
巨人・秋広ら、各球団の若手選手には、結果が出なかったときに不安に打ち勝っていけるかどうか、まさに今が勝負どころです
「野球どころじゃなかったぞ」
今週は特集が「東日本大震災から10年」ということですけれども、僕もあの日のことは鮮明に記憶に残っています。
そのときは近所に買い物に出ていて、レジで支払いを済ませたところだったんですが、大きな揺れに慌ててお店の外に飛び出したのを覚えています。祭(ペットのトイプードル)を家に残したまま出ていたので、心配で、すぐにナオミさん(妻)と一緒に家に戻りました。その間も余震なのか、ビルが揺れていたり、怖かったですね。東京にいてもそんなでしたので、東北はどれほどだったか。想像しかできないというか、逆に想像もできないですね。あのときの、2時46分が記録されたレシートは、今でも持っています。
楽天はそのとき、ちょうどオープン戦で遠征に出ていたんですよね。星野(
星野仙一)さんが当時の監督で、最初は野球をやるべきか、すぐに東北に帰るべきかで選手と意見の食い違いもあったと伝えられていますが、ペナントレースが始まってから、星野さんと話したら、「あのときは大変だったぞ。選手も家族や知り合いと全然連絡がつかなくてな。もう、野球どころじゃなかったぞ」とおっしゃっていました。僕は星野さんの性格はよく分かっていましたから、「この状況を乗り切れるのは、仙さんしかいないんじゃないですか。つらいし、大変でしょうけど、頑張ってくださいよ」と言ったのを覚えています。「がんばろう神戸」のときもそうですけれども、少し状況が落ち着いたら、スポーツの力が必要になってくる場面はありますから。そこから「絶対何とかしてやろう」という気概で臨んで、その2年後には優勝と、楽天は一番いい結果を出したのではないでしょうか。そういう気持ちがなければ、あそこまで行けたかどうか、ということもあると思いますよ。
それから10年ということで、楽天の選手たちは、今年、またそれをモチベーションにやっていくことになるでしょう。いい補強もして、皆の期待感も膨らんでいます。
社会的危機という意味では、ちょうど今も、10年前と似た部分があるかもしれませんね。とにかく、どの球団も関係者に新型コロナウイルスの新規感染者を出さず、各球団がキャンプを終えられたというのは一番いいことです。これからも気をつけてやらなければいけませんけれども、野球界皆で乗り切って、このままお客さんを入れての開幕を迎えてもらいたいなと思います。
オープン戦は不安との戦い
その開幕へ向け、オープン戦が始まりましたが、今年は外国人選手がなかなか合流できないので、ルーキーを含め、日本人の若手選手が期待をかけられ、注目されています。
佐々木朗希(
ロッテ)も実戦での登板日が煮詰まってきたようですし、根尾(
根尾昂、
中日)やロッテの山口(
山口航輝)も頑張っていますよね。巨人の秋広(
秋広優人)はちょっと結果が出なくなってきた感じもありますが、こういった立場の選手にとっては、まさにここが勝負どころです。
どの選手も、キャンプにはそれぞれのテーマを持って臨み、それが実を結んで、首脳陣の目を引いたはずです。ところが、オープン戦で結果が出ないと、目の前の1本のヒットが欲しくなって、積み上げてきたものをつい忘れてしまいがちなんです。ピッチャーだったら、だんだん、打たれたり、悪い結果が出ることを怖がるようになってくる。これが悪いスパイラルを引き起こします。
僕の経験でも、多少実績を積んだ立場になってからも、やっぱり実戦で自分の形が出てこないと不安になったものです。「ひょっとしたら、開幕スタメンはないんじゃないか」などと思ったりもしますし。ここからは、そういう不安との戦いになってくるんですよね。
こういうときに大事なのは、やはり自分が磨いてきたものに立ち返り、「あれだけやったんだから大丈夫」と、自分がやってきたことに自信を持つことです。攻守走、すべてを完ぺきにやろうなんて思わずに、自分がキャンプでやってきた部分、自分の得意な部分が出せればそれでよし、と考えて、ゲームに臨むことです。そのほうが、精神的に楽ですからね。
そしてもちろん、不安に打ち勝つためには、バッターならやはりこの期間も、いいイメージを描きながら、朝、昼、夜とバットを振り続ける。そうしながら、何とか毎日のゲームで食らいついていくことです。
ここからは、実績のある選手もどんどん対戦相手として出てきます。そういう選手は気の持ち方がだいぶ違って、心に余裕がありますから、比べると不利ですが、それでも食らいついていく。ここで負けると、首脳陣に「やっぱり一線級が出てくるとダメだな」と思われてしまいますからね。そうして歯を食いしばっていけば、結果は自然についてきますよ、ということを、若い選手には伝えてあげたいですね。レギュラーになる選手は、みんなそこを越えてきています。ここを乗り越えないと、次のステップはないのでね。誰がしがみついて、生き残って、外国人選手が来る前にチャンスをつかむか、楽しみにしたいですね。
◎
先日、長嶋(茂雄、巨人終身名誉監督)さんが巨人の練習に姿を見せられた、というニュースがありました。今どきの若い人には「ナガシマさんって誰?」という人もいるかも分かりませんが(笑)、われらの世代の野球人は、やっぱり長嶋さんの姿を見ると元気が出ますよね。「長嶋さん、お元気でよかったな。ヨシ、自分も頑張っていこうか」と思いました。これからもお元気で、野球界を明るく照らしていただけたらと思います。
PROFILE 大島康徳/おおしま・やすのり●1950年10月16日生まれ。大分県出身。右投右打。中津工高からドラフト3位で69年中日入団。3年目の71年に一軍初出場の試合で本塁打を放つ。76年にはシーズン代打本塁打7本の日本記録。翌77年に打率.333、27本塁打の活躍で不動のレギュラーとなり、79年にはリーグ最多の159安打、36本塁打、リーグ3位の打率.317の大活躍。83年には36本塁打で本塁打王にも。88年に
日本ハムへ移籍、90年には史上最多の2290試合を要して2000安打に到達した。94年限りで現役引退。2000年から02年まで日本ハム監督も務めた。現役通算成績2638試合、2204安打、382本塁打、1234打点、88盗塁、打率.272。