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立浪和義コラム

初対決の衝撃が記憶に残る杉内俊哉選手/立浪和義コラム

 

最初の印象は速い!


巨人に12年に移籍し、14年まで3年連続桁勝利




 9月12日、巨人の左腕・杉内俊哉選手が引退を発表しました。

 2015年オフに右股関節を手術し、そのリハビリの過程で左肩を痛めてしまったようです。

 翌16年から丸3年、一軍登板がありませんでしたので、若い読者は、いいときの杉内選手の印象があまりないかもしれませんが、通算142勝77敗、防御率2.95という成績からも分かるように、非常に安定して力を発揮し、2ケタ敗戦が一度もない“勝てる”ピッチャーでした。

 以前も書いたことがありますが、私が彼と初めて対戦したのは、2006年の交流戦でした。杉内選手は、前年、ソフトバンクで18勝4敗、防御率2.11で最多勝、最優秀防御率を獲得し、すでにパ・リーグを代表する左腕となっていました。

 私は映像では見ていましたが、打席は、初めて。どんな投手なのか、と楽しみにしていました。
 最初の感想は「速い!」でした。

 体は決して大きくないのですが、150キロは出ていそうな速球に差し込まれてしまいました。

 ただ、何球目か忘れましたが、ふと球速表示を見たら「137キロ」。「なんだ、これは!」と驚いた記憶があります。

 要はフォームの魔法です。バッターのタイミングの取り方はそれぞれ違いますが、たいていはフォームの上半身、特に腕の動きに合わせていると思います。

 私も最初は、彼の上半身の動きを見ながら、普通のサウスポーに対峙するときと同じようなタイミングの取り方をしていたのですが、なかなかボールが来ない。我慢しきれず足を着いてしまい、「来た」と思ったときには、もう手元に来ているという感覚でした。

 落ち着いて観察してみると、これは杉内選手の踏み出す足の着地の遅さから来ていました。

 普通の投手が着くと思ったところから、さらに最後、ひと粘りをしてきます。

 しかも、非常に理想的なフォームで、体がまったく開かずにゆったりと来て、最後の最後に鋭く腕を振る。どうしても体が前に出てしまい、ボールと距離が取れずに差し込まれてしまうのです。

 私は当時、サウスポーの速球派は得意にしていましたが、あのときの杉内選手には確か2打数無安打で終わったと思います。

曲がりの遅いスライダー



 変化球は、左打者に対しては外に逃げるスライダーですね。ストレートと同じ腕の振りで来て、しかも曲がりがすごく遅い。

 最後の最後で曲がるので、どうしてもストレートの感覚で振って引っかけたり、空振りしたりしてしまいがちです。

 対して右打者には内角にスライダー、カットボールを投げて詰まらせたり、そこを意識させながら外にチェンジアップという配球ででした。

 私は、翌年の対戦の際は、足を着く位置を見ながらタイミングを取ることで、3打数2安打と攻略しましたが、本来、理想とするタイミングの取り方ではありませんので、「なんとか打てたな」程度の思いでした。

 1試合を投げ切るスタミナもありましたし、気持ちも強く、ピッチャーらしいピッチャーでした。おそらく、故障がなければ200勝も通過点にできたと思います。

 故障での引退だけに完全燃焼とはいえないでしょう。

 いまは悔いもたくさんあると思いますが、ひとまずご苦労さまでした。ゆっくり体を休めてください。 

写真=BBM

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