目指すは32年ぶりの金メダル

川口監督は2023年10月、侍ジャパン社会人代表監督に就任。選手、指導陣、スタッフのコミュニケーションを密に取ってきた[写真=BBM]
第20回アジア競技大会(岡崎市・豊橋市)に出場する日本は、侍ジャパン社会人代表でチームを編成している。1994年の
広島大会以来、32年ぶりの日本開催で、32年ぶりの金メダルを目指す。日の丸を背負うメンバー24人は9月15日から、神奈川県内で直前合宿をスタート。17、18日にはオープン戦が組まれ、21日の開幕に備えている。
日本はグループAでオープニングラウンドでは中国、パレスチナ、フィリピンと対戦する。グループB(台湾、韓国、香港、タイ)を含めた上位2チームが進出するスー
パーラウンド2試合の結果を受けて、最終日には3位決定戦と決勝が行われる。大会本番を前に侍ジャパン社会人代表・川口朋保監督に大会への抱負を聞いた。
野手には「1試合10得点」を指示

練習中はスタッフ間でもコミュニケーションを積極的に取った[写真=BBM]
――直前合宿の意図を教えてください。
川口監督 7月末に和歌山で強化合宿を実施し、それから8月末からの都市対抗本大会を経て、各所属チームで活動後、このタイミングで集合する形にしました。直前合宿で何日間かを過ごして、コミュニケーションを取った上で本大会に入りたい、と。チームワークの養成を目的にしています。
――当初は16日からの予定でしたが、1日早めて15日からスタートしました。
川口監督 もともとは1日練習して、2試合のオープン戦を経て、愛知に入る予定でしたが、ゆったりとした時間が欲しいなと思ったので、1日前倒しにさせていただきました。選手同士、スタッフ間もそうですけど「このメンバーでやるぞ!」と意思統一でき、良い時間を過ごすことができました。
――集合の4日前、メンバーが1人変更となりました。
川口監督 投手のバイタルネット・松田賢大(日大鶴ヶ丘高)が外れたんですけど、本人が一番、悔しい思いをしていると思うんです。新たに入った投手の日本生命・
谷脇弘起(立命大)を含めたリザーブメンバーが控えていましたので、和歌山合宿のときは「その選手たちの分も」ということでやっていました。残念ながら交代することになったんですが、松田の思いを背負いながら、このメンバーで戦っていくという気持ちはより一層、強くなっています。
――オープニングラウンドからのゲームプランを教えてください。
川口監督 力関係から言うと、中国との初戦はしっかりと戦わないといけない相手だと思っていますし、2戦目以降、パレスチナとフィリピンも力あるチームですので、一戦必勝です。今回、侍ジャパンの中でも社会人代表として出させていただいているので、社会人野球の価値、魅力というものをしっかりとアジアの方々にお示しできるように、精いっぱいやっていきたいという思いがあります。何が社会人野球の魅力かと言うと、大人の全力プレーです。プロとも違う、大学野球とも違う、高校野球とも違う、本当の大人の真剣勝負を、このアジア競技大会で発揮できたらと、選手たちにも話しています。
――金メダル争いが予想されるライバル・韓国はプロ選手が出場するのでしょうか。
川口監督 韓国はオールプロで24、5歳の年齢制限を設けながら、3人ほどのオーバーエイジを使ってくると聞いています。日本の社会人野球にはいないボールの強さ、速さ、打球の強さ、長打力であったり、好選手がそろっている。MLB傘下の選手も含まれており、個の力という部分で、日本の社会人選手よりも優れた選手がいるのは承知していますが、私たちは日本の代表として誇りを持ちながら戦っていきましょう、という話はしております。
――台湾もプロ選手が参戦するのでしょうか。
川口監督 そうですね。野手の方は社会人野球の選手が何人かいて、ピッチャーは基本的にプロのほうが多いかなというようなイメージを私の中では理解しています。日本のチームに所属している台湾選手も、招集されていると聞いています。
――先日、行われたU18アジア選手権(台湾)で、日本は韓国に惜敗しての準優勝。韓国との体格差、パワーの差が指摘されていました。社会人代表はどのような野球を展開しますか。
川口監督 野手のほうはOPS(出塁率と長打率を足し合わせた値)を重視した選手選考をしてきましたので、しっかりと打って、しっかりと点を取っていきたいと思っています。選手には1試合10点、必ず取りに行きましょうと言っています。どんなピッチャーが来ても、それが現実になるかどうかは置いておいて、そういう意気込みでやりましょう、と。野手はファーストストライクからしっかりと仕掛けていく。速球への対策を、この合宿での一つのポイントとしています。
――投手はいかがですか。
川口監督 ストライクゾーンでしっかりと勝負できる投球を心がけてやりましょう、ということを常々言っています。3球投げた時に、1ボール2ストライクのカウントをつくる。もしくは1球で仕留める。当然、そのリスクは付き物で、ストライクゾーンを攻めるイ
コール、被打率はどうしても高くなるんです。長打を警戒しながら、シングルヒットはOKという割り切りを持ちながらやっていこうという話は常々しています。
逢澤主将への信頼感

明大出身の主将・逢澤[右]と打線の中軸を担う法大出身の向山[左]は1996年生まれの同級生。2018年の日米大学選手権で初めてチームメートとなって以来、親交を深めてきた仲である[写真=BBM]
――連覇を遂げた昨年のアジア選手権(中国)に続き、トヨタ自動車・
逢澤崚介外野手(明大)が主将を務めます。早い段階で打診していたんですか。
川口監督 春先、トヨタ自動車のグラウンドに行って直接、話をさせてもらいました。私がやっている限りは、逢澤キャプテンへの思いは強いです。何が優れているかと言えば、しっかりと会話ができますし、選手間でも先輩後輩、上下関係なくしっかりとコミュニケーションを取れるのが魅力です。何よりプレーでも存在感を示してくれる。全幅の信頼を置いています。
――ピッチャーと打者のキーマンを挙げていただきたいと思います。
川口監督 打線の中心は当然、逢澤なんですけど、野手で言うと三番での起用を予定しているNTT東日本・
向山基生(法大)に期待しています。3年前のアジア選手権(台湾)では二番で活躍(MVP、最多打点、ベストナイン)してくれ、昨年のアジア選手権は残念ながらタイミングが合わず招集できなかったんですけど、今回は来てくれたので、一番のカギを握っているのではないかなと思っています。ピッチャーで言うと、トヨタ自動車・
嘉陽宗一郎(亜大)の存在が大きいです。その登板の出来、不出来に関係なく、嘉陽なのかなと思っています。前回大会では韓国とのスーパーラウンドで敗戦投手となり、決勝進出を逃し、悔しい思いをしている。年齢的(30歳)にも最後のチャレンジになるでしょうから、相当な思いで臨んでくるはずです。主戦投手としては、優勝した昨年のアジア選手権で活躍(MVP)したJR四国・
近藤壱来(鳴門渦潮高)がカギを握ると思います。
――2023年10月に就任した川口監督にとって、今大会が集大成の場となります(任期は今大会まで)。
川口監督 社会人の代表チームというのは、これからもずっと続いていくものですから、そこは別に集大成ということではなくて、その時点のベストを尽くしていくということが一番良いと思います。このアジア競技大会は社会人野球を認知してもらえる、良いきっかけだと思います。おそらく、一般の人からすると「なぜ、プロの選手が出ないの?」と思っているところで、社会人の選手でもこれだけできるんだといったところを、しっかりと日本の野球ファンの皆さんにも、目に焼きつけてもらいたいなという思いが強いです。
――32年ぶりのアジア王者に向けて、改めて意気込みをよろしくお願いいたします。
川口監督 日本の開催でもありますし、広島大会以来、32年ぶりの金メダルを目指して、社会人野球の魅力をこのアジアに発信できるように、精いっぱい頑張っていきたいなと思っています。私はあくまでも選手がパフォーマンスを発揮しやすい環境づくりに努めるだけなので、そこにしっかりと準備をしていきたいなと思っています。
日の丸は身が引き締まる思い

JR四国・近藤が投手陣の軸として期待される。[写真=BBM]
川口監督が挙げた投打のキーマンの声である。
【JR四国・近藤壱来】
「ブルペンでは、低めのボールを意識的に投げました。練習で意識しておかないと、実戦ではアドレナリンで自然と浮いてきますからね。韓国、台湾、中国とパワーヒッターがたくさんいると思うので、(ローボールで)打球を上げさせないというのも、一つの手かと思っているんです。相手はプロかもしれませんが、引いていたら話にならない。絶対に勝ってやろうという思いです。監督が投手の軸として期待している? このメンバーはすごいピッチャーしかいないので、別に自分が引っ張るとかは考えていなくて、自分にできること100パーセントを発揮して大会が終われたら、それで満足です。そこに対して準備するだけかと思っています。役割は先発かと思いますが、自分のストライクゾーンでどんどん勝負していって、野手を信じて、三振が取れる場面では狙っていけたらいいです。初代表だった昨年のアジア選手権は、何も分からないまま大会に入りましたが、今年は昨年の経験を生かして、日本開催でもあり、身の引き締まる思いです。32年ぶりの金メダル、絶対に取ります」
【NTT東日本・向山基生】
「監督が打線のキーマンに挙げていただいたんですか? 素直にうれしいです。代表結成当初から期待していただけていると思うので、それに応えたい気持ちもありますし、社会人野球の価値を高めたい気持ちはあります。実力において、社会人のレベルが高いことを示さないといけないですけど、子どもたちとかに憧れになるような存在になれるようにしていきたい気持ちもあります。立ち居振る舞いとか、相手に対するリスペクトの姿勢を含めて、すべての所作です。大人の全力疾走、全力プレーを見ていただきたいなという気持ちがあります。前回大会は中国で3位という悔しい結果に終わったので、今回、名古屋の日本開催ということなので、あの無念を晴らしたい気持ちはあります。おそらく、中軸を打たせてもらうことになるので、ランナーを返して、特にスーパーラウンドとかの大事な試合で、一打で決められるようなバッティングができたらなと思います」
PROFILE かわぐち・ともやす●1971年9月14日生まれ。和歌山県出身。桐蔭高、明大を経て94年に入社した三菱自動車工業では三菱自動車岡崎硬式野球部に在籍し、2000年10月まで内野手としてプレー。01年に同社のマネジャー、02年から2年間コーチ、05〜09年まで監督を務め、都市対抗に4回出場。2020年2月から日本野球連盟の競技力向上委員会(現アスリート委員会)地域部会委員、22年5月からアスリート委員会副委員長を務める。
取材・文=岡本朋祐