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【東京六大学野球】早大・小宮山悟監督が「伊藤樹になれる可能性がある」と予言した理由

 

「後継者」として指名した後輩


早大・高橋は明大3回戦で2失点完投勝利。あいさつ後はホッとした表情を見せた[写真=矢野寿明]


▽東京六大学リーグ戦第3週未消化分(10月6日)
早大4-2明大(早大2勝1敗)

 中8日。休養十分である。言い訳はできない。早大にとって明大3回戦は大一番。勝てば天皇杯奪還の可能性を残し、負ければ絶望的という瀬戸際だ。小宮山悟監督の選択肢は一つ。先発に託したのは、投手陣の軸である153キロ右腕・高橋煌稀(3年・仙台育英)だった。

 24年春から25年春にかけてのリーグ3連覇の原動力で、通算23勝の伊藤樹(楽天)が昨秋限りで卒業。「後継者」として指名したのが、高校の後輩・高橋である。さかのぼれば、小宮山監督は24年春、伊藤樹に背番号「11」を渡した。周囲からの絶対的な信頼を受け、自らの手でつかみ取ったのではない。奮起を促すのが目的だった。伊藤樹の持っているポテンシャルからすれば、すべての取り組みが物足りなかったという。エースの立場が人をつくる。自覚が芽生えた伊藤樹は、目の色を変えて練習と向き合い、指揮官の思いに応えたのである。

対照的な野球人生


高橋は1年春から背番号「41」、2年春からは「15」を着ける。最終学年では伝統のエース番号「11」を背負うため、鍛錬の日々が続く[写真=矢野寿明]


 184センチ88キロの高橋は、先輩・伊藤樹以上の潜在能力があると言われている。初めて規定投球回数に達した昨秋(2年秋)は3勝(1敗、防御率1.86)をマーク。小宮山監督は「期待料」を込め、伊藤と同じタイミングである3年春から背番号「11」を託すのかと思われたが、慎重な構えを見せた。別の意味で、奮起を促した。そのまま2年春からの「15」を着けさせたのである。

 今春はコンディション不良により開幕カードで出遅れるなど、本来の力を出し切れず、1勝に終わった。6月には大学日本代表候補合宿に選出されるも、侍ジャパンのメンバー入りはならなかった。小宮山監督は言う。「高校時代に日の丸に名を連ねているわけですから、大学で入れないわけがないという理屈です」。危機感が感じられないのが、歯がゆかった。

「プロに行きたい、と言う選手の取り組みではない。何となく、毎日を過ごしているように見受けられる。物足りない。才能のある人はいいよね、という話です」

 小宮山監督は2年間の浪人を経て早大に入学し、血のにじむような努力を重ね、エースの座を手にし、通算20勝を挙げ、ドラフト1位でロッテに入団した。一方で、高橋は2年夏の甲子園で東北勢初の全国制覇を経験し、3年夏の甲子園で準優勝を遂げ、早大にはアスリート選抜入試で入学した超エリートである。対照的な野球人生を歩んできた。小宮山監督からすれば、才能を発揮し切れていないもどかしさが常にあった。

 早大は法大との開幕カードを1勝2敗で勝ち点を落とした。明大との第3週は1回戦(9月27日)で高橋が今季初勝利を挙げて先勝したが、2回戦は投手陣が乱れ、0対17の大敗を喫した。雨天中止の影響で、勝ち点を懸けた3回戦は未消化となっていた。早大は第4週の東大戦で連勝。小宮山監督は東大1回戦(10月3日)で高橋に短いイニングを投げさせ、明大3回戦での先発を考えていた。だが、高橋は小宮山監督へ、明大3回戦に照準を合わせる意思を伝えた。東大2回戦(同4日)はベンチ入り25人のメンバーから外れ、調整の時間に充てた。そして迎えた中8日での大一番のマウンドだったのだ。

「ちょっとたくましくなったかなという気がします」


早大・小宮山監督は9回表二死一塁、マウンドに向かい高橋の状態を確認した[写真=矢野寿明]


 明大3回戦の試合前、小宮山監督は一塁ベンチで予言していた。

「ここでビシッと抑えれば、樹(伊藤樹)になれる可能性がある」

 百戦錬磨の指揮官には、何か感じるものがあった。この日の高橋は、気合が違った。序盤から飛ばし、明大打線に隙を与えなかった。2対0とリードした7回表に突如、制球を乱して同点に追いつかれたのは今後の課題だが、続投した8回以降も集中を切らさず、成長の跡を残した。8回裏に徳丸快晴(2年・大阪桐蔭)の勝ち越し2ランが飛び出し、高橋は9回表も抑えて完投勝利を挙げた。優勝争いに踏みとどまったのである。9回表二死一塁で、小宮山監督はマウンドに足を運んでいた。

「昨日の涼しさから一転、今日はちょっと暑かったもので、120球で限界だろうなと思っていたら、ちょうど120球に行ってしまったので、本人に確認したところ『最後まで一人で行きたい』ということでしたので、ちょっとたくましくなったかなという気がします」

 小宮山監督は称賛しながらも、厳しさも忘れなかった。学生への、愛情の裏返しである。

「樹本人が後継者と指名して卒業していますから、本人もそのつもりでいるんでしょう。ただ、まだまだ足元にも及ばない。残り、立教、慶應と2つのカードで大黒柱になって、来年、11番を背負えるように、何とかしたいと思います」

天皇杯奪還へ1敗もできない


4対2で迎えた9回表二死一塁。最後の打者を左飛に仕留め、こん身のガッツポーズを見せた[写真=矢野寿明]


 一つのきっかけで、人生は大きく変わる。高橋からすれば、ベンチの信頼を得る分岐点となる一戦となった。小宮山監督は今秋限りで、任期満了により退任する。開幕前、8月31日に行われた会見で、今春まで指揮した15シーズンで最も印象に残る試合として、25年春の明大2回戦を挙げた。負ければV逸の一戦で、伊藤樹がリーグ史上26度目のノーヒットノーランを遂げている。この明大2回戦以降、明大との優勝決定戦まで、小宮山監督が言う「怒涛の5連勝」でリーグ3連覇を達成した。1敗も許さない状況から、天皇杯をつかんだのである。

 この秋の早大は現在、5勝3敗、勝ち点2。過去の優勝ラインから見ても、天皇杯奪還へ1敗もできない星勘定にある。明大3回戦で小宮山監督の「予言」は的中した。高橋は真のエースになるきっかけをつかんだ。自らの手で、背番号「11」をつかむチャンスを得た。尊敬する先輩・伊藤樹の背中を追う高橋にとって、真価が問われる残り2カードである。

取材・文=岡本朋祐
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