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【東京六大学野球】早大・小宮山悟が「初戦を取って三塁側を慌てさせたい」と語った理由

 

思惑どおりの戦いとは


早慶戦の前日練習。早大・小宮山監督はシートノックを行った[写真=BBM]


 早慶戦を翌日に控えた11月6日、早大・小宮山悟監督が活動拠点の安部球場で取材に応じた。東京六大学の優勝争いは、明大と慶大に絞られている。すでに明大は9勝4敗、勝ち点4で全日程を終え、7勝3敗、勝ち点3である慶大の結果待ちという状況だ。慶大が早大戦連勝で慶大優勝、2勝1敗で明大との優勝決定戦、慶大が連敗、もしくは1勝2敗で勝ち点を落とすと明大優勝という星勘定だ。つまり、早大が天皇杯争いのカギを握っている。

 早大は4カードを終えて5勝5敗、勝ち点2の4位。今春も勝ち点1の5位と、2026年は厳しい戦いが続いている。小宮山監督は言う。

「ことごとく思いどおりにいかなかったシーズンなので、最後ぐらいは思惑どおりに進めたいなとは思っています」

「思惑どおりとは?」

「連勝ですよ。連勝したら2位ですから。3校タイ(早大、慶大、法大)ですけどね。連敗すれば5位、それ以外は4位が確定しているので、初戦(1回戦)を取って三塁側(慶大)をちょっと慌てさせたいですよね」

最後まで学生の自主性を尊重


リーグ戦前日の金曜日にはユニフォーム授与式が行われる。一塁ベンチ前に用意され、ホームベース付近で儀式が行われた[写真=BBM]


 早慶戦は「別物」。優勝の可能性がなくても、モチベーションが下がることはない。早慶戦は1925年秋の東京六大学野球連盟結成前、03年11月21日に慶大の三田綱町グラウンドで始まった。通算成績は早大の248勝204敗11分。早大にとって対戦5校との「対抗戦」を意識する中でも、特にライバル・慶大からの勝ち点奪取(2勝先勝)は相当だ。

「早慶戦というのは、リーグ戦の中で別のくくり。慶應に勝った、負けたの話で、順位がどうこうとは、別の話になる」

 小宮山監督は、この1年間を振り返る。

「本人たちも大いに反省していると思いますけど、自分たちも過去の3連覇のときの先輩と同じように取り組んだと考えていると思うんです。ところが、全然、足りてなかったという話なので、それを傍から見ていても危ういなというのは常に感じていました。だからと言って、強権発動はしないように、自分たちで気づいてくれ、という思いでした。春に惨敗したから気づいてくれるだろうと思いましたけど、甘かったです。『大人が手を入れる』と言って始めようとしていた夏でしたが、キャンプでは毎日一人ずつケガ、故障でいなくなっていく状況で、思うようにならなかったので、その点が誤算と言えば誤算です」

 第6週に組まれた立大2回戦で連敗を喫し、Vの可能性が消滅。学生の自主性を尊重してきた小宮山監督からすれば、試合後のロッカールームの雰囲気が許せなかったという。

「泣いている学生がいたんです。安部寮に戻ってからのスタッフミーティングで雷は落としました。泣くぐらいだったら、死ぬ気で練習しとけよ、という話です。早慶戦ではちゃんとした試合ができるように『お前ら自分たちで考えろ』と、彼らに委ねました。コーチ陣は『これじゃダメだ!』と、いろいろと指摘はしていましたけど、まあこんなもんでしょう。グラウンドにピリピリとした感じがない。それが、残念です」

特別なユニフォーム授与式


第116代主将・香西は学生最後の早慶戦への特別な思いを語った[写真=BBM]


 2019年1月1日、第20代監督に就任した小宮山監督は11月30日限りで、任期満了により退任する。8年16シーズンを指揮し、3連覇を含むリーグ優勝4度へ導いた。小宮山監督にとって、この日はリーグ戦に向けた「最後の練習」だったが、通常メニューを消化した。Aチームは午前9時に開始され、フリー打撃の後は小宮山監督がノックバットを持ってのシートノック。Bチームのほかメンバー外はネット裏で見学し、Aチームの投手陣は一塁ファウルグラウンドで、白球を追う野手陣に声をかけた。ノック後はユニフォーム授与式。慶大とのカードでベンチ入りの可能性のある40人弱を大野郁徳主務(4年・早実)がコールし、小宮山監督が背番号の縫い付けられたWASEDAのユニフォームを手渡す儀式が行われた。

「就任当初は一塁ベンチ前で行っていたんですが、斎藤慎太郎コーチの発案で『ホームベース前でやろう』ということになり、ある時期からそこへ移動しました。我々のときは、なかったですからね。なぜ、しなくちゃいけないのかも分からない(苦笑)。マネジャーが安部寮の講堂にユニフォームをスタンバイして、それを持っていく、そういう時代でした。特別な思いですか? 特に……本当に特にないんです」

 指揮官は淡々と語ったが、学生にとっては特別な空間である。キャプテンナンバー背番号10のユニフォームを手にした第116代主将の左腕・香西一希(4年)は胸の内を明かす。

「背番号をもらえない選手もたくさんいるということが改めて分かる場でもあるので、責任を感じますし、しっかりやらないといけないなという思いになる時間です」

死力を尽くした戦いを期待


早大・小宮山監督は練習後、初代部長・安部磯雄、初代監督・飛田穂洲の胸像前で深々と一礼して安部球場を引き揚げた[写真=BBM]


 学生に託されたこの3週間、どういった思いで過ごしてきたのか。香西は小宮山監督と同様、早慶戦での「連勝」を固く誓う。

「立教戦に負けてから『悔いの残らないように』と言ってきたので、今日1日も、とにかくそこだけを考えて練習に向き合いました。明日からの結果で、その取り組みが正しかったのかの答えが出る。とにかく、早慶戦で勝つという、その思いだけで準備してきました」

 香西にとって最後の早慶戦は4年間、指導を受けた小宮山監督への恩返しの場でもある。

「8年間、務められてきたので、最後、不甲斐ない試合で送り出してしまったら良くないと思うので、最後は監督に『よくやった』と言ってもらえる戦いができたらなと思います。慶應に連勝です。日曜日にはたくさん人も入っていただけると思うので、そこで勝って終われるようにというのが、一番の理想です」

 小宮山監督は投打のキーマンを「4年生」と即答した。後輩に置き土産を残す責務がある。主将・香西は言う。

「このカードが終わってしまったら、早稲田の学生として、ユニフォームを着て神宮でプレーすることが叶わないというのを考えたら、本当に幸せを噛み締めないといけない2試合だなと思います。先輩方が築いてくれてきたからこそ、今があるという責任も感じていますし、早慶戦123年の歴史の重みを考えながら、この2試合を戦いたいと思います」

 早大としては、春の早慶戦に続き、慶大の胴上げを目の前で見るわけにはいかない。母校の威信をかけた伝統の一戦。神宮球場が竣功したのは、1926年10月22日。100年の歴史を刻んだ学生野球の聖地で、小宮山監督が待ち望む、死力を尽くした戦いを展開する。

取材・文=岡本朋祐
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