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WBSC U-23野球ワールドカップ2026

【侍ジャパンU-23代表】五輪3大会連続出場のレジェンドが「想定内」を強調する理由

 

自分の心を動かせるチーム


背番号「91」には特別なこだわりがある[写真=BBM]


「ミスター社会人野球」と呼ばれた杉浦正則氏(58歳)が10月1日、侍ジャパン社会人代表監督に就任した。指揮官としての船出は11月7日に開幕する「WBSC U-23野球ワールドカップ2026」。3連覇がかかる今大会。開催地・ニカラグアへの出発を前にして、10月31日から3日間の国内合宿を千葉県内のグラウンドでスタートした。代表メンバーはオール社会人の24人。日の丸を率いて迎える初日の練習の感想は、意外なものだった。

「たぶん、一番緊張しているのは僕じゃないかなとは思うんですけども……(苦笑)。これまでのアドバイザーの役割から監督に立場が変わったというところで、自分自身にプレッシャーがかかっているところもあるので、緊張していたなとは思います。でも今日、選手たちの顔を見て、話をして、練習を見ていると、自然とほぐれてきたな、と。元気に、明るくやっていきたいという感じがしました」

 初日は約2時間の調整。2、3日目は実戦形式が組まれている。

「コンディショニングのところは、選手それぞれに任せるところがあるので、どちらかというと我々はチームを作っていかなきゃいけないという立場で、関係性の質ですね。どれだけ選手と選手の距離を縮めて、みんなでやっていこうというモチベーションができるかというのが、この3日間の中では大事かなとは思います」

 練習冒頭のミーティングで主将・山下来球(Honda)が発表された。杉浦監督がこの日の練習前、本人に打診したという。これには意図があった。

「本人には今日、伝えたんですけど、基本的には対応力だと思うので、今日、言われてもちゃんとやるという対応を求めていたんです。通常であれば、早めに伝えたほうが良かったかなとは思うんですけども、自チームの練習とか、日本選手権を控えたチームもあったので、当日に話そうと、自分の中では決めていました。小学校、中学校ではキャプテンの経験があるということでしたので、彼の明るく元気なところと、野球に対して真摯な姿勢、取り組みを期待してキャプテンにしました。ただし、基本的にはこのチームは一人ひとりが全員でつくり上げていかないといけません。もともと全日本は合宿を積み重ねながら、心と心を通わせていくという風潮があったんですけど、今回は短期間でつくるということなので、一人ひとりがチームづくりに参画していく、そういう姿勢を持ってほしいと、今夜ミーティングでもそういうことも詳しくしゃべろうかなと思っています」

 背番号91。特別な思いが込められていた。「全日本ではずっと19を着けさせてもらっていたんです。上原浩治が大学3年生で代表入りした1997年のインターコンチネンタルカップは私が18で、上原が19を背負ったんですが、チームに貢献することができず、以降は改めてお願いをして、19に戻しました。今回は19を選手が着けますから、そうした背景もあり、逆にして、91にさせていただきました」。社会人を主体に組まれた1992年のバルセロナ(銅)、96年のアトランタ(銀)に続き、プロアマ合同チームを編成した2000年のシドニー(4位)と五輪3大会連続出場。シドニー大会では日本選手団の主将を務めた。

 杉浦氏は日本生命のエースとして92、97年の都市対抗で橋戸賞を受賞するなど32歳まで現役を続け、00年限りで引退した。01年から04年は日本生命コーチ、06年から09年は同社の監督を務めた。15年から18年は侍ジャパン社会人代表コーチ、そして、24年からは同アドバイザーを務め、社会人野球のレジェンドが、満を持しての監督就任となった。

 92年のバルセロナ五輪でコーチを務めた荒井信久氏(千葉黎明高総監督、駿台倶楽部会長)がエールを送る。ちょうど練習初日の同日、荒井氏は東京六大学野球リーグ戦(神宮)でレジェンド始球式を務め上げ、その後に話を聞いた。

「彼は堂々たる実績も残しているし、いつかやるんだろうなとは思っていました。国際大会の厳しさ、大変さは彼が誰よりも分かっているでしょうから。そういう面では、頑張ってほしいですし、かつて一緒に戦った仲間としても、心から応援しています」

 杉浦監督は、当事者にしか分からない重圧を語る。

「就任してからこの1カ月はすごくプレッシャーじゃないですけど、いろいろなことを考えました。でも、やるのは選手。選手たちの実力をどれだけ発揮させることができるか。100パーセントではなく、コンスタントに8割出してくれれば良いゲーム、勝てるゲームができるんじゃないかなと思います。選手たちにも、その出し方というか、今知っている選手もいれば、知らない選手もいるので、ここでチャレンジしながら覚えていってほしいなと思います。良いスタッフもたくさんいるので、そういうアドバイスを指示ではなく、選択肢を与えながら自分で選択する。自分の心をまず、動かせるチームにしたいと思います」

イグアナが歩いていた32年前


練習前には全体ミーティング。杉浦監督は「明るさ」を前面に出していこうと強調した[写真=BBM]


 指揮官としてのポリシーがある。国際試合を知り尽くすからこそ、説得力がある。

「昔の野球とは、大きく変わってきています。今の野球になってくると、選手の実力をどれだけ発揮させられるか……。僕らの経験値が選手の足かせ、難しい野球にならないようにしたいな、と。良い意味でいいアドバイスになればいいかなとは思います。僕らの時代は金属バットだったので、試合の進め方も異なります。今の選手たちは技術、ポテンシャルが高いので、それをどう出せるか、方法を模索しながら、チャレンジしてもらいたいと感じています」

 社会人日本代表を世の中にどうアピールしていきたいか。杉浦監督は熱く語った。

「社会人野球の魅力を伝え、価値を高めたい思いはあります。その魅力が何かと言えば一発勝負、この1球にかける思い、この1試合にかける思いを全員で表現する。誰一人として、ベンチでも休むことなく3時間みんなでゲームをするのが、一発勝負の野球かなと思います。仮に負けていても、最後の最後に逆転するんだという思いがあるほうが強い。そういうプレーを実践できれば、おそらく、人の心は動いてくれるんじゃないか、魅力を伝えられるんじゃないかな、と。最終的には僕らは代表なので、やっぱり勝つことが価値かなと思うので、強いチームであることですよね。最終的にはそこに行き着きたいなと思います」

 国際大会は何が起こるか分からない。杉浦監督がニカラグアで戦うのは、1994年のIBAFワールドカップ以来。32年前のエピソードを明かす。

「前回の選考合宿(7月)でニカラグアの国際大会について語っているんですが、結構ハードだと思います。ホテルの部屋を出たらイグアナが歩いていたり、想定外のことが結構あるんです。僕らは32年前なので、だいぶ改善はされているとは思うんですが、そういう部分は経験値として語ってあげることによって、ある一定程度、ひどい時のことを想定内にしておけば、行ったときに驚かないし、落ち着いて勝負に集中できるかなとは思います」

 戦う以前に、気を付けなければいけない点が多々ある。

「日本とは異なる気候の部分で、湿気により精神的にちょっとハードすぎるかな、と。気を使うところが多いと思うんで、そこで疲労が溜まるかと思います。そういうときにこそ、仲間への声掛け、会話、励まし、支え合い、そういう姿勢がすごく大事かなと思います。さらに踏み込めば、遠方ですので、飛行機に乗る時間が長い。昼夜逆転する時差、あとは水に気をつけなきゃいけない。食事にも気をつけなきゃいけない。犯罪が多いというところも、気をつけなきゃいけない。野球で言えば7イニング制、内野が芝。国際規格のボールの質にも慣れないといけない。日本では普通にやれていたものがおそらく、普通じゃないので……」

 代表メンバー24人を招集。この合宿がスタートした同日、10月31日、大阪では社会人日本選手権が開幕した。侍ジャパンと重複する選手もいる。メンバー打診は同選手権予選前であり、その段階でどちらを選ぶかを選択してもらったという。最終決断の方法は、所属チームにより異なる。

「苦渋の判断をチームにお願いしたというのが、我々としては申し訳なかったんですけども、その中でも、快く出していただいたチームは、本当にありがたいなと思いますね。だからこそ、何かをつかんで、最後は皆で喜んで帰ってきたいと思います」

社会人野球の良さとは?


フリー打撃では打撃投手を買って出た。グランドでは白球を通じてのコミュニケーションを重ねる[写真=BBM]


 大会3連覇がかかる今大会は12カ国・チームが出場し、日本はグループB(韓国、ベネズエラ、キューバ、イギリス、南アフリカ)に入っている。オープニングラウンドは5試合を戦い、上位3チームがスーパーラウンドに進出する。グループA(台湾、プエルトリコ、パナマ、オーストラリア、ニカラグア、チェコ)の上位3チームと戦い、同ラウンドの上位2チームが決勝、3、4位チームが3位決定戦へと回る。10日間で最大9試合の超過密日程も、国際大会の常である。杉浦監督は日の丸を背負う重み、国際大会を勝ち上がる厳しさを、痛いほど経験してきた。

「選手の一番の今、持っているものを、最大限までいかないですけど、8割以上は出してもらえるような形で、我々としては流れをどう作るか。打順にしてもピッチャー陣の順番にしても、そういう流れをしっかり作れるかどうかが我々の責任だと思うので。あとは選手個々がそれぞれの勝負する場面で、しっかりした考えを持って挑んでほしいと思っています。基本、結果は良いか悪いかは分かんないので、そこよりもしっかり勝負するアプローチをしてほしいなと感じています」

 杉浦ジャパンの野球とは何か。

「基本的に日本の野球は守りというか、ピッチャーは良いと言われているので、ポイントは打線ですね。しっかり振ってほしいと思うし、その中で打って得点を取ってほしいという形は自分の中であります。どうしても先日のプロ野球の日本シリーズを見ていても、バントを使いながらで行くと結局、1対0、2対1とか、ピッチャーに負担ばかりかかる。最終的にはそういう野球になるかもしれないですけども、まずは、やっぱり打っていく、打ち勝つことを目指します。バッテリーを中心とした守りはしっかりしており、これは日本の独特なメリットだと思うので、打って、打球速度を上げていく意識を持ってほしいと感じています」

 投手陣の構想は「この2日間は僕のほうである程度、順番を決めさせていただいたので、その中で良い状態の者、大会の中盤以降で状態が良くなるような者もいると思うので、そこは見極めながら使っていきたい、と。基本的にはつないでいく継投を考えています」と語る。

 一方、打線はキーマンとして丸木悠汰(NTT東日本)を主軸に指名する。

「足の使える選手が多いので、どんどん仕掛けていく。早めに仕掛けないと7イニングで終わってしまう。初回から仕掛ける中で、成功する場合もあるし、失敗するケースもある。でも、仕掛けて失敗はOKというような形でどんどん仕掛けて、最終的には勝てるチームをつくろうと思います。前半戦はピッチャーにゼロで抑えてもらって、何とか打線が点を取るまで粘ってもらおうと考えています。取られたら終わってしまうというゲーム展開が今までの国際大会では多かったと思うので、しっかり打てるチームも、つくっていきたいと思います」

 初日の練習では自ら打撃投手を買って出た。約30分以上、Lケージの前で投げ続けた。

「首脳陣が腕組んで見ているだけじゃなく、ちゃんとみんなの中に入っていって、一緒に戦う姿勢を持つというのは、すごく大事なことじゃないかなと思います。玉野武知コーチがだいぶ早めに終わったので、その前の菊池壮光コーチもちょっと、だいぶ早く……(苦笑)。それで、私に回ってきたんです。皆で一緒にやって、人数も限られており、手伝いながらやらなきゃ回らない。これがやっぱり、社会人野球の良さでもあるかなと思うんですよね」

 「ミスター社会人野球」のタクトに、注目が集まる。

取材・文=岡本朋祐
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