攻守で替えの利かない存在

首位を走る阪神で8月に7本塁打とアーチを量産した坂本
阪神が8月最後のカードとなった首位攻防戦で
巨人に同一カード3連勝を飾り、4.5ゲーム差に突き放した。首位快走に向け、攻守のキーマンで替えの利かない存在が
坂本誠志郎だ。
8月の主役となったのが、坂本だった。プロ10年間で通算8本塁打と長打力に定評がある選手ではなく、今年も7月終了時点で2本塁打だったが、8月にアーチを突如量産した。1日の
ヤクルト戦(神宮)で3号左越え3ランを放つなど4安打と固め打ちすると、2日の同戦で4回に
ナッシュ・ウォルターズから左翼ポール際に4号ソロ。同点で迎えた9回には相手守護神の
ホセ・キハダの直球を左翼席に運ぶ5号決勝ソロで勝負を決めた。「みなさんの声援が(スタンドまで)届けてくれたと思います。何とか塁に出て、代走が出てくれると思ったので、その選手に仕事をさせてあげたいなと思いました」と試合後のお立ち台でスタンドをわかせた。
この活躍が一過性ではなく、その後もアーチを積み重ねる。8月27日の
中日戦(バンテリン)では、1点差を追いかける8回一死一塁で
橋本侑樹の150キロ直球を迷いなく振り抜いた打球が左翼席へ飛び込む逆転の9号2ラン。打った瞬間に本塁打と分かる殊勲の一打で勝負を決めた。8月は月間打率.284、7本塁打、16打点。OPS.919を叩き出し、他球団の首脳陣は「今までと別人のように打っていますよね。阪神は
森下翔太、
佐藤輝明、
大山悠輔のクリーンアップのイメージが強いですが、坂本がアーチを量産して下位打線の核になると打線の破壊力が一気に上がる」と警戒を口にしていた。
大会連覇を逃したWBC
今年は順風満帆なスタートではなかった。侍ジャパンで初出場したWBCは準々決勝・ベネズエラ戦で敗れた。大会前に週刊ベースボールのインタビューで次のように語っていた。
「各国のスーパースターが出場し、同じダイヤモンドの中で、1つのボールで勝負をする。でも、やることは変わらないし、同じ人間です。メジャーの選手たちは『あの日本の捕手は誰やねん?』と思うはず。だからこそ内心は『あの捕手に負けた』と思わせたい。それは僕だけでなくほかの2人を含めて『日本の捕手陣』として、そう思わせたい。そして、それが実現できる日本代表投手陣がいますよね。『全然、日本のピッチャー打たれへんわ』と、各国の打者に思わせたいですし、そうしないといけないです」
「とにかく『勝ちたい』です。どんな形でも『勝ちたい』。それしか頭の中にはないんです。よく『どんな貢献がしたいですか?』と聞かれますが『勝てばいい』とだけしか思わないんです。これだけすごい選手が集まっているので『日本は強い』と知らしめたいし、その中の一員でいたい、という思いが強い。そのためには『貢献して何とか勝つ』なのです」
だが、大会連覇は叶わず、ベンチで悔しさをかみしめていた。
ラストスパートのペナント
チームに戻って気持ちを切り替えて臨んだが、主将を担う今季は春先に状態が上がらず、
日本ハムからトレードで新加入した
伏見寅威、ベテランの
梅野隆太郎に先発マスクを譲る試合が少なくなかった。現代野球は複数の捕手を使い分けるのがトレンドになっているが、坂本が司令塔として力を発揮しなければ球団史上初の連覇は見えてこない。試合を積み重ねて巧みな配球術がさえわたると、打撃でも期待以上の活躍を見せている。
WBCで大きな目標は叶えられなかったが、野球人生でかけがえのない時間になったことは間違いない。「そういうすごい選手たちの中で、捕手をやらせてもらえるという責任がある。この重圧を乗り越えたときの景色というものを見たい。これまでの野球人生で『怖い』と感じたことはなかったのですが、今その気持ちを持てる立場にいる。そこに感謝し、幸せを感じながらプレーできることは、この先もないかもしれない。でも『怖さ』を感じながらプレーできることで、その後の野球人生にも大きな財産になると思います」と語っている。
自己最多の9本塁打で2ケタ本塁打に王手を掛けたが、坂本が目指すのは「チームを勝利に導く捕手」だ。ペナントレースはラストスパートに入ったが、目の前の試合に勝つことに集中する。
写真=BBM