週刊ベースボールONLINE

名コーチインタビュー

DeNA・田代富雄コーチ “ポスト筒香”細川成也を中軸に育てたい

 

9年ぶりに古巣復帰。多村、内川、村田を手掛けた田代富雄コーチ


9年ぶりの復帰。感じたチームの雰囲気


現役時代からオバケのような特大ホームランをかっ飛ばし、「オバQ」のニックネームで愛された。コーチとしては多村、内川ら多くのスラッガーを育てながら、ユニフォームを着ることにこだわり、チームを離れたのが2010年。今季、9年ぶりに横浜に帰ってきた。目的はただ一つ、優勝に貢献できるスラッガーを育て上げることだ。
取材・構成=滝川和臣、写真=大賀章好、BBM

──9年ぶりに古巣ベイスターズに復帰されて、どんな気持ちですか。

田代 こうやって長いことユニフォームを着させてもらって、この歳までやらせてもらうことにまず感謝だね。あと何年も着ることはできないので、最後は自分が育ててもらった球団で終わりたいとは思っていたところ、ちょうど運よくベイスターズのユニフォームを着ることができた。本当にありがたいです。(キャンプ地の)宜野湾も楽天のときに練習試合やオープン戦で来ているけど、久しぶりだからね。

──チームの雰囲気はいかがですか。

田代 いいですよ。フロントや現場には私が知っている顔が何人かいるので、やりにくさもないし、溶け込めていると思いますよ。

──2010年湘南シーレックス(現DeNA二軍)監督を辞して、韓国、楽天、巨人で指導をされてきました。外から見るベイスターズはどんな印象でしたか。

田代 楽天で4年、そのあと巨人で3年コーチを務めてきました。オープン戦などで対戦するたびにいいチームになっているとは感じていたけれど、ここ数年は特にそう思わされていたね。野手では筒香(筒香嘉智)を中心にいい選手が出てきて、去年はソトが本塁打王。チーム力が上がって怖いチームになってきたなと感じていたよ。

──対戦する中でそう感じられたと。

田代 そうだね。打撃コーチとしてDeNAとは対戦していたけれど、最近では若く、生きのいい投手がいっぱい出てきた印象だね。とにかくボールが速くてね。先発では東(東克樹)は力強いボールを投げていたし、リリーフのパットンが二軍で調整登板したときも、ボールの速さ、強さに驚かされた。それだけチーム力が上がっていることは、二軍の試合を見ながらも感じてはいた。

──田代さんがベイスターズに在籍されたころは、素晴らしい打者が多かったですが、伝統的に投手が育ちませんでした。

田代 一生懸命に投げていた投手には申し訳ないけれど、確かにそうだったかもね。だから余計に最近の投手陣の充実ぶりには驚かされるよ。いいドラフトをしてるってことだよ。まあ大洋のころは勝っても負けても豪快な野球ではあった。勝ち試合は打線で圧倒、負けるときは大敗みたいなチームカラーではあったけれど、今とは時代も違うしね。単純には比べられないかな。

──10年までベイスターズで指導されていましたが、当時は若手だった梶谷隆幸選手、筒香嘉智選手の成長をどう見ますか。

田代 本人にも伝えているんだけど、梶谷は本当に見違えたね。入団したときはショートを守っていたけれど、足は速いがセンが細い。プロでやっていけるのかと不安に感じたのが正直な感想ですよ。でも、あいつは練習をよくした。打撃練習をやっていてもケージから出てこないし、徐々に階段を上っていって、あんなに素晴らしい選手になるとは想像できなかった。ちょっと最近は故障が多いみたいだけれど、これからの選手ですよ。

──筒香選手も入団1年目の10年に二軍で指導されていました。

田代 あいつは入団したときからモノが違った。高校卒業してすぐに入団してきて、松井(松井秀喜、元巨人ほか)、立浪(立浪和義、元中日)のような「これが高卒?」とド肝を抜かれたのをよく覚えている。スイングスピードが図抜けていたし、バットの“出方”もよかった。私が教えたことはほんのわずか。フォームを直す必要なんかなかったんだから。タイミングやフォームがズレたら少しアドバイスする程度だったよ。それよりも、筒香の良さを自分で認識させてやるほうが大事だった。私がベイスターズを離れたあと、少し苦しんだようだけど、筒香にはとにかく余計なことは言う必要はないんですよ。そういうコーチングでしたね。

──長所を伸ばすということですか。

田代 そう。打撃コーチだった中根(中根仁、打撃兼外野守備走塁コーチ)には「筒香のフォームがズレたら教えられるよう、フォームを目に焼き付けておけ」と言った。そして、見守ってやろうとね。それで十分なんです。今年、久しぶりに筒香と再会したけど、昔と変わらないね。人も良いし、野球が好きで、一生懸命。良い顔でプレーしてますよ。

筒香[写真右]とはルーキーイヤーの1年間、湘南[現二軍]の監督として指導した。今季は9年ぶりの再会となった


──筒香選手は新たな打撃フォームを試しているようです。

田代 いいですね。私なんかも現役時代はシーズンごとにフォームを試行錯誤してきた。自分で考えてやっているんだから、それはいいんじゃないですか。あとは実戦が始まって、どう対応していくかでしょう。

──打撃コーチとして指導哲学はありますか。

田代 人間というのは完璧じゃない。打撃に関しても周りから見ると、どこか気になる部分はあるものなんですよ。ただ、そこを修正することばかりにとらわれるんじゃなくて、打者のいいところを伸ばしてあげる。いいところをしっかり見てあげて、ブレないようにしてあげる。そうすると、段々と気になる部分もよくなっていくものなんです。気になる部分ばかりを指摘すると、逆にいいところが消えてしまう。一番怖いのが、気になる部分だけを指摘することで本人が、打撃フォームが分からなくなること。私も現役時代にそういう経験があった。もうワケが分からなくなって、終いには打撃マシンのボールですらバットに当たらなくなるほど混乱したからね。

──短所を指摘し過ぎてはいけないと。

田代 あとはいい加減なことは言わない。私は選手に打撃のことを聞かれて分からないときは「分からねえ」って言うから。コーチだからって偉そうに適当なアドバイスはできないよ。「俺も考えるから、一緒に答えを見つけようぜ」って言います。

今、田代コーチが熱視線を送るのが3年目の細川成也だ。ラミレス監督から「頼みます」と、若きスラッガーを託された


スラッガーの系譜。細川を中軸に育てたい


──多村仁志内川聖一村田修一、筒香らスラッガーを育ててきましたが、印象深い選手はいますか。

田代 周囲は育てたなんて言うけど、私は大したことはアドバイスしてないんだよ。そうした選手たちと一緒にやれたという運がよかったね。内川にしても何も言わずに、ただバットを振らせていただけだから(笑)。入団当時の内川を横須賀で初めて見たとき「これがドライチか?」と思ったよ。ひょろひょろに痩せてて、もやしみたいでさ。ただ打撃練習を始めると、ボールのとらえ方が違ったよね。

──今のDeNAの選手で可能性を感じる選手はいますか。

田代 神里(神里和毅)、桑原(桑原将志)、楠本(楠本泰史)も面白い。でも遠くに飛ばすのは細川成也だね。スイングスピードもズバ抜けているし、迫力を感じる。ボールを飛ばすための体の強さがある。いいスイングするやつって芯を感じるものなんだけど、細川はそれを持っているから。

──筒香選手の高卒3年目と比べていかがですか。

田代 筒香のほうが柔らかさがあったかな。細川には、もう少し力を抜く方法も覚えさせたいけど、それで本来の良さが消えたら意味がないからね。まずは、自分の形で振る。たとえ、崩されても振る。それに尽きるよ。

──細川選手には、始動についてアドバイスされたようですね。

田代 巨人の二軍コーチをやっているときに平塚でバックスクリーンに2本打たれた試合があって、いい打者だなと思っていた。でもテークバックしたときに、もう1回引く動きをしていて、その分投球に遅れている感じがあった。DeNAに来て、まずその点を細川に伝えたかな。今はいい形でボールが待てるようになっていますよ。

──コーチ就任にあたってラミレス監督からはリクエストなどありましたか。

田代 とにかく、細川に中軸を任せられるようにしてほしいというのが一番。細かいところは私だけじゃなくて、坪井(坪井智哉)コーチもいるからね。

──今季、チームの中で果たすべき役割をどうとらえていますか。

田代 選手が試合で力を発揮できるように、手助けをしたいと思っている。そして一軍は結果を求められる場所であるので、試合に勝たなければならない。1年1年、1試合1試合が勝負の世界。選手たちには、技術だけじゃなくて、気持ちの面でもいい状態で試合に臨ませたいね。

現役時代は横浜スタジアムで豪快なアーチを描いた。通算1526試合、1321安打、278本塁打、867打点、29盗塁、打率.266


PROFILE
たしろ・とみお●1954年7月9日生まれ。神奈川県出身。右投右打。身長184cm、体重90kg。藤沢商高からドラフト3位で1973年に大洋(現DeNA)へ。77年に35本塁打を放ってチームの看板選手となるも、リーグ最多の118三振。その後も「三振か本塁打か」という豪快な打撃スタイルでファンを魅了し、“オバQ”の愛称で親しまれた。三振王3回も、本塁打王にはついに届かず、91年限りで現役引退。最後の打席を満塁本塁打で飾った。その後も大洋・横浜でコーチを歴任し、2009年には監督代行として指揮を執った。12年からは楽天の打撃コーチを務め、13年の初優勝、日本一に貢献。16年から3年間は巨人で巡回打撃コーチ、二軍打撃コーチを務め、今季よりDeNAに復帰。

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング