大記録達成を予感させる投球
中日の高橋宏斗はモノが違う。改めてそう感じた野球ファンは多かっただろう。大記録達成を予感させる快投を演じたのが、8月28日の
DeNA戦(横浜)だった。
150キロ台後半の直球にスプリット、カットボール、カーブを織り交ぜて7回二死まで1人の走者も出塁を許さない。球場が独特の緊張感に包まれる中、
筒香嘉智に10球粘られた末に四球を与えたが、エドウィン・
エンカーナシオンをカットボールで空振り三振に仕留めるとガッツポーズとともに雄叫びを上げた。
だが、厳しい現実が待ち受けていた。8回に先頭打者の
佐野恵太に中前打を浴びてノーヒットノーランの夢が破れると、右手の異変を訴えた。治療を受けて再びマウンドに戻ったが、投球練習でボールが高めに浮いたため降板。右前腕がつっていたことが後に判明した。後続の救援陣に託したが、この回に4失点を許して逆転負け。ベンチで戦況を見つめた右腕は悔しさをにじませていた。
チーム低迷の責任を感じて
チームが低迷していた責任をだれよりも感じていた。今年は2大会連続でWBCに出場して不動のエースと期待されたが、直球に本来のキレがなく、走者を背負うと踏ん張れない投球が続いた。5月は3試合連続5失点を喫するなど、4試合登板で0勝3敗、防御率6.85。6月1日に登録抹消された。ファームに合流したナゴヤ球場で、いきなりブルペンで250球を投げると、右翼、左翼のポール間を20本走った。
「僕から話すことは何もありません」。心身ともに限界まで追い込んで殻を破りたかったのかもしれない。
井上一樹監督は「チームが上がっていくための要素に、宏斗の成績は直結していると思う。1つでも多く、チームも宏斗自身も納得する試合をつくってもらいたい」と奮起を促していた。
光が見えたのは、一軍復帰登板となった7月20日の
ヤクルト戦(神宮)だった。8回3安打8奪三振1失点で約3カ月ぶりの2勝目をマーク。週刊ベースボールの取材で以下のように語っていた。
「1カ月半くらいファームで再調整をしていました。この日(7月20日のヤクルト戦/神宮)の登板は二軍のコーチ陣が、僕と同じくらい不安になりながら見てくれていたと思います。そういう人たちに向けて投げたかったです。ファームでは練習が終わってからも有馬(
有馬惠叶)と2人で個別練習をしたり、投球基本をやったり、年下の人たちがいっぱい練習していました。二軍にいることはよくないことですけど、無駄な時間にしないようにやっていました。ただ自分が求める形にはまだまだ。久しぶりに大声援で投げることができてよかったですが、今シーズンの前半は働けていなかった。次戦以降が大事になってくると思います。」
CS進出のためにも
次回登板となった7月31日の
広島戦(マツダ広島)は7回4安打7奪三振1失点。打線の援護に恵まれず白星はつかなかったが、前半戦の姿とは明らかに違った。8月7日の
阪神戦(京セラドーム)は右手中指の皮がめくれるアクシデントに見舞われ、5回3安打9奪三振2失点で降板となったが、その後の登板は3試合連続7イニングを投げ切っていずれも1失点以下。3勝7敗と負け越しているが、防御率3.23に改善している。
先発ローテーションの軸として奮闘している37歳左腕の
大野雄大は、中日の未来を背負う高橋宏と
金丸夢斗に特別な思いを抱く。WBCの準々決勝で敗退した際、「2人には、まず今年のチームの軸としてローテを回ってもらいたいと思います。気持ちを切り替えて、悔しさはとりあえずシーズンにぶつけてほしい。中日に高橋宏、金丸ありというところを見せてもらいたい。呼ばれて行った人間しか経験できない緊張感など、選ばれた選手しか味わえないものをかみしめてもらいたいです」とエールを送っていた。
現在、中日は5位だが3位・DeNAと4.5ゲーム差に開き、逆転でのCS進出に向けてこれ以上負けられない。完全復活を目指すエース右腕の投球に注目したい。
写真=BBM