通常とは違う今オフのMLB移籍市場

ポスティングシステムを利用してのメジャー挑戦が容認された平良
西武は10月30日、
広池浩司球団本部長が報道対応し、かねてメジャー移籍を要望していた
平良海馬について、ポスティングシステムを利用しての移籍を容認すると発表した。
広池本部長は「平良投手は、これまでチームの要望に応じてさまざまな役割を担い、タイトルを獲得するほどの結果を残してくれました。今度は私たちが彼の要望に応える番ではないかと思い、その気持ちを伝えました」と要望受諾に至った経緯を語った。
平良も球団を通じてコメントを発表。「長い間、メジャーでプレーしたいという思いを持っていたので、ようやくそこに一歩踏み出せたと感じています。ドラフトで指名していただき、9年間プレーする中で、スタッフの皆さんやチームメートと、本当に楽しく、素晴らしい時間を過ごすことができました」と西武への感謝とともに、念願の挑戦への思いを明かした。
注目されるのは、交渉のタイミングと期間の短縮だ。今オフのMLB移籍市場は、通常とは違う事情を抱えている。現行の労使協定が12月1日に期限を迎え、球団オーナー側がロックアウトに踏み切る可能性が高まっている。争点となっているのは、オーナー側が導入を求めるサラリーキャップ制度。選手会側は強く反発しており、新協定の締結まで交渉が長期化することも想定される。
ロックアウトに突入すれば、球団と選手の契約交渉や移籍交渉は凍結される。ポスティングによる交渉期間は45日間と定められているが、MLB機構側がロックアウト中の交渉の一時停止を認めないという報道も出ており、12月1日で交渉期間が打ち切られる可能性がある。米メディアからは、ロックアウト前の11月中に契約をまとめる動きが加速するとの見方も出ている。
その意味で、平良にとっては限られた時間の中で自身の価値を最大限に評価してもらう必要がある。MLB公式サイトが発表した今オフのFA選手ランキングでは22位にランクイン。米メディアの評価も高く、先発と救援の両方をこなせる実績に加え、今季は先発として23試合に登板し12勝5敗、防御率1.36で最優秀防御率のタイトルを獲得した実績が評価されている。
リリーフ適性の高さに関心
平良はこれまで救援投手として62セーブ、111ホールドを積み重ねてきただけに、先発と救援の両面で価値を持つ投手として評価されている。米スポーツ専門局ESPNのジェフ・パッサン記者も「先発と救援の双方で価値を持つ投手」として評価し、今季の投球内容によってMLB球団の関心が高まっていると指摘している。
身長173センチという体格や、これまで救援投手としてのキャリアが長かったことから、現地のスカウトには当初、懐疑的な見方もあったという。しかし、今季は平均95.6マイル(約154キロ)の直球に加え、8種類の球種を操る投球術、終盤でも100マイル(約161キロ)を計測する出力を披露。パッサン記者も、こうした球威と多彩な球種、さらに先発としてシーズンを通して投げ切った実績が、平良の評価を押し上げていると伝えている。
ただし、本人の希望とMLB球団側の評価が必ずしも一致しているわけではない。平良本人は「先発として挑戦したい」と意思を明確にしている一方、各球団の評価はむしろリリーフ適性の高さの方に集まっている。先発としても救援としても高い出力を維持できることは大きな武器だが、MLB球団にとっては、勝ちパターンを担えるリリーフとしての価値も魅力的に映っている。
そこで注目されるのが、代理人を務める
スコット・ボラス氏の交渉戦略だ。先発としての実績と今後の可能性をどこまで各球団に評価させ、本人が希望する起用法を契約条件に盛り込めるのか。仮にリリーフとしての評価が先行する場合でも、先発としての起用を前提とした契約を引き出せるのか。複数球団の関心を背景に、ボラス氏がどのような条件を引き出すかが交渉の焦点となってくる。
広池球団本部長が「NPBナンバーワン」と太鼓判を押したライオンズのエース右腕。本人が望む先発としての挑戦を実現できるのか。それともMLB球団の評価を踏まえた別の選択肢が浮上するのか。ロックアウトという時間的な制約も迫る中、ボラス氏の手腕が試されることになる。
文=伊藤順一 写真=BBM