達成感よりも反省の繰り返し

第108回大会には審判委員62人が委嘱された[写真=三野良介]
夏の甲子園48試合の熱戦が幕を閉じた。大会18日間(休養日=3回戦2日目、準々決勝、準決勝の各翌日を含む)において、さまざまな関係者が運営に尽力している。ゲームが円滑に進行する上で欠かせないのが「審判委員」の存在である。
今大会の委嘱審判委員は計62人。日本高野連の審判規則委員会からの委嘱は46人で、この中には今大会から初めて
ジャッジした5人の女性審判員も含まれている。また、都道府県高野連からの派遣審判委員は16人で、昨年までの8人から倍増となった。
尾崎泰輔大会審判副委員長(日本高野連審判規則委員長)は大会を終えた率直な感想を述べた。
「毎年、良かったとか、達成感はないです。無事に、中止になることもなく、109回大会につなげたというのはホッとしています。毎回、課題はあります。いかに次に向けて反省を生かすか。その繰り返しの作業です」
ビデオ検証の成果と意義

今大会、ビデオ検証は17件あった[写真=三野良介]
今夏は大きな変化があった。まずは、ビデオ検証の初導入である。大会本部は8月22日の決勝後、計48試合で17件あったと説明した。判定が覆ったのが6件、残り11件は判定通りだったが、確証がなくて判定通りとなったのが2件あった。尾崎審判副委員長は言う。
「モニターの設置、現場のカメラマン、映像を編集する方など、いろいろな人の力が重なって実現できることです。2分間という制限がある中で、よりスムーズに、より正確な判定を返せるような映像を提供していただいている。お力添えに感謝です」
尾崎審判副委員長も2009年夏から23年夏まで春、夏の甲子園で審判委員を務めた。現在は運営側として、現役審判委員を強力サポート。元審判員の立場から、今回のビデオ検証の導入意義について、こう見解を示した。
「審判員には判定するにあたり、ベストな位置と言われるマニュアルがあるんです。そこからずれたプレーに対しては、臨機応変に対応するようにしています。審判員の目の位置、角度とまったく違う角度からの映像があり、それがツールとして使えるのは、より正しい判定を現場に返せる意味では、審判員にとっても良いことだと思います。甲子園のグラウンドに立つために、審判員は心身とも突き詰めています。そこで判定が覆ると、心の整理ができず、引きずる部分はあるのは確かです。ただ、違う角度の映像で、正しい判定をチームにお返しできるのは、選手のためになる。大会期間中にも、審判委員の方にはそういった話をしました」
アンパイアと選手は試合前と試合後、本塁を挟んで一礼する。お互いが信頼し、リスペクトし、より納得してゲームを成立させていく過程において、成果はあったという。
「確証があることで判定が変わる、判定通りとするという以外に、2分間の中で確証が得られない場合は判定通りとなるという3つ目があるということが、周知していただければありがたい」。ビデオ検証で手を尽くしても、どうしても判定が難しいケースがあるのだ。
全国大会で女性が審判委員を務めるのは初めてだった。尾崎審判副委員長は言う。
「24年には全国審判講習会に初めて女性審判員が参加し、25年には甲子園で開催された高校軟式野球の交流試合で経験を積み、今年も全国講習会に参加し、3年をかけて準備を進めてきました。野球界の各カテゴリーで活躍している女性審判員は多くいますので、高校野球にも登録していただけるとありがたいです。また、野球部のマネジャーなどで3年間活動した女子部員も将来、審判員として現場に戻ってきていただき、高校野球を支える体制ができたらうれしいと思います」
なお、「派遣審判委員」が増員されたことも大きな動きだった。近年の派遣審判委員は、日本高野連が大会ごとに割り当てた都道府県高野連から派遣され、原則として8人が大会前半から中盤の日程で塁審を担当してきた。今大会からは、大会中盤から後半にかけて新たに加わる派遣審判委員8人には、審判割当に制限を加えず試合を担当。昨年までは準々決勝以降、7試合の球審は審判規則委員会の規則委員が務めることが多かったが、この枠組みも変更されている。経験のあるベテランだけでなく、積極的に若手が登用されたのである。
「選手が主役ですが、それを支える審判員にも、老若男女問わず皆にチャンスがあるというメッセージを送れたのは、意味があると思っています」
学校教育プログラムの中の一つ

尾崎審判副委員長はかつて春、夏の甲子園でジャッジした元アンパイアである[写真=BBM]
なぜ、春、夏の甲子園大会で「審判員」は「審判委員」と呼ばれるのか。大会運営を担う役員の立場を、明確にしているからである。「審判委員」のトップである「審判委員長」は日本高野連・北村聡会長が務める。歴史的背景を日本高野連・井本亘事務局長が説明する。
「長く日本高野連会長を務め上げた第3代の佐伯達夫氏(1967〜80年)、第4代の牧野直隆氏(1982〜02年)も、かつては審判委員を務めていました。『グラウンドティーチャー』の位置づけからだったと聞いています」
日本学生野球憲章で高校野球は「学校教育の一環」と定められ、ルールに沿って、厳正に試合を裁く審判委員は「先生」なのである。試合を動かすアンパイアがいなければ、ゲームは成立しない。高校野球に限らず、対戦チームをリスペクトするのはもちろんのことだが、選手は審判員と一緒に試合を作り上げていくという、尊敬の念を忘れてはいけないのだ。
高校野球の審判員とは――。尾崎審判副委員長は力を込めて語った。
「学校教育において、各教科以外の時間に、生徒が自主的・実践的に行う諸活動が『教育課程外活動』です。クラブ活動の試合を、教員でない審判員も関わっている。大学野球はどちらかと言うと、卒業生が後輩のためにという伝統がありますが、高校野球は先輩のほか、元球児、顧問の先生が携わるケースもあります。学校教育プログラムの中の一つがクラブ活動なので、判定すること以外、プラスして求められる役割があります。学校の先生と同じように『この人が担当で良かった』と思ってもらえるような試合進行に努めていきたいと思っております」
背筋をピンと伸ばした。選手と審判員は異なる立場ではあるが、ゲームを展開する上で共存共栄で歩んでいく、かけがえのない存在なのである。
取材・文=岡本朋祐