球界の主役
月日の経つのは早いものです。1994年ですから、もう25年前ですが、
オリックスで「イチロー」というカタカナの登録名にした選手がオープン戦から打ちまくっている、という話を聞きました。
実際のバッティングを見たのは、シーズンに入ってからの映像だったと思いますが、最初に思ったのは、「体があれだけ前に移動する中で、よく打てるな」ということです。
もしかしたら今の若いファンは知らないかもしれませんが、当時のイチロー選手のスイングは「振り子打法」と言われ、上げた足を一度、捕手側にぶらりとさせてから踏み込むようなバッティングでした。
「当てるだけ」「走り打ち」とも言われましたが、よく見ていくと、かなり前側ではありましたが、足を着いてから軸をつくり、しっかり軸回転でスイングしていました。決して当てるだけでなく、ボールに力が伝わるので長打もあり、真似しようとは思いませんでしたが、理にはかなっていました。
あの94年は史上初めてのシーズン200安打を達成し、そして95、96年はオリックスが連覇。まさにイチロー選手は、球界の主役と言える活躍をしていました。
対応力と工夫
イチロー選手のすごさは対応力の高さだと思います。ふつう結果が出ていると、なかなかフォームを修正できないものですが、変化を恐れず、常に上のレベルを目指す姿勢は素晴らしいと思います。
日本時代も徐々に前への移動が小さくなり、振り子というほどの足の動きはなくなりました。メジャーでは、さらに大きく変わり、足を大きく上げず、呼び込むようなフォームになっていきましたが、投手の自分への攻め方の変化、特にメジャーは球が速く、手元で動く球が多いので、それに対するものだったと思います。
彼がマリナーズに移籍後、2012年にも日本での開幕戦がありました。私はすでに引退していたので、解説者として東京ドームに取材に行ったのですが、もともと彼はドラゴンズファンだったそうで、いろいろと話をする機会がありました。
その中で「打撃で大事にしていることは」と聞くと、「踏み出す右足が着くまで間(ま)です」と答えてくれました。
そこを長くして間をつくり、ボールを見極めているということだと思います。イチロー選手に関しては、ほかにもトップからのバットスピードの速さ、ミートのうまさなど長所を挙げだしたらきりがない選手ですが、その中で足を着く間を一番大事にしているというのは、興味深い思いがしました。
実は
小笠原道大君(
日本ハムほか)をはじめ、私が素晴らしいバッターと思っている何人かから同じ答えをもらっていたからです。
まだメジャー昇格は正式決定ではありませんが、45歳になったイチロー選手が再びメジャーの一員として来日。なんだかワクワクしますね。
写真=BBM