「運命の日」の巡り合わせ

法大・藤森はソフトバンク4位指名。「まさかこんなに早く指名していただけるとは思っていませんでした。1日も早く一軍の戦力になりたい」と語ったが、まずは東大との最終カードに集中する[写真=福地和男]
ドラフト会議から3日後。神宮球場の2階席でソフトバンク・宮田善久スカウトは法大の主将・
藤森康淳(4年・天理高)の東大1回戦(10月25日)のプレーをじっと見つめていた。ドラフト4位指名。感慨深いものがあった。
「25年目にして、初の縁なんです」
法大からの直接のホークス指名は、1998年のドラフトで左腕・福山龍太郎(ソフトバンク・アマスカウトチーフ)が4位指名を受けて以来28年ぶりだった。宮田スカウトは国学院栃木高、法大、熊谷組、立命大コーチ、立命館宇治高監督を経てダイエーのスカウトに就任。現役選手では
東浜巨、
大津亮介、
松本晴らの獲得に尽力し、世界一を目指す「常勝ソフトバンク」を支えてきた一人である。
「これまでも母校から獲得したいと思った選手はいましたが、ドラフトとは球団ニーズと編成ニーズ、当日の巡り合わせが合致しないと実現しないんです」
10月22日。宮田スカウトはドラフト会議が行われた東京都内のホテルの球団控室で、指名を見守った。ソフトバンクは第1回1位入札で
ロッテとの2球団競合の末に青学大・
鈴木泰成(4年・東海大菅生)の交渉権を獲得。ウエーバーの2位(全体23番目)では立命大の左腕・
有馬伽久(4年・愛工大名電)、折り返しの逆ウエーバーの3位(全体26番目)では慶大の左腕・
渡辺和大(4年・高松商)を指名。いずれも侍ジャパン大学日本代表に名を連ねた実力者である。
ソフトバンクとしては、理想の展開だったという。そして、ウエーバーの4位(全体47番目)の順番だ。ここまで他球団は、計7人の外野手を指名していた。このタイミングで俊足巧打の外野手・藤森の指名が実現。これが「運命の日」における、巡り合わせなのだ。
「リーグ戦で通算20盗塁を数える脚力と、守備範囲の広い守備力を
セールスポイントとして挙げていますが、実は私が最も評価しているのは、打撃なんです。当て勘が良く、コンタクト率が高い。これからプロの投手にどう対応していくかが課題ですが、逆方向に打てる強みがあります。しっかりバットを振り切って、左方向へ飛ばす技術があるんです。つまり、振って合わせていくタイプ。追い込まれても、崩れても、合わせることができる。三遊間に転がせば、内野安打を稼ぐこともできる。野球選手にとって、足がある(50メートル走5秒9)のは大きいんです」(宮田スカウト)
内・外野を守れる万能選手

ソフトバンク・宮田スカウトは法大の後輩でもある藤森のセールスポイントを語った[写真=BBM]
ソフトバンクには左翼手・
柳田悠岐、中堅手・
周東佑京、右翼手・
近藤健介と日本球界を代表する外野手3人がおり、この輪に入っていくのは、現実的に高いハードルが待ち構える。宮田スカウトは明かす。
「隙間がないのが現状ですが、
川村友斗が終盤の代走、守備固めから出場機会を得ているように、藤森にはこの中に入ってきてほしいと思っています。試合の展開次第では1打席でも回ってくるケースがあり、ここできっちりと結果を重ねていけば、ベンチからの信頼を得て、チャンスが広がる。自らの手で切り拓いていくしかないですが、競争ができる選手です」
その晩、まさに、宮田スカウトが思い描く理想のシーンがあった。日本シリーズ第2戦(横浜スタジアム)。川村は8回表に柳田の代走として出場。そのままライトに入り、10回表のシリーズ初打席で、決勝ソロアーチを放った。藤森にはレギュラー奪取の足がかりとして、まずはスーパーサブとしての役割を期待している。藤森は天理高時代には二塁手で侍ジャパンU-18代表にも名を連ねたが、法大入学後は一塁、三塁、外野を守った器用さも売り。ソフトバンクには、過去2度のWBCで内・外野の複数ポジションを守れることで重宝された
牧原大成がおり、次世代のユーティリティープレーヤーとしての期待も大きいという。
主将として3つのポリシー

リーグ史上35人目の100安打まで2安打としているが、東大1回戦は無安打と足踏み。27日の同2回戦にかける[写真=福地和男]
ドラフトとは「縁」だ。法大・
大島公一監督(元近鉄ほか)と宮田スカウトは法大野球部で同級生。大島監督が主将、宮田スカウトが新人監督や特別要員(学生コーチ)を務め、チーム運営の中核を担う2人で、4年春には東京六大学リーグで4連覇を遂げた。24年から母校を指揮する大島監督は、藤森を1年春から様々なポジションで起用した理由を明かす。
「どこでもいいから、打順に入れたい選手でした。下級生時代は上級生のレギュラー選手との兼ね合いもあり、不慣れな守備位置にも就いてもらいましたが、いつでもチームに必要な部分にフィットしてくれる、ありがたい存在でした。気持ちを前面に出し、こちらの意図する作戦にも、器用にこなしてくれる。実はこの春は度重なるケガに苦しんだんですが、主将という立場もあり、本人の『出ます』という意見を尊重しながらも多少、無理をさせてしまったところはあります。この秋を含めて、勝たせてあげられなかったのは、監督としての反省です。藤森の功績を、次なる世代で『強い法政』を復活させたいと思っています」
チームに残した財産。大島監督は続ける。
「藤森が言い続けていたことは3つ。アグレッシブに粘り強く、泥臭く、そして、一体感。『チームで戦うんだ!』ということを、いつも強調していました。昨年の主将・松下(
松下歩叶、
ヤクルト)に続いて、チームを良い方向に導いてくれました」
多くの出場機会を得た藤森は、東大との最終カードを残して98安打としていた。リーグ史上35人目の100安打まであと2本で迎えた東大1回戦は、4打数無安打に終わった。
「力みまくっていました。地に足つかないという感じの打席が続きました」
試合後、報道陣に「100安打が頭にあったか?」と聞かれると正直に話した。「常にあります。常にというか、もう100安打しかなかったです。やっぱり、チームのこと考えないと、こういう結果になるんだなと、つくづく感じました」。もちろん、大前提には主将としてけん引する仕事がある。頭では理解しているつもりでも、体が言うことをきかなかった。
いまこそ、大島監督が明かしたように、原点回帰するのみ。法大は今春、東大に連敗して、勝ち点を落としていたことからも、この秋を前にして主将・藤森は「打倒・東大」と特別な意識があった。
「まずは、チームのこと。チームの勝利に貢献できるようにプレーしていきたいと思います」
法大は東大1回戦で先勝した。26日は雨天中止で、2回戦は27日に組まれている。連勝すれば今季最終戦、学生ラストゲームになる。藤森は無欲で左打席に立つ。
取材・文=岡本朋祐