&俊足外野手として高い評価を受けていたが、早くから大学進学を決意。4年後のプロ入りを目指し、強く志望した早大に合格した。
「能力だけを見たら、飛び抜けている。この中に入れたら一番なんですから、それは間違いない。ただ、その能力を生かしきれてないというのは歯がゆいところです」(小宮山監督)
一つの殻を破れば、飛躍する。小宮山監督のコメントに、ヒントが隠されていた。
「1年前だったら『絶対、無理だろう』という学生がこのキャンプに参加している。やったらできる、そういう話なんです。能力が不足していても、もがいて、頑張っている選手も何人かいる。勝負どころでは、そういう学生のほうが頼りになるかもしれない」
早大にはさまざまな入試で入学してきた部員が在籍している。アスリート選抜入試は若干名であり、付属、系属校のほか、一般入試、指定校推薦、自己推薦、AO入試など「WASEDA」に情熱を傾けた学生が入学してくる。事実、小宮山監督も芝浦工大柏高から2年の浪人を経て入学してきた苦労人。血のにじむような猛練習でエースへと這い上がり、4年時は第79代主将を務め、ドラフト1位でプロ入り。MLBのマウンドも経験した「努力の人」である。
阿部はこの夏、南魚沼で泥んこになって、白球と向き合っている。8月10日には池田記念美術館を訪問。初代監督・飛田穂洲氏の功績と触れ合い、学生野球の父が提唱した「一球入魂」の大切さをあらためて学んだ。もう一つ、ハートが熱くなるきっかけがあった。母校・横浜高が今夏、2年連続22回目の甲子園出場。阿部は言う。
「(神奈川大会を通じて)応援には行けてないですけど、昨年よりも強いな、と思いながら見ています。後輩の活躍というのは刺激になりますし、頑張ってほしいなと思います」
あらためて秋への抱負を語る。
「チームとしては春5位に終わって、自分としても春は全然、チームの役に立つというか、戦力になれていなかったと思うので、しっかりと戦力として監督の期待に応えられるようにしたいなと思います。個人の目標はないです。とにかく、チームが勝てるように、その戦力になるようにやっていきたいなと思っています」
今秋の戦力展望を聞くと、小宮山監督は予想オーダーに、阿部を「一番・中堅」に据えた。天皇杯奪還へのキーマンであることは明らか。神宮で真価を発揮するのはこれからだ。
取材・文=岡本朋祐