背番号「11」への思い

初代部長・安部磯雄[右手前]と初代監督・飛田穂洲[左奥]の胸像の前で撮影。3年生・高橋にはエースの自覚がみなぎる[写真=BBM]
第9週・早慶戦を翌日に控えた11月6日、早大は活動拠点の安部球場で約2時間30分の練習を行った。すでに前カードの第6週・立大戦で連敗した時点でリーグ優勝の可能性が消滅。東京六大学のV争いは、明大と慶大に絞られている。明大は9勝4敗、勝ち点4で全日程を終え、7勝3敗、勝ち点3である慶大の結果待ちという状況。慶大が早大戦連勝で慶大優勝、2勝1敗で明大との優勝決定戦、慶大が連敗、もしくは1勝2敗で勝ち点を落とすと明大優勝という星勘定だ。早大の戦いが天皇杯争いの上で、ポイントを握っているのだ。
早大は5勝5敗、勝ち点2。慶大に連勝すれば勝ち点3で法大、慶大と並ぶ同率2位となる。2勝1敗、1勝2敗だと4位、連敗を喫すると春に続いて5位となる。
2019年1月1日、第20代監督に就任した
小宮山悟監督は11月30日限りで、任期満了により退任する。春に続いて、慶大の胴上げを目の当たりにするわけにはいかない。有終の美を飾るべく、1回戦の先発が有力視されるのは3年生エース・
高橋煌稀(仙台育英高)だ。小宮山監督は「もう、頑張るでしょう。頑張らなきゃ、嘘でしょう」と期待を込める。
昨秋までのエース・
伊藤樹(
楽天)が卒業した2026年、早大のエース番号「11」は1年間、空位だった。伊藤樹は仙台育英高の後輩でもある2学年下の高橋を「後継者」に指名。小宮山監督は伊藤樹に3年春から背番号「11」を託したが、高橋についてはこの春、秋を通じて見送った背景がある。かねてから投手としての潜在能力は認めており、奮起を促す意味が込められていた。
今秋の法大との開幕カードは1回戦で先発、3回戦では救援でいずれも黒星を喫したが、明大とのカードでは初めて先発として1、3回戦で勝利投手となった。3回戦は仙台育英高でチームメートだった右腕・
湯田統真との直接対決で、完投勝利を挙げている。早稲田のエースとしての階段を一歩上がったものの、神宮のマウンドは高橋に新たな試練を与えた。こちらも高校同級生対決となった立大・田中優飛と投げ合った立大1回戦は、9回表まで双方無得点。先発・田中は8回表で降板した一方で、続投した高橋は9回裏に痛恨のサヨナラソロ本塁打を浴びた。試合後は涙。それから2週の空き週を経て、早慶戦前日に話を聞いた。
最優秀防御率の可能性

早慶戦前日練習。高橋[右]のシートノックを見守る表情は真剣である[写真=BBM]
――いよいよ早慶戦です。
高橋 今春は自分的にもチーム的にも悔しい結果だった(チームは1勝2敗、高橋は1回戦で敗戦投手)ので、同じようなことにならないように、この2週間を過ごしてきたので、良い準備はできています。
――取り組んできたテーマは何ですか。
高橋 思っている以上に疲れが少しあったので、1週間はまず疲労感を取りながら、この1週間でベストコンディションを持ってこられるように、トレーニングの強度も落としすぎないように保ちながら調整してきました。
――早慶戦で連勝すれば、2位タイとなります。
高橋 練習後のミーティングで監督も言っていたんですけど、2位と5位では全然違うので、何としてでも慶應には負けられないという気持ちがあるので、何とか2連勝して、2位という結果でお世話になった4年生を送り出せるように頑張りたいなと思います。
――ご自身にとっても、大事なマウンドですね。
高橋 来年への布石を打つ、ではないですが、相手にプレッシャー、嫌な印象を与えるための試合にしたいと思います。
――3年秋の最終カードで信頼を得て、来春は背番号「11」を着けたい希望はありますか。
高橋 着けたいという思いはあるんですけど、それはチームの方針、監督が決めることなので、どんな番号でもやることは変わらないとは思うので、自分はどんな背番号でも、チームが勝てるようなピッチングをしたいなと思います。
――早慶戦では先発完投を目指しますか。
高橋 完投を目指したいんですけど、まずは目の前の打者、アウト一つ、そのイニングを全力で抑えることを考えたいと思います。
――現在、防御率は慶大・
広池浩成投手の2.08に次いでリーグ2位の2.53です。
高橋 そうですね……(最優秀防御率の)可能性はあるかなとは思いますが、相手のあることですので……。早稲田が打ってくれると信じて、自分はしっかりとゼロを刻み、その結果がタイトルという結末になれば、最高な終わり方だと思います。
小宮山監督からの学び

主将・香西[右]は最上級生の投手としてもチームをけん引。高橋は良い形で4年生を送り出したいという思いが強い[写真=BBM]
――3年間、小宮山監督から教わったことは何ですか。
高橋 高校時代は抑えられた場面でも、大学ではレベルが上がった中で、難しい部分がありました。そこで学んだのは「死ぬ気で投げれば、そうそう打たれない」ということです。魂を込めた真ん中ストレートは、そう簡単に打ち返されない、と。打者は打率3割で一流と言われる世界。気持ちで投げれば抑えられる。一球入魂。この3年間で最も学んだことです。
――この秋は「仙台育英高対決」でも注目を集めました。来年も続きます。
高橋 早稲田に入学したときから投げ合いたいと思ってきた中で、楽しかったですし、うれしかった一方で、湯田、田中とも技術が向上していたので、改めて負けられないと思いました。実際、田中には投げ負けたので、そういう悔しさを糧に、来年も投げ合うことになると思うので、絶対、勝てるように努力していきたいと思っています。
――東都大学一部リーグの立正大には左腕・
仁田陽翔投手もいますね。
高橋 今年6月の侍ジャパン大学代表候補合宿で一緒になったんですが、相変わらず、いかついボールを投げていたので、すごいなと思います。刺激になりました。
――同合宿を経て、侍ジャパン大学代表に入ることはできませんでした。
高橋 自分は真っすぐが一番、自信があって、通用した部分ではあったんですけど、空振りを取れる変化球が課題としてありました。打者のレベルが上がった際に、それが明確になったんです。周りの4年生は、ドラフトで指名された投手ばかりで、勉強になりました。
――「空振りを取れる変化球」とは、何を磨いていきたいですか。
高橋 落ち球であるフォークが生命線になってくると思っているので、来春までに習得できればいいな、と。好投手の条件として、変化球の球速帯が速かったり、曲がり幅も大きかったので、カットボールの横曲がりの変化も、もう少し質を上げていきたいと思います。
KEIOへの特別な感情
――小学校時代からバッテリーを組んできた
尾形樹人捕手とも、最終学年を迎えます。
高橋 3年生になって、試合の中でコンビを組むようになり、とても成長していると感じるので、ラスト1年、小・中・高・大と一緒にやってきて、集大成ではないですけど、お互い信頼しているところはあると思うので、そういった面を発揮できるようにラスト1年、2人で頑張りたいと思います。
――高校3年夏の甲子園決勝では慶應義塾高に敗退。グレーのKEIOのユニフォームに対する特別な感情はあるのでしょうか。
高橋 他の部員よりも、やはり慶應に負けたくない気持ちは強いのかなと思っています。
――当時慶應義塾高の2年生エースだった
小宅雅己投手(1年)はこの秋に神宮デビュー。5試合で6回無失点(1安打、9奪三振)と圧巻の投球を続けています。
高橋 かつての記憶がよみがえるではないですけど、思い出すことはありますね。
――ライバルは誰ですか。
高橋 東京六大学のピッチャー全員です。ストレートの強さ、変化球の精度、それぞれ武器があって、自分にないところを持っていたりするので、いい刺激になります。具体的な名前を挙げるとすれば、湯田と田中は他のピッチャーよりも意識するところは多少あります。
――好きな言葉はありますか。
高橋 「他喜力」です。中学校の担任の先生から教わって以来、中学、高校、大学とずっとグラブの刺繍に入れています。その言葉を聞いてから、人に喜ばれるような行動をしようというマインドセットに変わりました。自分が良いピッチングをすれば、OBの方だったり、皆と喜びを分かち合えると思うので、自分の成長にもつながっていると思います。
――この秋の早慶戦はまさしく「他喜力」のマウンドにしたいですね。
高橋 早稲田の勝利のために投げる。何としてでも慶應に勝って、応援してくださる方に喜んでもらえるような試合をしたいと思います。
2026年ドラフト会議が終わり、すでにスカウト戦線の話題は次年度へと移っている。あるNPBスカウトによれば、早大の153キロ右腕・高橋は「目玉の一人」にリストアップされるという。高校3年時からドラフト指名候補に挙がっていたが、4年後の1位を目指すために大学進学した背景もある。今秋の早慶戦をステップにして、2027年シーズンへとつなげる。高橋が圧倒的な存在感を示すステージは整っている。
取材・文=岡本朋祐