一軍でプレーできる喜び

パワーあふれる打撃が魅力だ。一軍で真価を発揮したい
バットの先に当たったように見えた打球が低い弾道で、バックスクリーンの右へ。こんな本塁打を打てる選手は球界になかなかいないだろう。球場がどよめいた。負けられない試合で結果を出したのが、今季ファームで過ごす期間が長かった
巨人の
リチャードだ。
9月29日の
広島戦(東京ドーム)で、4回二死一塁の好機に左腕・
玉村昇悟の変化球を振り抜き先制の2号2ラン。このアーチが決勝打となり、「奇跡ですね」と試合後のお立ち台ではにかんだ。
「ずっと東京ドームで試合したいなと思いながら、毎試合出て、たまにはモチベーションが難しいときもあったんですけど、周りの人にお尻たたいてもらったり……。ありがとうございます」と感謝の言葉を口にした。逆転優勝を目指すシーズン終盤に一軍でプレーできる喜びをかみしめている。「(今季は)プレーできないと思っていたので……。本当に今までは緊張が大きかったんですけど、いい緊張感で楽しめるようになっていると思います」とたくましい表情を見せた。
2カ月以上のファーム暮らし
昨年5月に
秋広優人、
大江竜聖と2対1のトレードで移籍。
ソフトバンクではウエスタン・リーグで5年連続本塁打王に輝くなど長距離砲として期待されたが、一軍に定着できなかった。巨人移籍後は77試合出場で打率.211、11本塁打、39打点をマーク。快音が聞かれない時期があったが、
阿部慎之助前監督が我慢強く起用した。試合に出続けることでつかんだ手応えを口にしている。
「昨年はあっという間でした。5月にトレードでジャイアンツに来て、気持ちを切り替える暇もなく、何が起きているか分からない状態であっという間に1年が終わっちゃってましたね(笑)。まだまだ満足はしていませんが、2ケタ本塁打(11本)を打てたのはよかったです。7月21日の東京ドームでの
阪神戦で
ニック・ネルソンのチェンジアップを打った同点3ランはよく覚えています。体勢を崩されながら打つことができたので価値があったな、と。阿部(阿部慎之助)監督と、タイミングを外されても打つためにいろいろな練習をしてきた中で、あのときはとっさに練習していたような打ち方ができました。印象深いホームランでしたね」
さらなる飛躍が期待された今年だったが、オープン戦で死球を受けて左手小指骨折で出遅れた。今季一軍初出場となった6月13日の
西武戦(ベルーナ)で1号アーチを放ったが、出場した3試合で8打席5三振に終わりファーム降格。7月に再び昇格したが6試合出場で無安打と打率が1割を切り、ファーム暮らしが2カ月以上続いた。
「二軍の帝王」からの脱却
リチャード自身が振り返るように、このまま一軍から呼ばれないことが頭をよぎった中で、3度目のチャンスを与えられた。9月27日に一軍昇格すると、「七番・三塁」でスタメン出場した同日の
ヤクルト戦(東京ドーム)で、5回二死満塁から左翼線への2点適時二塁打。3四死球と4打席で出塁してチームの勝利に貢献すると、29日の広島戦でも2号アーチと打棒でアピールしている。
「二軍の帝王」と呼ばれてきたが、きっかけをつかめばガラッと変わる可能性が十分にある。トレード移籍で人生を変えたのが、
吉岡雄二(現ヤクルト一軍打撃コーチ)だ。甲子園優勝投手は巨人入団後に野手転向。身長189センチの恵まれた体格から打撃練習でサク越えを連発し、「右の吉岡、左の
松井秀喜」と形容された。
1994年にイースタン・リーグで22本塁打、72打点と二冠に輝くなど格の違いを見せていたが、一軍で出場機会に恵まれず、97年1月に近鉄にトレード。新たな環境で才能を開花させる。移籍2年目の98年には自己最多の13本塁打を放つと、2001年に打率.265、26本塁打、85打点でリーグ優勝に貢献。その後は
楽天でもプレーし、通算131本塁打を記録した。
巨人は大卒2年目でブレークした
浦田俊輔を筆頭に巧打者が台頭しているが、長距離砲がなかなか出てこない。リチャードは殻を破り、中軸に定着できるか。レギュラーシーズンは残り3試合。CSで出場機会を勝ち取るためにも、すべての打席が重要だ。
写真=BBM