拾ってもらった会社に貢献することが最優先

ENEOS・長屋は三菱重工Eastとの社会人日本選手権の最終予選で救援。2回無失点の力投も、チームは1対5で敗退した[写真=矢野寿明]
等々力球場で視察した8球団のNPB関係者は、今か今かと登板を待ちわびていた。
お目当てはENEOSの154キロ右腕・長屋竣大(立命大)である。三菱重工Eastとの社会人日本選手権関東最終予選。1対5の8回表から四番手としてマウンドに立った。ネット裏のスカウトは一斉にスピードガンを構え、ビデオの撮影に追われた。長屋は走者を許しながらも、2イニングを無失点。攻撃に流れを呼び寄せる力投を見せたものの、1対5のまま敗退。ENEOSは今夏の都市対抗に続き、社会人日本選手権も本大会出場を逃した。この社会人野球の二大大会に駒を進めることができないのは2004年以来、22年ぶりの屈辱だった。
「状態が良くない中でも、いかに投げられるかというのをテーマに考えたんですけど、ゼロでかえってこられたのは、最低限の仕事はできたかなと思います。ただ、負けて悔しいので、実感がないと言ったらちょっと変ですけど、何も考えられないというのが正直なところです」
10月22日にはドラフトが控える。長屋は大卒2年目で2026年がドラフト解禁。注目度の高さはプロ関係者の視察の数でも分かる。「運命の日」について聞かれると、こう答えた。
「プロに行きたいという気持ちもあるんですけど、ここまでは目先の試合だけを考えてきました。ENEOSに拾ってもらったのに1年目は投げられず、2年目の今年は都市対抗に導くことができませんでした。この夏は、東芝の補強選手として東京ドームで投げさせていただき、自チームで出たい思いが強くなりました。今回は日本選手権に出場する強い思いを人一倍、持っていたんですが、それが実現できず、悔しいです」
補強選手としての覚悟

ENEOSは社会人日本選手権出場を逃し試合後、長屋は悔しそうな表情で取材に応じた[写真=矢野寿明]
長屋は困難を乗り越えてきた。立命大4年春、下半身のコンディション不良で出遅れ、4カード目の京大2回戦で復帰したが先発で敗戦投手。同大2回戦で先発もチームを勝利へと導けず、右肘の痛みを訴えて5回途中降板。チームは同校初の10戦全敗の最下位に終わった。6月にトミージョン手術を受けると、立命大・片山正之監督からのたっての指名により、秋のリーグ戦は学生コーチとして登録された。チームのために尽力したのである。ENEOSは投げられない状態でも、長屋のポテンシャルを評価。昨春、名門社会人チームの門をたたいた。だからこそ、長屋は「拾ってもらった」という意識が強く、会社の力になりたい思いを心に秘めていた。
「昨年1年間はアナライザーの仕事を手伝ったり、プレーヤーではなくてチームを運営する側、裏方の目線に立てたということは、自分の中で武器だと思います。大学時代の学生コーチを含めチーム、監督がどういう選手を求めているのか、別視点で野球を考えられるようになったので、チーム本隊から離脱していた期間は、決して無駄ではなかったと思います」
入社2年目、今春のJABA大会で実戦復帰すると、都市対抗西関東予選でも3試合に登板した。入社1年目のリハビリから、カムバックまでの過程を段階的に見守ってきたという
ヤクルト・余田雄飛スカウトは「投げられる状態になれば、上位候補に挙がってくるのは間違いないと見ていました。ムチのように腕が振れ、ストレートが浮き上がってくるような良い球質。強いボールに加えて、フォーク、チェンジアップも器用に使える」と目を細める。
長屋の「評価」を決めたのは都市対抗である。日本生命との1回戦では3対3の8回表からリリーフすると、9回までの2イニングを打者6人、一人の走者も出さなかった(3奪三振)。タイブレークとなった10回表に3失点も、東芝・大河原正人監督は「タイブレークは仕方ない。8、9回は素晴らしい投球でした」と、敗戦投手を責めることはなかった。
「大会前のブルペンで放ると、150キロ前後の真っすぐは、低めにしか来ないんです。しかも、落ちる系の変化球は鋭く、また、左打者も苦にせず、後ろで起用することをすぐに決めました。補強選手として約1カ月、一緒に戦いましたが、『このチームでやり切る』と、覚悟を持って合流してくれたんです。人間的にも本当に信頼できる存在でした」(大河原監督)
東京ドームでの経験値をENEOSへと持ち帰り、三菱重工Eastとの一戦では本調子ではないながらも、2回無失点と成果を見せた。今年はチーム事情で短いイニングでの登板が続いたが、社会人日本選手権に出場していれば、実は先発復帰も見据えていたという。
「先発をやりたいという気持ちもあるんですけど、8回、9回のしびれる場面で投げさせていただく楽しさ、魅力を感じられるようになりました。チームに必要とされるならば、どのポジションでもやるというのが基本ベースにあります。大学時代は先発しかやっていなかったので、社会人で自分の引き出しというか、それがまた一つ増えたのかなと思います」
「プラス素材」に高い将来性
すでに相当数のNPB球団が長屋に調査書の提出を求めており、注目度は高まるばかりだ。試合後、ENEOS・宮澤健太郎監督(明大)はドラフトについて「本人の思いをしっかり踏まえながら、判断していきたいと思っています」と、言葉を選びながら慎重に答えた。長屋は入社から2年間、育ててもらったENEOSの会社、野球部への感謝を大前提として「チャンスがあれば今年、プロに行きたいという意向はあります」と明かした。
トレーナーとしても実績があるヤクルト・余田スカウトは長い目で見る。「ブランクもありましたので大学3、4年生の段階と見ています。社会人選手は一般的に『即戦力』と言われますが、長屋投手の場合は『プラス素材』。体づくりと実戦登板を重ねていけば、もっともっと良くなるはずです。将来的にはチームの軸、160キロを出すだけの能力がある」と、将来性を高く評価。実戦でこれだけのパフォーマンスを発揮すれば、獲得を目指す球団は当然、上位で指名してくるはず。上位でないと取れない。10月22日のドラフト当日、会場のテーブルまで腹の探り合いが続く。
取材・文=岡本朋祐