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“春”を待つ男たち

侍ジャパン選出の“新世代サブマリン”高橋礼インタビュー

 

ソフトバンク高橋礼 アンダースローでありながら最速144キロを投じる


日米野球は大きなプラスに


変則ピッチャーの中でも、いまや貴重な存在となったアンダースロー。その中でも188センチの長身を目いっぱい使って、最速144キロを投じるのだから、さらに珍しい。希少価値の高い右腕は熱い視線を受け、ぐんぐんと成長を続けている。
取材・構成=菅原梨恵、写真=佐藤真一、BBM

 限られたチャンスの中で、いかに自分をアピールするか――。ドラフト2位で入団した高橋礼の2018年シーズン成績は、12試合に登板し、0勝1敗、防御率3.00。数字だけ見れば目を引くものはないが、アンダースローならではの地面スレスレから浮かび上がってくるボールを武器に、常勝軍団・ソフトバンクの投手陣の中で確かな存在感を示した。日本シリーズも経験し、シーズン終了後は日米野球の日本代表「侍ジャパン」にも選出。独特の軌道を描くボールでメジャー・リーガーをもうならせ、注目度は一気に増した。

――ルーキーイヤーはどんな1年でしたか。

高橋 シーズン終盤は一軍で過ごしましたが、二軍にも何カ月かいました。二軍にはいたくないという気持ちがハングリー精神を生んで、一軍で活躍したいなという気持ちが生まれた1年でした。

――その気持ちが生まれたのはいつですか。

高橋 2回目に落とされたとき(6月ころ)くらいからですかね。ロングリリーフ要員で呼ばれていた中で、打ち込まれたというわけではなく、優先順位的に落とされた感じでした。そのときは本当に悔しかったですね。

――悔しさを抱えながら、二軍ではどんなことに取り組んでいたのでしょうか。

高橋 全体的にレベルアップしなければいけないなとは思っていましたが、特に真っすぐの投げ分け。内、外の投げ分けをしっかりやっていくことが、そのときの自分には必要なことでした。

――やはりコースは重要。

高橋 多少厳しいボールでもプロのバッターは振ってくるので、少し甘く入ればヒットにもホームランにもなる。当初は、インコースに投げる怖さがありました。まだまだ慣れない部分もありますが、あえてそこに投げるというか、恐れずに投げるということは大事なことです。

――実際に対戦してみて、プロのバッターは違うと。

高橋 はい。ただ、自分で勝手に気負ってしまっていた部分もありました。「いいバッターだからコースきっちりに投げ切れないと打たれてしまう」という恐怖から腕が振れないこともあった。割り切れるようになってからは、少しは楽に投げられるようになりましたね。

――ターニングポイントとなった試合はありましたか。

高橋 一番最初に先発した試合(4月22日の日本ハム戦=札幌ドーム)では、自分の投球ができませんでした。緊張もしましたし、全然腕が振れなかった。ランナーを出せば、動揺もして。「このままじゃ埋もれていってしまう」と気付かされた試合です。

――それまでは二軍で2試合投げましたが、どちらも中継ぎでした。先発として気持ちをつくるのは難しかったですか。

高橋 気持ちというか、“普通に投げることが一番難しい”と感じました。

――1年目の自分に点数をつけるとしたら何点でしょうか。

高橋 50点くらいですかね。

――理由を教えてください。

高橋 やはりチームが一番苦しかった序盤から中盤にかけての時期に戦力になれなかったですし、後半チームが勢いづいてきたところで自分も入っていっただけなので。いい流れの中で投げさせてもらって、結果がついてきただけです。

――シーズンが終わってからは日米野球の日本代表にも選ばれ、メジャー・リーガーとも対戦しました。

高橋 メジャー・リーガーの場合、日本人選手以上にホームランの怖さがありました。カウントも関係ない。メジャーのバッターはアンダースローが苦手と言われたりもしますが、メジャーにも変則はたくさんいます。そこで三振を奪えたのはいい経験になりましたね。

――日本代表で、ほかの選手から学んだことはありますか。

高橋 先発をやっている岸(岸孝之楽天)さんや上沢(上沢直之、日本ハム)さんの毎日の過ごし方ですね。トレーニングする日はしっかりしますし、抜く日は抜いて、メリハリのある生活を送られているなと感じました。

――その上沢投手とはオフシーズンの自主トレも一緒に行いました。自主トレでも勉強になることがあったと思います。

高橋 先発は1週間に1回投げるわけですが、毎週毎週同じフォームで投げるのは難しい。「1つのフォームにこだわらないで、その日の体調とか体のバランスに合わせて、いろいろなフォームで投げられるようになると、調子の波があまり激しくならないよ」と教えてもらいました。

――昨季、調子の波を感じることがあったわけですね。

高橋 調子の波というか、日によって肩への負担の大小があるなというのは感じていましたね。加えて下半身の状態なども考慮して、今の自分に合ったフォームを微調整していけたらいいなと思いました。上沢さんのアドバイスを受けて自分なりにつかめてきている感じはあるので、精度を上げていきたいです。

昨秋の日米野球では2試合、4回を投げて自責点0。メジャー・リーガーを相手にも堂々とした投球で三振を奪う場面もあった


長いイニングを全力で


 3月9、10日に行われるメキシコとの強化試合(京セラドーム)で再び日本代表に選出され、注目を集める右腕であっても、12球団屈指の選手層を誇るソフトバンクの中でポジションを勝ち取ることは容易ではない。高橋礼にも慢心はない。一軍での定位置確保のため、キャンプでは体力強化、投球フォームを見つめ直し、開幕一軍を懸けた戦いが始まっている。

――開幕に向けての準備は順調ですか。

高橋 シーズンを戦い抜く体づくりのため、今キャンプの前半はランニングがメーンでした。下半身の強化という部分はすごく充実してできていましたね。投球フォームに直結できるような力の変換というのを含めて、これからは技術的なところをどんどん詰めていかなければいけないと思います。

――ランニングメニューはキツかったですか。

高橋 いや、若いんでそんなにつらくなかったです(笑)。20代後半の森(森唯斗)さんとか巨(東浜巨)さんとかが先頭を走っていたので、そこを追い抜いていかないと、と思って必死でした。

――先輩たちに負けてはいられませんね。

高橋 やっぱり結果を出している、実力ある先輩方と同じランニングをしていても意味がないので。そこを超えなきゃやっている意味がないなと思いますね。

――ランニング以外にも、実戦に入る前の練習の中では、スローモーションで投球フォームを確認している姿を見かけました。

高橋 「後ろの足(右足)にしっかり体重を残せて前の足を着く」ということを意識した練習です。基礎練習の段階で大げさに意識づけすることで、実際のピッチングでは無意識に、スムーズに投げることができるようになります。

――2月10日のブルペンでは、かなり長い時間、工藤公康監督から指導を受けていましたが。

高橋 股関節を安定させられるように、前の足(左足)の内転筋とお尻の使い方について指導していただきました。体の上と下が連動したタイミングで使っていくのか、独立して使っていくのかによって力の出し方も変わってくるので、どのタイミングがベストなのかをいろいろ試しながら、あのときは内転筋、お尻を重点的に意識してピッチングしました。

――フォームを見つめ直して、今は実戦に入ってきているわけですが、開幕に向けての自分自身のビジョンはありますか。

高橋 変化球でカウントを稼げるようにしたいです。新しい球種というよりは、今持っている球種でいつでもストライクが取れるように。特に昨季、投げていて、スライダーは使いものにならないなと感じました。だいぶ改善する必要があるかなと思います。今回、メキシコとの強化試合で再び日本代表に選んでいただいたので、建山(建山義紀投手コーチ。現役時代、サイドからのスライダーに定評があった)さんに教えてもらいたいです。

――逆に、自信のある変化球はありますか。

高橋 シンカーはしっかり腕が振れれば、勝負球にも使えるなという手応えを感じました。特に左バッターに関しては、三振が取れたり、1球で打たせてアウトを取れるボールかなと思います。

――昨季の経験から、先発、中継ぎ、どちらもこなすことができるのは高橋投手の強みです。高橋投手が考える先発・中継ぎの役割の違いを教えてください。

高橋 先発はその試合を決められるというか、中継ぎ以上に試合の責任を感じられるポジションかなと思います。特に週に1回しか投げないので、そこでいかに全力を出し切れるかという勝負強さだったりが必要になってきます。中継ぎは調子を安定させることが大事。試合の中での組み立てというよりは、一発勝負、そこを投げ切ったら良しというのが中継ぎです。勝負できるコントロールなどがより必要になってきます。

――今季、ズバリどちらがやりたいですか。

高橋 自分としては先発でいきたいですね。

――それはどうしてでしょう。

高橋 肩の負担など体のこともありますし、ピッチャーとして試合の責任を背負ってみたいです。

――勝利投手になってお立ち台に上がる高橋投手を期待しています。最後に、今年の目標を教えてください。

高橋 1年間、一軍で投げることです。そのために勝ち投手の権利の付く5回を超えても全力で投げられる体力、気力をつけていきたいです。

2019年の一語は『勝』


PROFILE
たかはし・れい●1995年11月2日生まれ。千葉県出身。右投げ右打ちの投手。専大松戸高から専大に進み、2年春に東都大学リーグ優勝、同夏にはユニバーシアード日本代表として金メダルを獲得した。18年にドラフト2位でソフトバンク入団。ルーキー年はシーズン後半以降、中継ぎとして一軍に帯同。ポストシーズンも経験し、シーズン未勝利ながら日米野球の日本代表でも活躍した。2年目は先発として開幕ローテ入りを目指す。18年は12試合、0勝1敗0H0S、防御率3.00。変化球はカーブ、スライダー、シンカー、シュート。

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