
8月18日の阪神戦[東京ドーム]で、完封で8連勝を決めた菅野[巨人]。まさに難攻不落になってきました/写真=高塩隆
投球への理解度が高い菅野
ヤクルトの小川(
小川泰弘)がノーヒットノーランを達成しました(8月15日、
DeNA戦=横浜)。あの日はコントロールが抜群でしたね。もともと力のあるピッチャーでしたが、二段モーション的な感じで投げるのが特徴。それが解禁になったりで、今までは自分の中でもフォームにズレが出ていた部分もあるんじゃないかと思うんです。この間は、そんな感じもなく、自分のイメージどおりのボールが行っていたのではないでしょうか。今回の好投が、復活へのきっかけになるでしょう。
ピッチャーで言えば、今年は、セ・リーグで巨人の菅野(
菅野智之)、パ・リーグで
楽天の涌井(
涌井秀章)が開幕から連勝しています(8月20日現在)。
菅野は、一度、打たれて負けがつかなかったことがありますが、ホントにそれ以外は抜群ですよね。8月18日の阪神戦(東京ドーム)をテレビでじっくり見ましたが、球威もコントロールもあり、ホームベースを非常に広く使い、高低もうまく使っていました。特に感じたのが、バッティングカウントになったときも、苦し紛れの投球になっていないところです。自分が持っている中から、危険度が一番少ない変化球をチョイスし、それをコントロールできる技術がある。そこが強みだと思います。
菅野は、今年からフォームの始動のときの腕の置き方を大きく変えました。実績がある選手であればなおさら、大きく変えるのは勇気がいることです。打撃でも、始動をちょっと変えただけで、スイング軌道が変わってしまうことがありますから、ピッチャーでも、腕の軌道が全然変わるということもあると思いますよ。そのあたり、アドバイスをしてくれる人とよほどうまくコミュニケーションを取りながら取り組んだのではないでしょうか。
われわれのころは動作解析の技術が進んでいませんでしたが、ここ十何年ほどは、それが進んで、選手も動画や画像を見て納得しやすい形ができてきました。そうなると、選手も、「ヨシ、(フォーム改造を)やってやろう」と前向きな気持ちになりやすい。そういうところがうまくハマったのだと思います。
始動が違っても、右足に体重を乗せたときは、去年までの形にちゃんと収まっているように思います。それでいて、去年より力みがないですから、右足に長く乗せられるようになって、間合いができて、ボールの持ちがよくなっているのでしょう。それでトップからの右手の位置も決まって、コントロールミスが生まれないフォームになっているんじゃないですかね。
18日も、立ち上がりはよくなかったんですが、2回まで1安打ずつで逃れると、試合の中で修正して、それがピシャッとハマったときには、もう相手は手も足も出ない感じでした。試合中に修正なんて、分かってたって普通のピッチャーはできませんから。それをいとも簡単にやってのけるというのも、自分の投げ方をよく理解できているという証明ですよね。
今季は三振をボンボン取るのではなく打たせて取っています。江川(
江川卓、元巨人)も、松坂(
松坂大輔、
西武)もそうですが、いいピッチャーは、相手打者によっては「抜く」ようなところがありますよね。菅野にもそれを感じます。「このバッター、“イチ、ニのサン”で来てるから、ちょっとずらせば芯を外せるな」みたいな感じで、打ち気を誘いながらちょっと外して投げる。打者を見る余裕とコントロールを併せ持っていますから、打者から見たらまさに難攻不落です。
18日のゲームも中5日でしたが、巨人はピッチャーに不安もありますから、菅野にはできるだけ多く先発して、しかも長いイニングを投げてもらいたい。それを菅野も自覚しているから、球数を減らしながら抑えるピッチングをしているのではないでしょうか。普通はなかなか計算どおりにはいかないものですが、それが計算どおりにいっていますもんね。
新球の効果倍増の涌井
涌井のほうですが、こちらもすごいです。菅野もチームの貯金13の中の8つですが、涌井はチームの貯金が6で、8個稼いでいますから。
今季からシンカーを覚えて、武器にしているとのことですが、これが大きいのでしょうね。もともと、ストレートも速く、いろんな変化球も投げられる器用なピッチャーです。それでも今まではスライダーに加えてフォークなどが中心でしたから、シンカーという逆方向に動くボールが加わったことで、特に左打者には有効になっているのではないでしょうか。打者にとっては、同じ軌道から入るボールと逃げるボールがあるのが一番厄介ですから。スライダーと組み合わせれば1つ球種が増えた効果が2倍にも3倍にもなる。フォークよりもシンカーのほうがコントロールもつけやすく、危険度も少ないでしょう。球種が1種類増えたことで、今までのものも含めて幅が広がり、それが8連勝につながっているのではないでしょうか。楽天は今年は打線もいいですから、点を取ってくれるという安心感もあるでしょうし、いい形になっていますね。
菅野にせよ、涌井にせよ、ある程度ベテランになっても、向上心を持って取り組んだことが成績に生きています。もちろん向上心はどの選手も持っているんですが、しばらく取り組んでモノにならないと、途中で放棄してしまいがちなんですよね。菅野、涌井両投手には、もともとの実力に、器用さもあって、向上心と技術がマッチしたのでしょう。こうなったら、ちょっとシーズンは短いですが、田中マー君(
田中将大、現
ヤンキース)が楽天時代(13年)に作った24勝無敗にチャレンジするぐらいの気持ちでやってもらいたいですね。どこまで行けるか、楽しみを持続させてほしいものです。
PROFILE 大島康徳/おおしま・やすのり●1950年10月16日生まれ。大分県出身。右投右打。中津工高からドラフト3位で69年
中日入団。3年目の71年に一軍初出場の試合で本塁打を放つ。76年にはシーズン代打本塁打7本の日本記録。翌77年に打率.333、27本塁打の活躍で不動のレギュラーとなり、79年にはリーグ最多の159安打、36本塁打、リーグ3位の打率.317の大活躍。83年には36本塁打で本塁打王にも。88年に
日本ハムへ移籍、90年には史上最多の2290試合を要して2000安打に到達した。94年限りで現役引退。2000年から02年まで日本ハム監督も務めた。現役通算成績2638試合、2204安打、382本塁打、1234打点、88盗塁、打率.272。