チームのために汗をかく

慶大・吉開は3回表に中前打、7回表には右二塁打[写真]を放った。前日に死球を受けた右目付近は内出血。捕手としてもフル出場し、不屈の精神力である[写真=矢野寿明]
▽東京六大学リーグ戦第4週(10月4日)
法大5-2慶大(1勝1敗)
慶大・堀井哲也監督の朝は早い。今年から指揮官を支える上田誠投手コーチは、冗談交じりにこう明かす。「5時に『今日(の投手陣の配置)はどうなっている?』と電話がかかってくることなんてザラです。戦々恐々ですよ(苦笑)。監督はいつも、学生のことを考えている。頭が下がります」。堀井監督は四六時中、219人の野球部員についてアンテナを張っている中で、一つの懸念事項があった。
「吉開がいつ、寝ているか、心配になる」
昨秋から司令塔に定着した正捕手・吉開鉄朗(4年・慶應義塾高)は「全然、寝ています(苦笑)。でも、そう言っていただけてうれしいです」と語った。慶大は昨秋まで3季連続5位という屈辱を経て今春、5季ぶりのリーグ優勝を決めた。全日本大学選手権では関大との決勝で惜敗して準優勝。復活への確かな足跡を残した功労者は守りの要・吉開である。
チームのために汗をかく。それが、吉開のポリシーである。
「何かこれというすごい
セールスポイントがあるような選手ではないんです。ただ、自分にできること、例えば対戦相手の動画を見るとか、ピッチャーに誰よりも気を使うとか、ボールを止めるとか、誰でもできることをずっとやり続けて、いつの間にかそれが自分の長所になっていると感じたんです。自分のやるべきことを常に継続してきた結果が、今に結びついているのかなと思います」
9月5日にはプロ志望届を提出した。社会人野球の誘いは断り、覚悟を決めた。支配下でなく、育成ドラフトであっても、NPBに進みたい意向を示している。
目指す選手像は「勝てる捕手」である。
「長打力とか、肩が強いとかじゃなくて、それでもチームを勝利へと導ける捕手になりたいと、この大学生活を送ってきました。理想は
阪神の坂本選手(
坂本誠志郎)です。プレー以外の部分での洞察力などに長けており、本当に『女房役』という言葉が似合うような、そういった捕手に自分もなりたいなと思います」
万全の準備を経て神宮入り
すべての情報が頭の中に入っている。マスクをかぶる以上、責任が伴う。吉開は法大1回戦(10月3日)の8回裏、右目付近に死球を受け、このイニングで交代した。病院での診察結果は「打撲」。プレーに支障はないという医師からの説明があった。あとは、本人次第だった。
「朝起きて、こういう感じ(右目付近が内出血)になったんですが、視界とかに問題なかったので。4年生の秋で、どうしてもこの秋に勝ちたいという気持ちがあったので、無理だったら無理と言うつもりだったんですけど、全然、気持ち次第で行けるところだったので、行かせてほしいと伝えました」
法大2回戦(同4日)は八番・捕手で先発出場。トレーナーの指示の下、イニング間はアイシングを続けた。痛みがあるのは間違いないが、このことについて、吉開は一切触れず。不屈の精神力で、フル出場で2安打を放った。懸命のリードも及ばず2対5、今季チーム初黒星で1勝1敗のタイとなった。勝ち点をかけた3回戦は、同5日に行われる。
勝負の瀬戸際。堀井監督から受けてきた4年間の指導を実践する場である。
「勝負事で結果を残すには、腹をくくらなければいけないことをこの慶應野球部で学びました。チャンスのときとか怖いですけど、そこは腹を決めて『ここ』と決めてバットを出していかないと、結果は出ない。監督がずっと言い続けてきたことなんですが、1、2年生のころは『何を言っているんだろう』と思っていたんですけど、試合に出るようになって、監督の意図する『勝負勘』に気づくことができました」
集中力を研ぎ澄ませる。堀井監督が心配する寝る間を惜しんだ万全の準備を経て、神宮球場入り。背番号27が陸の王者・慶應の心臓部である。
取材・文=岡本朋祐