危機感を植え付けた指揮官

神奈川大学野球連盟と東京六大学野球連盟による交流試合が開催。試合後、両連盟の監督は健闘を称え合った[写真=大賀章好]
本気でプレーしなければ、見ている人に、真の魅力は伝わらない。目的である「野球の普及・振興」にもつながらない。神奈川大学野球連盟は8月25日、横浜スタジアムで77周年記念事業を実施した。
神奈川大学野球連盟選抜は東京六大学野球連盟選抜との交流試合を控えた前日(24日)、全体練習を行った。17日には神奈川県野球交流戦(横須賀)が開催され、神奈川フューチャードリームスに7対2で勝利。この前日にも全体練習を重ね、組織の和を持って、本番当日に臨んだ。
神奈川大学野球連盟選抜を率いた神奈川大・岸川雄二監督は、東京六大学野球連盟選抜との一戦を前に「歴史があり、日本の大学野球の中心的存在である東京六大学野球連盟さんに敬意を表するのは当然のことですが、ゲームである以上は勝利を求めていかないといけない。私たちの活動は言うまでもなく、レクリエーションではありません。入場料を払って見に来ていただく方々の前で、みっともないゲームはできません」と、フレンドリーマッチとは思えない危機感を、学生たちに植え付けていた。
正規のユニフォームで熱血指導

交流試合前には中学生を対象とした野球教室が開催。神奈川大学野球連盟と東京六大学野球連盟の部員たちが手を取り合って運営した[写真=BBM]
ゲーム前にはもう一つのメーンイベントである、両連盟の学生が講師となり、中学生を対象とした野球教室が開催された。県内9チームから165人が参加。未来の高校球児が、神奈川高校野球の聖地・横浜スタジアムで夢のような時間を過ごした。13時30分開始。厳しい暑さだったが、大学生は約2時間に及ぶ熱血指導を展開した。子どもたちも、全力プレーで応えた。東京六大学野球連盟・内藤雅之事務局長は「われわれ東京六大学が各地でオールスターゲームなどを開催する際も、必ず現地で野球教室を開催しています。神宮球場でも毎年夏、少年野球教室を行っていますが、必ず、6校には正規のユニフォームを着用してもらうようにお願いしています」と、野球を伝承する場として、真剣に向き合っている。
講師役を務めた慶大の主将・今津慶介(4年・旭川東高)は「明治の福原主将(聖矢、4年・東海大菅生高)が中心となって円滑にメニューを回し、六大学の絆を再確認する場となりました。神奈川大学野球連盟の加盟校さんとも一緒に運営することができ、貴重な場でした。中学生に野球を教えることは、自分たちにとって良い経験になりました」と成果を話した。
参加者を取りまとめた神奈川県中体連・軟式野球専門部の野澤伸介部長(秦野市立本町中野球部顧問)は「学ぶことがたくさんありました。大学生から教わる機会はあまりないので有意義な場でした。こうした取り組みは、継続してほしいです。声をかけていただければ、ありがたく参加をさせていただきます」と感謝の言葉を繰り返した。
交流試合は7対0で東京六大学野球連盟選抜チームが快勝。お互いが本気でぶつかり合った2時間29分は、結果だけでは判断できない中身の充実があった。岸川監督は言う。
「まずは、野球教室をこの素晴らしい横浜スタジアムで開催できたことが意義深いことであったと思います。中学生にとっては忘れない1日になったはずですし、学生たちも心のある指導をしてくれました。本当にありがたかったです」
そして、交流試合について触れた。
「厳しい結果? 全然、厳しくないです。これが現実です。これが君たちの力だということを分かるか、分からないか。分からなければ、次に進まない。次やったらもっといいゲームができる、というチームは絶対、次も負ける。今日はイベントではない、勝ちに行かなきゃいけない。こういう結果になり、ちゃんと悔しがってほしいというのが僕の考え方です」
さらに、こう続けた。
「一人ひとりのプレーを見ていて、そんなに遜色あるかっていうと、そうではないんです。 ただ、経験値であったりとか、たくさんのお客さんの前でやるスキルであったりとか、いろいろなところが神奈川連盟の学生たちとは違うところ。僕はあくまでも個人的に、神奈川大学が(全国舞台で)優勝したいという気持ちはありますけど、神奈川大学野球連盟で勝ち上がった代表校が神宮で簡単に負ける連盟にはありたくないということです。どこが出ても、ベスト4とかベスト8は常に行くリーグでありたいと思うので、今回の交流戦で、ただ相手はこうだった、という感想で終わってほしくない。この結果と開催意義について、どう答えを導き出すのかが、これからの我々の使命だと思います。正しかった、良い取り組みだったと、他の連盟さんからも言われるようにすることが、我々の仕事なのかもしれないです」。終始、厳しい表情だったが、真剣勝負に徹したからこそ得た課題だった。
一つのモデルケースに

東京六大学野球連盟・内藤事務局長[左]は神奈川大学野球連盟・佐々木理事長[右]に交流記念のペナントを渡した[写真=BBM]
神奈川大学野球連盟・佐々木正雄理事長は「東京六大学のすべての関係者の皆さんの心の底からの『思い』が、ありがたかったです。歴史と伝統。さまざまな所作から、日本の学生野球のけん引役である所以を学ばせてもらいました。今後もこうした連盟同士の交流の場を広げていきたいと思っています。野球教室も、野球を知らない子どもたちに魅力を伝える場を提供しないといけない。それが、われわれの責任です」と背筋を伸ばした。
神奈川大学野球連盟には、加盟11校の縦と横のつながりがある。一塁側内野席には加盟校の部員が動員され、声だしによる一体感ある応援を繰り広げていた。交流試合には敗れたが、グラウンドで最後まであきらめない姿勢は、野球教室に参加し、スタンドで観戦した中学生にも伝わった。観衆2165人。横浜スタジアムは有意義な1日になった。大学連盟同士の交流イベントは今回、一つのモデルケースになったに違いない。
取材・文=岡本朋祐