「体感イベント」に参加者は堪能

約1時間のトークショーでは高校時代から現在の活動に至るまで詳細まで話した[写真=BBM]
物を大切にする。当たり前のことかもしれない。野球に限らず、幼少時に教育されてきたはずだ。それは、なぜか。野球においては練習、試合に向けた重要な準備であり、その過程を疎かにする選手は、どこかで隙が生まれる。運も味方しない。次に、説明するまでもなく、野球用具とは高価な商品である。特にグラブは高額で、子どもの小遣いでは、なかなか手に届かない。グラブ職人が、手作業で丹精を込めて製作。一つひとつに、魂が詰まっている。そして、子どもに期待を寄せ、出費する保護者の愛情も野球用具に注がれているのだ。
前置きが長くなった。「
斎藤佑樹CATCHBALL TALK-ここだけの裏話×あなたの想いを、一球に」が10月3日、MIZUNO TOKYOイベントホールで行われた。トークショーには約60人が参加した。2006年夏、早実のエースとして甲子園で初の全国制覇を遂げてから20年。早実、早大、
日本ハムの現役時代、2021年限りで引退後、野球の普及・振興など、この5年のさまざまな活動を語り尽くした。トークだけにとどまらず、キャッチボール交流、ツーショット撮影など、聞くだけでは終わらない「体感イベント」に参加者は堪能していた。
小学4年時に出会った宝物

早大4年時に使用したグラブを手にすると、当時の記憶がよみがえったという[写真=BBM]
野球用具メーカーのイベントだけに、最も興味深かったのはグラブのエピソードだった。
「1年生から3年生までは兄の『お古』を使ったんです。 4年生になると、親から『佑樹、頑張ったから、好きなのを買っていいよ』となって、近くのスポーツショップに行ったんです。そこで野球少年は試しにはめるじゃないですか。微妙に型がついているグラブがあり、それが自分も合っていたんですね。二塁手とかが使うワンピースの
ウェブデザインでした。当時、松坂さん(
松坂大輔)が使っていたウェブにちょっと似ていて、そのグラブ買ってもらったんです。とにかく形が綺麗なのと、ミズノの『Buw League(ビューリーグ)』がめっちゃ格好良くて、小学6年時まで3年間使っていました」
早大4年時に作った赤グラブは、この日のために、群馬の実家から持ってきたという。
「(背番号)1番と自分の投げているシルエットが刺繍されているんです。また、不死鳥のマークが入っているんですが、3年生のときは調子が悪かったんです。あまり勝てず『もう1回、復活するぞ!』という意味を込めてプリントをしていただきました」
野球人生とともにあった存在

「一球キャッチボール」では参加者が1人ずつ、斎藤氏に思いを込め、言葉も直接伝えられる特別な時間だった[写真=BBM]
ミズノからはプロ1年目のグラブが用意された。日本ハム入団時の背番号「18」が刺繍され、斎藤氏は15年前の記憶をよみがえらせていた。斎藤氏はアマチュア、プロ時代を通じて同社のグラブを使い続け、トークイベント後に取材に応じ、あらためて愛着を語った。
「ミズノと一緒に、僕も成長してきたんだと、そんな思い出を振り返る上で、良い機会でした。僕のグラブをつくっていただいていた担当者さんは、いろいろと親身になって相談に乗ってもらい、こだわりなど、さまざまな注文にもすべて応えていただき、感謝しかありません。今回のトークイベントを通じて、走馬灯のようにお世話になった皆さんの顔を思い浮べましたし、野球選手はこうした方々に支えられていることを再認識する日となりました」
さらに、言葉が熱を帯びる。
「僕にとってミズノは、野球人生とともにあった存在です。ある意味、アイデンティティのような感じです。ミズノの方はすごく、ニーズを汲み取ってくれて、細部まで考えてくれることが多かったんです。道具の相談等だけではない、人との関係性も含め、本当に深くまで寄り添っていただいたと思います。子どもたちにも、こうしたイベントを通して、野球用具に触れる機会をつくってほしいです。道具好きな野球人って多いじゃないですか。そういうきっかけから興味を持っていただくとか、いろいろなアプローチができると思います」
野球用具には「心」がある

トークイベント後はサイン会が実施された[写真=BBM]
ファンにとっては至福の時間となったが、斎藤氏にとっても、自身の野球人生を回顧し、さらには実業家として、今後の活動を進めていく中で、活力となる場となった。
「小学4年生ときに親に買ってもらったグラブは宝物。当時から当然、大事にしていたんですけど、時には飛び込んで泥だらけになることもあるし、汗にまみれ、雨でビショビショにもなる。使い続ける中で、ケアを含めて、しっかり保管をすることが大切。最初のグラブ、思い出のグラブは自分の過去を振り返る上で、すごく大事なものだったと感じています」
斎藤氏がグラブを持つその表情は、まるで野球少年のように目が輝いていた。グラブに限らず、すべての野球用具には「心」がある。製造に携わる人たちの情熱が宿っているのだ。
取材・文=岡本朋祐