アベレージ153キロをベースに

154キロ右腕・広池副将[左]と山口チーフコーチ[右]ら、慶大は4年生の結束力が抜群である[写真=BBM]
東京六大学リーグ戦は9月12日、明治神宮野球場で開幕する。春秋連覇を狙う慶大は今春、7勝を挙げた左腕エース・
渡辺和大(4年・高松商高)が健在であるが、2回戦の先発をめぐり、夏場は激しい競争が繰り広げられた。学生ラストシーズンにかけているのは154キロ右腕・
広池浩成(4年・慶應義塾高)である。
「先発、中継ぎ、抑えでも、任された場所で、どこでも投げるつもりです。僕はもう、10勝すべて取ってやろうぐらいの気持ちでいます」
この夏場のテーマを明かす。
「ベースアップ、特に小手先でどうにかすることなく、とにかく自分のベースをどんどん上げていくということを意識していました。体も大きくして、球を速くして、球を強くして、変化球でストライク入れるという、本当にベーシックなことに取り組みました」
オープン戦では150キロをアベレージで計測。慶大・上田誠投手コーチも「ボールの勢いがすごかったです」と、圧巻の投球を披露した。
「特別、速いほうではないと思います。今後、野球を続けていく中で、95マイル、153キロのベースは当たり前にしていきたいなというところがありますね」
9月5日にはプロ志望届を提出した。
「野球でお金を稼ぐというところには、もう、自分では腹を決めています。まずはNPBドラフトで評価していただかないと何もないので……。そこがまず、第一歩です」
父は
西武・
広池浩司球団本部長である。いつも背中を見て、育ってきた。
「真摯に野球に向き合う姿勢、私生活から野球を第一に考えている部分は、父親から教わった素晴らしいところかなと思います」
広池は副将として、投手陣を束ねてきた。
「優勝するため、自分が持っているノウハウ、体に対しての知識、トレーニング方法などをチームに還元するところに目を向けてきました。この秋は自分がまず成長した姿を見せて、何とかチームの力になりたいと思います。自分としては、やることは全く変わらないんですけど、真摯に野球に向き合って、いつも通り試合に向かいたいと思います」
練習の1球で人生が変わる
慶大は部員219人の大所帯。チーフスタッフとして指導者、選手の間に入ってチームを動かしてきたのは山口瑛士(4年・郡山高)である。練習中は主将・今津慶介(4年・旭川東高)とともに先頭に立って、気づいたことはその場で注意する。嫌われ役を買って出る、難しいポジションを全うしてきた。
「最後なので、意識しているのは、後悔しないように、これを言っておけば良かったなとか、これをやっておけば良かったなと思わないように、やれることは全部やったと言える形で、この秋のリーグ戦をスタートできます」
今春のリーグ優勝の勝因について、あらためてこう明かす。
「ディフェンス面として(7勝を挙げた)渡辺の活躍はもちろん大きいですけど、攻撃面としては、全体としてめちゃくちゃ成績が良かったわけではないのに、チャンスで一本が出たのは良かったと思います。その勝負強さというか、1球への思いというか、そこはやってきた取り組みが出たのかなと思います」
具体的な取り組みとは何か。山口チーフコーチは、モチベーションを上げるのはうまい。学生をその気にさせる「魔法の言葉」があった。
「そのバッティング練習の1球で『人生変わるよ』『チームが変わるよ』というのはずっと言っていたので、そういう声掛けは結構、大きかったなと思います。ただ、春の取り組みではあと一つ勝てなかった(関大との全日本大学選手権決勝で敗退)ので、個人の実力とチーム力の二軸、どちらも一つ、二つとレベルアップするために汗を流してきました」
山口チーフコーチは卒業後、一般就職するため、野球は一区切り。慶大の4年生の多くは選手としてプレーするのはこの秋が最後である。集大成の秋を迎える。
「これから社会人になって、日本一を取れるチャンスはなかなかないですし、大学野球のラストシーズンに、どれだけ捧げられるか。結果は最後についてくるものですけど、やれることやって『絶対いけるな』という状態でスタートしたいと思っています。それだけですね」
大学卒業後は会社員として、新たなフィールドでの活躍が期待されるが、社会経験を積んだ上で、将来的には指導者の夢も持っているという。兄2人が地元の奈良の高校、大学で野球の現場指導に携わっており「野球に育ててもらったので、野球に恩返ししないといけない」と熱く語る。この1年間、サポートしてくれた、同じ裏方への感謝も忘れない。
「僕はもう情熱型というか、僕の仕事は、気合を入れるだけなので……(苦笑)。細かいことはみんな谷口(谷口航大、サブチーフコーチ、4年・慶應義塾高)、宮越(宮越悠生、投手チーフコーチ、4年・慶應義塾高)、阿南(阿南正輝、新人チーフコーチ、4年・桐蔭学園高)も協力してくれているので、本当にありがたいです。マネジャー、アナリスト、コンディショニングスタッフを含めた全部員の力を結集させて、開幕カードの東大戦を迎えたいと思います」
大学野球は、4年生の「言動」ですべてが決まる、と言われる。慶大には小泉信三元塾長が残した「練習ハ不可能ヲ可能ニス」という名言がある。この言葉を胸に秘め、広池副将、山口チーフコーチは早慶戦の最後の1球まで、慶應義塾体育会野球部のために身を粉にする覚悟だ。
取材・文=岡本朋祐