下位打線で光る勝負強さ

プロ入り後、3球団目の所属となる阪神で躍動している元山
毎試合、毎打席に人生がかかっている。トレード、戦力外通告を経て加入した阪神で、覚醒を予感させるのがプロ6年目の
元山飛優だ。
阪神は遊撃の定位置が固定できていない。元山は3度目の一軍昇格となった7月5日以降にスタメン出場の機会を増やしている。守備力の高さに定評があるが、打撃でも貢献度が高い。8月11日の首位攻防戦・
巨人戦(東京ドーム)では
近本光司、
森下翔太、
佐藤輝明が計4本塁打を放って9対1と圧勝したが、試合の主導権を握ったのは元山の一撃だった。
2点リードで6回一死二、三塁も好機で打席が回ってくると、フルカウントから
山崎伊織のフォークをコンタクトして中堅の頭を越える2点適時三塁打。ベンチがお祭り騒ぎに沸く中、力強くガッツポーズした。25試合出場で打率.288、0本塁打、3打点。得点圏打率.400と下位打線で勝負強さが光る。
藤川球児監督は就任1年目の昨年に「凡事徹底、姿勢、没頭」をテーマに掲げ、見事にリーグ制覇。今年は「黙って、積む」を加え、目先の連覇を目標にしないと公言した。
「強い“つもり”というのが一番ウソっぽいですからね。強くも弱くもないし、何も始まってないわけですから。今、両手には何もないわけです。一つずつ準備をして、黙って自分たちの体とかコンディション、チームにとっては選手たちの力量を上げて、しっかりと荷物を積んで開幕を迎えるというところですね」
救いの手を差し伸べた阪神
現状維持では常勝軍団を築けない。チーム力の底上げを図るために新たな起爆剤の一人として加入したのが、元山だった。東北福祉大からドラフト4位で入団した
ヤクルトで、背負った背番号が「6」。ゴールデン・グラブ賞を10度受賞し、通算2133安打をマークした
宮本慎也氏が現役時代に19年間背負った番号を与えられたことが期待の大きさを物語っていた。
新人の21年は97試合出場で打率.255、3本塁打、17打点。攻守で大きな可能性を抱かせたが、翌22年は右手首に死球を受けて故障で離脱した影響もあり、13試合出場と激減。後輩の
長岡秀樹が遊撃手でゴールデン・グラブ賞を受賞した。「2021年が終わった時点で、そこ(正遊撃手に)に僕がいたいなとずっと思っていたので、それを長岡に取られてしまって、悔しいというだけですね」と唇をかみしめた。
23年オフに
西武にトレード移籍したが、一軍定着に至らなかった。左肩の腱板炎でリハビリ期間中の昨年10月に戦力外通告を受けた時に現役引退を覚悟したが、救いの手を差し伸べたのが阪神だった。大阪で生まれ育った元山にとって憧れの球団で、大学時代に2学年上の
中野拓夢と二遊間を組んでいたため、胸が高鳴った。
「飛び抜けて優れるように」
社会人経由で入団した中野、同学年で新たにチームメートになった佐藤輝、
DeNAの
牧秀悟は同期入団。ヤクルト在籍時に週刊ベースボールのインタビューで、3人に対する特別な思いを口にしていた。
「牧とは同じ長野県の高校ということもあって(元山は佐久長聖高、牧は松本第一高)、親友なんです。阪神のショートの中野さんは大学(東北福祉大)の先輩ですし、もちろん輝明にも、みんなに特別な感情があります。僕なんかぜんぜん活躍できてないのに、あの3人はスタメンでずっと試合に出ていますから、『すげえな』っていう思いと、『一緒の入団やのに、めちゃくちゃ悔しい』っていう思いがありますね。まだ1年目なので、来年でも再来年でも、10年後でも、3人を追い抜かせられたらいいのかなとも思いますけど、なるべく早く、追い抜きたいです」
飛優という名前は、父・誠司さんが「飛び抜けて優れるように」という思いを込めて名付けた。入団時に掲げていた目標は「世界一のショートになること」。トレード、戦力外通告は入団時に思い描いた野球人生でなかったかもしれないが、すべての経験が野球人生の糧になる。球団史上初のリーグ連覇に向け、元山の戦いは続く。
写真=BBM