球種伝達の疑念
西武と日本ハムの間で起きた一触即発の騒動から一夜明け、12年目のベテランが慎重に口を開いた。
9月12日の日本ハム戦(ベルーナ)で、5回二死一塁。日本ハム先発・
伊藤大海が西武・
蛭間拓哉に3球目を投じた後、三塁ベースコーチを務めていた西武・
黒田哲史内野守備・走塁コーチとにらみ合いとなった。両軍ベンチから選手、首脳陣が飛び出し、試合が一時中断する騒動に発展した。
試合後、伊藤は日本ハムのメディアに対し、西武側が打者に球種を伝達しているのではないかという疑念から取ったアクションだったと説明。SNSを中心にさまざまな意見が飛び交うことになった。
一夜明けた13日には、西武の練習中に日本ハム・
新庄剛志監督が
西口文也監督のもとを訪れ、和やかに談笑。最後には両指揮官がガッチリと握手を交わした。直接言葉を交わすことで、騒動の収束を図る動きも見られた。
お互いが意見を言う機会
その一方で、SNS上では憶測を交えた投稿が相次いだ。西武ナインが危惧していたのは、事実関係がはっきりしないまま、黒田コーチが一方的に責められることだった。騒動の際、最初に西武ベンチを飛び出し、激高する黒田コーチを止めに入った
外崎修汰も、その一人だった。
「本当に難しいんですけど、こっちはこっちで意見があるじゃないですか。あっちはあっちで意見がある。だから、お互いが意見を言う機会を設けて、言わないと意味がない」
外崎がまず強調したのは、どちらか一方の主張だけで結論を出すべきではないということだった。
「難しいですけど、どちらか一方の見解だけが記事になってしまうと、あることないこと出てきてしまうじゃないですか。自分も、いろいろSNSで記事を見ましたけど、一番なってほしくないのは、憶測で黒田コーチが責められること」
黒田コーチと日々、同じチームで戦うからこそ、その思いは強い。
「黒田コーチの気持ちは僕ら、ライオンズ側はみんな分かるわけじゃないですか。『あれで、なんで怒ってるの?』ってなっていますけど、それは怒るでしょうというのが普通の感情だと思う」
外崎によれば、騒動の直前には伊藤から何らかのジェスチャーがあったという。
「その1球前ぐらいですか。(伊藤が)ジェスチャーをしていました」
外崎は右手のひらを下げたまま、ヒラヒラと動かす仕草を再現した。
「(意味を)知らなかったんですけど、“サインを出しているのか?”という意味合いらしいです」
西武ベンチからは、その伊藤のジェスチャーを受け、黒田コーチが反応。その後、黒田コーチがサインを出す際に伊藤が視線を向け、両者がにらみ合う形になったという。4回には左打者の
源田壮亮が逆転2点適時打を放っており、騒動の場面でも左打者の蛭間が打席に立っていた。伊藤が正対する三塁側の黒田コーチに疑念を抱いた背景には、そうした状況もあったと考えられる。
映像を検証する方法
ただ、外崎も伊藤が何らかの疑念を抱いたこと自体を否定しているわけではない。
「そういう疑念があるのなら、手続きとしては審判に言うのなら分かりますけど……」
疑念を解消するのであれば、しかるべき手順で確認すべきだったのではないか。外崎はそう考えている。さらに、球種伝達の有無について本当に確認するのであれば、映像を検証する方法もあると指摘した。
「本当に(サイン伝達を)解決させたいんだったら、左打者の映像を検証してみたらいいと思います。目線だって絶対に動くし、変なタイミングの動作が入ると思う。一番はバッターの目線を見ておけば、絶対に分かると思います」
そして、外崎が繰り返し口にしたのが、「お互いが意見を言う機会」を設けることだった。
「何も分からない人たちが黒田コーチを責めるのは、一番あってはいけないこと。自分たちも、収めようとしている気持ちがまた出てきてしまうので」
グラウンド上で起きた一瞬の出来事は、SNSを通じて瞬く間に拡散した。当事者の意図とは離れたところで、さまざまな憶測も生まれている。だからこそ外崎は、黒田コーチをただ擁護するだけではなく、伊藤側の疑念も含めて双方が直接意見を交わし、事実を確認することが必要だと訴えた。
騒動を大きくしたいわけではない。むしろ、その逆だ。チームの一員として、これ以上、憶測が憶測を呼ぶ状況にはしたくない。12年目のベテランが語ったのは、そんな思いだった。
文=伊藤順一 写真=兼村竜介