NPB新記録を達成

平均球速150キロ台中盤のストレートを軸に相手をねじ伏せる
西武の
トレイ・ウィンゲンターが、NPB記録となる連続試合ホールドを「20」に伸ばしている。
8月14日の
ロッテ戦(ベルーナ)では、ブルペン陣7人による完封リレーで7対0と完勝。大差がついたためウィンゲンターの出番はなかったが、11日の
日本ハム戦(エスコンF)でNPB新記録となる19試合連続ホールドをマークした右腕は、12日の同戦でも8回から1イニングを無失点に抑え、20試合連続ホールドを達成。自身が打ち立てたプロ野球記録をさらに更新した。また、6月11日の
広島戦(ベルーナ)で今季初登板して以来、20試合連続無失点。防御率0.00も維持している。
NPB新記録を更新した11日の試合後、ウィンゲンターは「本当に素晴らしい気持ち。チームで勝ったというのが一番うれしい。素晴らしい守備陣が後ろにいるので仲間を信じて、捕手陣も素晴らしい配球をしてくれますし、チームで(勝利を)勝ち取ることが自分の準備と直結している」と、チームメートへの信頼を口にした。
昨季もセットアッパーとして49試合(46回2/3)に登板し、1勝31ホールド、防御率1.74をマーク。シーズン中の8月18日には今季の契約延長も決まった。そして来日2年目の今季は、さらに安定感を増している。
投げ始めたチェンジアップ
いったい、何が変わったのか。
大石達也投手コーチが挙げる大きな変化の一つが、投球の幅だ。
「制球力も良くなっていますし、球種もチェンジアップが増えています。もともと向こう(メジャー・リーグ)では投げていたらしいんですけど、こっちに来てからは全然落ちなくて、去年はストレートとスライダーの2球種だけだった。今年から投げ出して、それがいい具合にコントロールされている」
昨季はNPB球への適応もあり、ストレートとスライダーの2球種で打者と対峙していた。そこに今季はチェンジアップが加わった。単純に決め球が一つ増えたというだけではない。打者からすれば、速球とスライダーに加え、タイミングを外される球種が増えたことで、的を絞りにくくなった。
余分な予備動作を消して
そして、もう一つの変化が走者への対応だ。
昨季のウィンゲンターは、走者を背負った際のクイックに課題を抱えていた。投球動作に入る直前、上体に余分な「予備動作」があったからだ。大石コーチは「とにかくクイックを速く。省ける部分を自分の中で見つけて省く。去年からずっと言ってきたこと。去年はそれにプラス、予備動作もあった。去年はとにかく速く、プラス予備動作を消すことを徹底していた」と振り返る。
通常、クイックは始動から捕手のミットに届くまで1.25秒以内が一つの基準とされる。それを超えると、盗塁を許すリスクが高まる。昨季のウィンゲンターは「予備動作を入れて1.5秒、変化球は1.6秒もかかるぐらいだった」という。そこから余分な動きを一つずつ削り、今季はストレートでクイックの基準となるタイムに収まるようになってきた。
この「予備動作」は、相手走者にとって盗塁のスタートを切る際の「クセ」として利用されるものでもあった。昨季は49登板(46回2/3)の中で15度の盗塁を企図され、14盗塁を許した。それが今季は、ここまで20試合(19回1/3)で3盗塁。そもそも盗塁を仕掛けられる機会そのものが減っている。余分な予備動作を消し、クイックを速くする。地味で細かな修正作業だが、その積み重ねが投球そのものを変えた。
大石コーチは「対バッターに集中できるようになってきた。この間も、代走が出てきて、走られなかった。何か一つではなく、トータルで日本野球に適応してきた」と、その適応力を評価する。

エスコンFで行われた8月11日の日本ハム戦でプロ野球記録の19試合連続ホールドをマークした
捕手の
古賀悠斗も「今年(走られた記憶は)あまりないです。まずランナーが出ていないですから。こちらとしては助かります」と語る。
「
ウィックはすごくいいやつで、ミーティングとか、普段の会話もそうですけど、常にプラス思考です。本人からの発言ももちろんありますし、僕らの発言に対しても、むちゃくちゃよく理解してくれる」
来日2年目。自らの課題と向き合い、投球の幅を広げ、走者への対応も改善した。そうした一つひとつの修正を積み重ねた先に、NPB記録となる20試合連続ホールドがある。圧倒的な球威だけで打者を抑え込んでいるわけではない。日本野球を理解し、必要とあれば柔軟に自分自身を変えていく。異国の舞台で積み重ねてきたその適応力こそが、今季のウィンゲンターを支える最大の武器になっている。
文=伊藤順一 写真=BBM